EP19.中間試験V-すれ違いとイケてる女
フレイア・エテルファルシア:(15)
ノイン・メイヴィア:(15)
ロゼッタ・ホークリング:(15)
ミレイユ・カーテイラ:(15)
クレストール・リヒテンタルト:(44)
街の宿に戻る帰途は、大変静かだった。
ブリッツベア二体、エンシェント・エイプを相手に戦い、魔力を使い果たし、疲労も困憊。私を含め、誰も自分から話すことはなかった。
そんな私たちを労うように、クレストール先生が街までの先導を名乗り出てくれた。
試験を行う立場にある教師が試験期間中に生徒に手を貸しては公平を欠くと思われるかもしれないが、ボロボロの状態の私たちがこのタイミングで魔物に遭遇すればどうなるか分からない。
決して言葉にはしないがそんな意図があるのだろう。
森を抜けるまではたまに先生が私たちの様子を確認するように声をかけ、それに対し返事をするぐらいで気がついたら街に着いていた。
先生はまだやることがあると言って学院に帰って行き、先生と別れた私たちは誰も何にも言わず、宿に直行した。
まったく、先生は本当に教師の鑑のような人だ。
宿に着くとシャワーを浴びるよりも先に夕飯を頼んだ。
泥まみれになってしまった制服からシャワーを浴びて早く着替えたいとも思ったが、先に何か食べなければ倒れてしまいそうでそちらを優先した。
食後は少しだけ余韻を残し、宿の浴場を借りさせてもらった。
私はシャワーだけでもよかったのだが、ノインが強く浴場を推すので反対はしなかった。
たしかにあれだけの激闘を繰り広げたのだから、湯船に浸かりたいというノインの気持ちもわからなくないからだ。
「フ、フレイアのおっぶぶぶぶぶっ!?!?」
前言は撤回、邪な気持ちなどわからない。変態には湯攻めの刑だ。
「はあ……はあ……し、死ぬかと思った……」
「ノインが死んだら必要なポイントが30Pに減って楽できたかもね。今日だけで10P稼げたわけだし」
「あ、あはは……先に生徒指導で試験どころじゃないと思うけどね……」
いつも通りの私たちを見て苦笑するミレイユを他所に、いつもならすでに話の輪に加わっているはずのロゼッタが静かだった。
疲れていると言われればそれまでだが、何か考え込んでいる様子だ。
「さっきから大人しいけどロゼッタどうかした?」
「えっ? ああ、いえ、少し考え事をしていました」
「か、考え事……ど、どうしたらそんなに大きくなるの……?」
「いえ、ノインのまな板の話ではなくて、今日の戦い……どうしてノインはフレイアの言葉を無視してブリッツベア二体に攻撃したのですか?」
「たしかに……狙いを一体に絞ればもっと早くに魔法を発動することだってできたんじゃない?」
ロゼッタが指摘したことは私も気になっていたが、流石にまな板は可哀想だろう。慎ましいと言ってあげて?
それにミレイユの指摘もそうだ。
そう単純な話ではないのだろうが、あの巨大な結晶の槍で敵を貫く魔法……それが消耗したブリッツベアにだけ発動されていたなら半分の時間で済んだのではないかとどうしても考えてしまう。
結果的に魔法陣が完成するまでもたせることができたが、一歩間違えばみんなを危険に晒していたのだ。
エンシェント・エイプの乱入があった時点で戦いを続行する決断を下した私が言えたことではないが……。
「か、勝手をしたことはあ、謝る……。で、でも、知りたかった……私たちの今の実力……私たちならできると思ったから……!」
仮に謝るべきならばみんなに対してのはずなのに、ノインは私だけを見てそう言った。
その目は何かを強く訴えているようで目を逸らすことができない。
きっとノインは実戦で自分たちの力を知ることで、自分を置いて行った私に自身の価値を訴えかけているのだろう。
現状の自分の実力を実戦的に知りたい気持ちはたしかにあった。
だが、それは中間試験で行うべき事なのだろうか。
私だけ……譲歩して同じくアレクシアの修行を受けているロゼッタまではいいだろう。
だが、ミレイユは?
私たちの事情など欠片も知らないミレイユはただ危険に巻き込まれただけ、そう思ってしまうのだ。
……私の勝手な事情で他の人が傷つくことは許せないのだ。
「……ごめん。ちょっとのぼせちゃったみたいだから先に上がってるね」
ノインだけを責めることはできない。
だけど、何を言っていいのかもわからず、私はその場から逃げるように去ることしかできなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
逃げてきた先は宿の裏手にある小さな物見台。
最初に宿を訪れた際、目に入ったので気になっていた。
物見台に登ると周りの建物よりも少し高くなっており、夜の街がよく見渡せた。
けれど、のぼせたと言って出てきた手前、こんなところにいるのを誰かに見られたら怒られてしまうのだが、どうしても今は部屋に戻る気にはなれなかった。
「……私、最低だよね」
元を辿れば私がノインを置いて行ったことに原因がある。
ノインを危険に晒すようなことはしたくなかった。
けれど、そう私がノインを想うように、ノインも私の力になりたいと思ってくれたのだろう。
それを突き放すように出てきた私は、本当に最低だと思う。
「フレイア! こんなところにいた!」
いきなり後ろから声をかけられ思わず肩がびくっとなってしまった。
振り向くとミレイユが物見台を登ってきていた。
「ミ、ミレイユ……えっと、よく私がここにいるってわかったね……」
「ん、わかったというかフレイアのチョーカーだよ。街の灯りに照らされてその宝石が赤い星みたいに光ってるのが見えてさ……いつも着けてるからフレイアかな……って」
ミレイユの言う通りこのチョーカーはよく目立つため、目印になる。
このチョーカーをもらった日から着けなかった日はないためなおさらだ。
それほどまでにこのチョーカーは私に馴染んでいた。
「このチョーカー……ノインとロゼッタにもらったんだけど実は首輪なんだよね」
「首輪……どうして?」
苦笑する私に不思議そうにミレイユが聞いてくる。
「私、しばらく学院に通えてなかった時期があると思うんだけど……その時にちょっとした事件に巻き込まれちゃってね。それで二人が無茶しないようにって贈ってくれたんだと思う」
「あーっと、ごめんね。私が気になったのは"首輪"ってとこで、ノインとロゼッタから聞いてて二人が贈ったものだってことは知ってたんだよね」
「えっ? そうなの?」
「うん、あの二人といると聞いてもいないのにフレイアのことばかり話すんだもん。耳にタコができそうだったよ。……でもね、あまりに楽しそうに話すから私も笑っちゃうんだよね」
耳を塞ぐようにして見せて笑うミレイユ。
私は朝、登校し席に着く時間が遅いため友達であるノインとロゼッタ、ミレイユは自然と三人で雑談をするのだろう。
三人でいるところもよく見ていたし、ミレイユと友達になる前だ、そんなことを話していたとは知らなかった。
「それで、そのチョーカーの話を聞いた時もすごく嬉しそうに、毎日フレイアが着けてるチョーカーは私たちがプレゼントしたって言ってて、首輪だなんて一言も言ってなかったから、不思議に思ってね」
「あ、あはは……私、この首輪を肌身離さず着けておけって渡されたんだけどな……」
初めて知る事実に思わず乾いた笑いが出てしまう。
まあ、本当に首輪だとは思っていなかったけれど。
「そんなの照れ隠しに決まってるじゃん! あの二人も、フレイアも、頑固だからなあ……」
「ミレイユにはたくさん迷惑かけてるよね……ごめんなさい……」
「いいよ、許してあげる!」
とびきりの笑顔で笑うミレイユに思わず頬が熱くなる。
ミレイユは許すというがそんな簡単な問題ではない。
「許すってミレイユは簡単に言うけ――!?」
ミレイユの人差し指が私の唇に触れて、言葉を遮られる。
「知ってるから、許すんだよ。三人が何かを内緒にしてること。三人が放課後に模擬戦闘場で修行してること。……三人がそれぞれ友達を大事に思っていること」
「……ミレイ……ユ……」
そっと離れる人差し指。一瞬前の感触なのにそれがすごく恋しいと胸が高鳴る。
「私だって三人の友達……話せないことなら聞かないし、待ってほしいなら待つ。たとえ事件に巻き込まれても許すし、一人じゃ辛いなら力だって貸すんだよ? ……えへへ、ちょっと格好つけすぎたかな?」
互いが互いを想うからこそ、その想いを違えた時に辛くなる。
ミレイユは笑っているが、平和な日常に一人だけ仲間はずれにされているような疎外感を感じて辛いのだ。
だから、傷つく覚悟をしてもそれを許して、本当の想いを伝えたのだ。
「ずるいよミレイユは……イケメンすぎる。女の子なのに惚れちゃったもん」
「えへへ……もしかして責任取らされちゃう?」
「もち、責任を取って私と結婚してもらいます!」
「フレイア強引!? 不束者ですがよろしくお願いします!」
一通り冗談を言い合って笑い合う私たち。
夜風が連れてきた肌寒さにくしゃみをしてしまう私。
「部屋……戻ろうか」
「……うん、戻ったらノインに謝る。ロゼッタも心配しただろうし、それも。それが済んだら……ミレイユにも全部話します」
「わかりました、待ちます」
私たちは手を繋いで宿の部屋に戻った。
ミレイユの手は震えていた。
寒さで震えていたのではない。強く、強く握られていた。
ミレイユは本当に想いの全てを私に教えてくれたのだ。
だから、これから私もその想いに応える。
それが大切な友達に対するけじめだと思うから。
他のノベル作品を見返して、自分が最近書いた文章を見直すとすごく薄いと感じる(当たり前)。
なので更新頻度落して書き直したりもっと練ってから投稿するかもしれません……
読んでいただいてる方々には感謝です!




