EP20.中間試験VI-間違い続けた女、お願いする
フレイア・エテルファルシア:(15)
ノイン・メイヴィア:(15)
ロゼッタ・ホークリング:(15)
ミレイユ・カーテイラ:(15)
ミレイユと二人、ほんの少しのお散歩デートを楽しんだ後、宿の借りた部屋に戻った。
今からノインに謝らなければならないのだ、意を決して部屋の扉をばんっ、と大きく開け放って一言。
「私たち、結婚します!」
突然のことに泡を吹いて倒れるノイン。
ロゼッタは手にしていたカップを落としてしまった。
落ちたのがカーペットの上だったので割れることはなかったが、溢した飲み物は拭いておかないとシミになってしまう。
「え、ええと……ミレイユ? あなたフレイアを探しに行ったはずでは?」
「探しに行ったからフレイアも一緒にいるんじゃない?」
「いえ、そういう事ではなくて……結婚するってどういうことですか?」
呆れた目で私とミレイユを見ながら説明を求めるロゼッタ。
説明してあげたいがミレイユと私の大事な大人エピソードをお子様ロゼッタに話すのは少しはばかられる……。
「もう~、結婚なんてフレイアの冗談に決まってるでしょ? 少しお話して元気になったみたいだから連れて帰ってきたの!」
「ミレイユ、私は本気だよ!?」
「そ、そ、そ、その結婚、お父さん許しません……!」
「面倒なのも起きまして……もう滅茶苦茶ですわ!」
倒れていたノインが意識を取り戻し、会話に加わったことにより混沌を極めるのでロゼッタはうんざりとした様子。
私は本気ですけどね?
しかしながら、この流れではいつまで経っても本題に移れないので強引に切り上げさせてもらう。
「あーあー、んっ、んっ、ん……。……ノイン、ごめんなさい! それにロゼッタも心配かけてごめんなさい!」
謝罪すると共に二人に向けて目一杯頭を下げた。
ミレイユは何も言わず静かに見守ってくれている。
こうして二人に謝るのは二回目になってしまったが……許してくれるだろうか……。
「フ、フレイア……」
肩に手が置かれ、顔を上げるとノインが立っていた。
「ミ、ミレイユは泥棒猫……わ、私と結婚するべき……!」
「嫌だけど?」
泥棒猫って……、と苦笑するミレイユに、がっくしと肩を落とし項垂れるノイン。
真面目な話をする流れにしたのだからちゃんと聞いて欲しい。
「ノイン、真面目な話をしてるんだから、ふざけてないでちゃんと聞いてよ」
「フ、フレイア我儘……ふざけてなんてない……!。じ、自分の気持ちを押し付けてばかり……。わ、私たちの気持ちも少しは受け止めてほしい……!」
「我儘……気持ち……」
いじけたように膝を抱え、頭を埋めるノイン。
ノインが言った言葉を頭の中で反芻する。
ノインが言う通り、私は我儘なのだろうか。
いや、ノインがそう言うのなら、そうなのだろう。
いくら自分で考えたとしても、自分の主観と他人の客観では見えるモノが異なる。
だから、きっと私は我儘なのだ。
言葉は違えどミレイユが言ったことも、たぶん同じことなのだろう。
自分の気持ち――みんなを大切に思っているからこそ傷ついてほしくない。
みんなの気持ち――私を大事に思っているからこそ信頼してもっと頼ってほしい。
その気持ちを私だけが、みんなに押し付けてしまった。
ノインはみんなを信頼していたからこそ、今日の戦い、無茶なことをした。
みんななら絶対に時間を稼いでくれる、だから、みんなのためにブリッツベア二体を倒すことを選んだ。
ノインにとって私は友達で、ロゼッタ、ミレイユもまた同じく友達だ。
浴場でノインが言ったのは、私の力になりたいということではなかったのだ。
みんなの力を合わせれば、これだけの無茶をすることだってできる……だから、もっと私に信頼してほしいと。
独り善がりな私の馬鹿な勘違い……みんな同じことを思っていたのだろう。
ミレイユとノインに言われて、やっとそれに気づくことができた。
それでも気づかなかったら、ロゼッタだって同じことを言っただろう。
……みんな、ありがとう。
「た、たとえフレイアでも今回ばかりはゆ、譲れない……!」
ノインの目は真っ直ぐ、強い意志で私を見ている。
そんなノインの想いに、私も応えなければいけない。
「ノイン……」
私はそっとノインの後ろに移動し、優しく抱きしめた。
「!? フ、フレイ……ア……?」
「恥ずかしいから一度だけ言うね? ――――――ありがとう」
声を抑えて耳元でノインにだけ聞こえるように言った。
かあっと真っ赤に耳を染めたノイン。湯上り直後のように顔も真っ赤になっている。
でも恥ずかしいから、ここからは照れ隠しをさせてもらう。
「……でもね。もっとしっかり話せ! そのまどろっこしい話し方のせいですれ違いになるのよ! やめないと絶交だから!」
「ふ、ふええ……フ、フレイアが怒った……」
「ほらまた!」
「あぅ……」
私たちのやり取りを見守ってくれていたロゼッタとミレイユも、それを見て吹き出した。
どうか、みんなに私の熱くなった耳がバレませんように。
…
……
………
ノインにお礼を言ってから、少し騒がしくなってしまったので落ち着くまでみんなではしゃいだ。
ノインとミレイユからだけ乙女の波動を感じる、とロゼッタが自分にもいい感じのことをしろと迫ってきたが、そんなことを言われては、自分からいい感じにさようならをしてしまっていることに気付いていない。
なので、そのいい感じはまた今度にお預けだ。
「えー、みなさん落ち着きましたか? これから重要なことをお話しなければなりません」
ぱんぱんと二回手を叩いて三人の注目を集める。
「はーい、フレイア先生お願いしまーす!」
「フ、フレ……! ……フレイア、先生、似合ってない」
「座学の成績……フレイアに負けているのは納得いきませんわ」
勝手なこと言ってないで二人はミレイユを見習い、話を聞く準備をしなさい。
ノインは話し方が変な方向に進化してるし、ロゼッタは人の成績を妬む前に勉強しなさい。
「これからミレイユに事件のことを話します。何か質問がある人は?」
「は、はい……! ミレイユ、フレイア、奪った雌豚、信用できない」
「流石にそれは怒るよ、ノイン!?」
「私の嫁を悪く言うと死刑ですよ、ノインさん?」
「嫁でも雌豚でもないからね!?」
華麗にツッコミを決めるミレイユも可愛い。
こんなに可愛い反応をされると少し……少しだけいじめたくなるのは仕方ないよね。
「まったく、あなた方は少し落ち着くということを知るべきですわ」
……どの口が言うか。その口撃はブーメランだとわからせてやる必要があるようだ。
「……はい、ノインさん。入学二日目、あなたに決闘を挑んできたのは?」
「……ロゼッタ!」
「次はミレイユさん。あなたの魔法も戦い方も確認せずパートナーと組もうと言ってきたのは?」
「ロ、ロゼッタかな……」
「真に落ち着くべき人が見つかったみたいですね。ロゼッ……し、死んでる!?」
椅子にもたれかかり、白目を剥いて逝ってしまったロゼッタ。
自分が放ったブーメランで自身の首を落としてしまうとは……さぞ苦しかっただろう。
とりあえず静かにはなったので話を続ける。
「とりあえず静かになったので、説明したいと思います。――――」
ノインとロゼッタが聞いている中、私は事件のことについてミレイユに話した。
女神教会にお母さんが攫われたこと。
女神教会の本当の狙いが私だったこと。
その時クレストール先生、ノインとロゼッタの二人が助けに来てくれたこと。
私の両肩の怪我は王国軍騎士団長アレクシアと戦って負傷したものだということ。
その後、アレクシアとは話をして放課後、魔法の修行をつけてもらっていること。
「ってことがあって今に至りま……ってミレイユ泣いてる!?」
説明を済ませ、どんな反応が返ってくるのかとミレイユを窺うと嗚咽を漏らし、泣いているのだから体中から血の気が引いていく。
どうして泣いているの、どうすればいい、何か声をかけるべきか、謝るべきか……答えが出ずに頭の中がぐるぐる回る。
私があたふたしているとミレイユから話しを切り出してきた。
「ご、ごめんね……びっくりさせちゃったね。……わ、私フレイアがこんなに大変な目に遭っているなんて知らなくて……それを無理矢理聞き出すようなこと言っちゃって……」
「それは違う! 私は……あなたから私のところに近づいてきてくれたから、ノインとだって仲直りできたの! ミレイユは何も悪くない、むしろ感謝してるの!」
「それでも……こんな……辛すぎるよ……」
拭っても拭っても溢れ出す涙を止めることができないミレイユ。
いくら友達であろうともこれだけのことを聞かされては、愛想を尽かされても仕方ないと思う。
それでもこんなに親身に、真剣に考えてくれるミレイユが友達でよかった。
「辛くてもやっぱりお母さんだもん……私は逃げられない。けどミレイユは……ううん、これはノインもロゼッタもだよ。無理に私に付いて来ようとしなくていい。だからもういちぶぶっ――!?」
「馬鹿っ!! 何度も言わせないでください! それ以上は私たちに対する侮辱と見なします!」
生き返ったロゼッタの強烈な平手打ちが右頬を襲う。
ロゼッタはその目に涙をこらえ、私にそれ以上は言わせないと必死に言葉を紡いでいる。
痛い……痛いけれど痛いほどにその想いが伝わってくる。
「……フレイア、鈍感、鳥頭。……二回目は嫌だよっ……!」
二回目……。
……そうだ、ノインとロゼッタは一度アレクシアの前で覚悟をすでに決めているのだ。
たぶん、相当な葛藤があったと思う。
鈍感も鳥頭も、もはや私のための言葉ではないか。
それをまた私は二人に強いてしまったのだから。
だから、今度は私から……私から言わなければならないのだ。
「……私、間違ってばかりだ。間違える度にみんなを傷つけて、自分だって傷つけて……! 今度はきっと間違えない。だから……私にチャンスを下さい」
ノイン、ロゼッタ、ミレイユ……一人一人の顔をしっかりと見てから、頭を下げた。
みんな、何も言ってくれない。
そう何度もチャンスが巡ってくること自体がおかしいのだ。
今度こそみんな、私を許さないかもしれない。
けれど、私にはこうすることしかできない。
「……私は何度だって、いいって言うよ。……フレイアが友達だって言ってくれたから」
ノイン……。
「……私はそんな機会を与えないほど狭量ではありません。信じています」
ロゼッタ……。
「……私が取り乱したりしたからだけど……私だって二人に負けないぐらいもう、フレイアの友達なの。だから、大丈夫だよ!」
ミレイユ……。
――――みんな、ありがとう。
大きく息を吸って深呼吸をして、息を整える。
息を整えたはずなのにこんなにも胸が苦しいのは、みんなの想いをしっかりと受け止められたからだと思う。
だから私からみんなにお願いをする。
「……どうか私にみんなの力を貸してください。お願い……します……!」
しばらくの静寂の後、誰かが私の頭にぽんと、手を置いた。
それがぽんぽんと、二回続き三人の手が頭に置かれたことがわかる。
三人は私のお願いを聞いてくれるということでいいのだろうか?
頭を上げていいものか逡巡していると置かれた手が、ぐりぐりと頭を撫でまわす。
撫でまわす。いや……力強くない? これ禿げるって!?
「ちょっと、三人ともそうやってすぐにふざけるんだから!?」
逃れるために手を振り払い、強引に頭を上げると三人の顔が目に入ってきた。
みなそれぞれ、目の端に涙を浮かべているが、その表情は柔らかく笑っていた。
「勉強はできるのにこういうことは壊滅的なのですから……困ったものですわ」
「でもそれがフレイアって感じがする!」
「……フレイア、は、フレイア」
「お前はさっきまでちゃんと話せてただろうが! それで、どうなの!? お、お願い……聞いてくれるの!?」
場の雰囲気に流されて深く考えないまま話を進めてしまい、今になって気恥ずかしくなり、顔が熱くなる。
こんな時にみんなしてからかってくるのだから質が悪い。
「……聞きたい?」
「わざわざ言う必要がありまして?」
「言ってほしいんだよね~?」
三人ともさっきの真剣な表情はどこに捨ててきたのか、そのにやけた顔が非常に私の神経を逆撫でする。
「やっぱり、お願いなんてしなければよかったーーーー!!」
そう捨て台詞を吐いて私はベッドにダイブして頭を埋める。
「フレイア、逃げた……!」
「疲れたし私も一緒に寝ちゃお!」
「ま、まあ、こんな機会あまりありませんし、私もご一緒しましょう」
そう言って三人は次々とベッドに押しかけてくる。
一人用のベッドなので四人で寝るには狭すぎて、ぎゅうぎゅうになってしまった。
「ちょ、きついって! 自分のベッドで寝ればいいでしょ!?」
「今日は疲れたのでもう動きたくありません」
「フレイアは一緒に寝たりするの嫌だったりするの?」
「……い、嫌じゃない……嫌じゃないからもう寝る! って、ノインはもう寝てるし!?」
隣を見るとノインはすでに寝息を立てて夢の中、今日一番頑張っていたのだから無理はないか。
目にかかった前髪をそっと除けてあげると可愛らしい顔が露わになった。
こうしていれば本当に可愛いのに、そうではないのがノインの悪いところだ。
ロゼッタとミレイユも眠気が限界にきているようだ。
緊張が解けたせいか、私にも気持ちのいい眠気が襲ってきた。
それに抗うのをやめてみんなが眠るベッドに私も沈む。
三人とも、おやすみなさい。
二日に一回投稿しようとしたんです……。
金曜ロードショーがヴァイオレット・エヴァ―ガーデンだったんです……。
許してください……。




