EP17.中間試験III-VS森の愉快な動物たち前編
フレイア・エテルファルシア:(15)
ノイン・メイヴィア:(15)
ロゼッタ・ホークリング:(15)
ミレイユ・カーテイラ:(15)
クレストール・リヒテンタルト:(44)
当面の計画が決まったので、さっそく西の森テルミナに向かうために私たちは教室を出た。
教室を出るとクレストール先生が、教室を出る生徒たちの様子を窺うように立っていたので声をかけた。
「あれ、先生どうしたんですか? 教師陣は見回りに行くって言ってましたよね?」
「見回りはこれからだ。ランクB以上に挑むなどと言い出す馬鹿がいないとも限らん。それでお前たちのパーティはどこに行くか決めたのか?」
大丈夫です、今回その馬鹿の中に私は入っていません。
「はい、西の森テルミナに熊と蛇を狩りに行きます」
「……それは……誰が考えたんだ? 戦い方についても話したか?」
クレストール先生が一瞬言葉に詰まった。
何かおかしなことを言っただろうか?
しっかりプリントにも目を通し、配点的にランクB以上の魔物の討伐はやはり厳しいだろうことは伝わってくるので、そこはちゃんと避けた。
戦い方についても話し合ったので大丈夫だ。
まさか、私たちこそ、ランクBを狩りに行くと言い出すと思っていたのだろうか。
残念ながらその期待には応えられないので、特に問題はないと思うが……。
「? 最初に戦闘配置を決めて、ノイン、ロゼッタ、ミレイユが前衛。私が後衛になりました。討伐目標については一応、皆で考えましたけど……あ、ノインがフレイアはいいからって前衛組だけでほとんど決めたんですよ、酷くないですか!?」
「はあ……。やっぱりお前がいるとろくなことにならんのだな……。私も見回りとして付いて行こう」
今回の計画に関して私は、本当にほとんど口を挟んでいない。流石に言いがかりですよ先生!?
「先生、今回に関しては私、悪くないんですって!? って、ランクBなんて狩らないのになんで付いてくるんですか?」
「教師には危機管理能力もあって然るべきだ。問題を起こすであろう、お前たちに付いて行くのは当然と言っていい」
「……だってさ、ノイン、ロゼッタ。二人の主導で決めた計画なんだから私は悪くないからね」
教師として問題児を見張るのは当然というわけか。
であれば今回それは、私ではなくノインとロゼッタだ。
「フ、フレイアのせい……」
「フレイアのせいですわね……」
「おい。まずはお前らの討伐が必要か?」
自分たちで決めておいて、責任だけは私になすりつけようとはこいつら許せん。
ミレイユの責任は全部とってもいいけど。むしろ取らせて?
「パ、パーティリーダーはフ、フレイアで提出したから……せ、責任は全部フレイアに行く……」
「初耳なんですけど!?」
「い、言っても絶対に適当でいいんじゃない? ってなるからい、言わなかっただけ……」
……いや、まあ、そうなんだけどさ。
一言ぐらいは……いや、言ってくれたらちゃんと聞いてたと思う……よ?
「……まあ、今から狩りに行かないとだからそういう事にしておいてあげよう」
「そうですわ。毎日学院から森に行くのは時間がかかりすぎます。野営の装備は準備しておりませんので、先に宿の確保しなければなりませんし……」
「そうだね……時間を大切にする意味でも野営よりは宿がいいかも……」
「う、うん……」
学院から西の森テルミナまでは、片道約4時間近くかかる。
それを毎日往復などしていては、時間効率が悪すぎる。
野営でもいいのだろうが、狩りの後にさらに作業する元気なんてとても残っているとは思えない。
そうなるとやはり、宿一択だろう。
「じゃあ、皆宿で異存はないみたいだし急ごうか」
クレストール先生はまだ何かあるのか、眉間を寄せているが流石に試験ということもあって口を挟むこともない。
本当に危険が迫れば割って入るのだろうが、そうでないならギリギリのところで保っているらしい。
皆の顔を見回すと、それぞれ頷いてくれた。皆覚悟はいいようだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
中間試験期間中の拠点となる宿は無事に確保することができた。
西の森テルミナに入って探索を始めて、すぐに目標であるブリッツベア二匹と遭遇できた。
ブリッツベアとの戦闘は初めてになるため、単体でまずは戦闘できればよかったのだが、そこは自然が相手となる文句は言えない。
しかしながら、パーティ四人で40P稼がなければならないため、初日から二匹も遭遇できたのは運が良かったのかもしれない。
ブリッツベアとの戦闘も順調……順調だった。
ノインが≪透明化≫の魔法を発動し、二匹のブリッツベアを分断。
私、ロゼッタ、ミレイユの三人でブリッツベア一匹を相手にできる好状況を作りだしてくれた。
ミレイユは小型の剣を二本一対とする双剣を使って戦うようで、その戦い姿は舞いを踊っているようで美しい。
さらに水の魔法を得意としているようで、剣撃の合間にその魔法を挟みブリッツベアを翻弄していた。
そして、ブリッツベアの背後に回り込んで、ロゼッタと挟み撃ちとする理想の形となった。
そんな二人に私は≪祝福≫の魔法で強化支援を施した。
アレクシアの指導により、以前よりも細かい魔力操作が可能になったため、彼女たち自身ではなく彼女たちの私用装備を対象に強化を施した。
≪祝福≫による身体強化の効果はそこまで高くなく、その少しの効果のために魔力を費やすのなら装備の火力強化に回すことで魔力消費を抑えつつ攻撃力を高め、長時間の安定した強化ができるようになった。
ここまでは順調、問題はロゼッタだった。
私、ノイン、ミレイユは近接武器で戦闘を行うため、どうしても自分の武器の"音"を気にすることはほとんどないため、そこに思い至らなかった。
ロゼッタの使う魔法機銃は射撃の際、かなり大きな音を出してしまう。
その音は森中に響き渡り、ブリッツベアとの戦いに集中していた私たちは、それが現れるまで気がつかなかったのだ。
「やはり私の判断は正しかったな。フレイアがいるパーティは絶対に問題を起こすと」
「いや、今回悪いのはロゼッタで私は悪くありませんよ!?」
そうだ、自分の使う武器の特性は戦う上でかなり重要になる。
把握しておくのは当然だ。
「パーティメンバーの動向や戦い方をしっかり把握していなかったのだから、一概には言えんな」
「そ、そうですけど……」
クレストール先生の言葉は耳が痛い。
ノインが勝手にパーティリーダーに推薦したというのは簡単だが、私を中心としたメンバーで組んだパーティだ。
知らなかったと吐き捨てるの無理があるか。
「……あれは古くよりこの地を守護しているとされているエンシェント・エイプ。普段は森の奥深くで過ごしているため、その姿を見ることすら珍しい。非常に知能が高く、大人しいはずだが……この轟音では仕方あるまい。ランクはA……撤退を進言しよう」
クレストール先生がそう言うだろうことは、なんとなくはわかっていたことだ。
仮に得点が決められていたとしても普通は挑もうとしない、自分たちの判断力を試すための項目なのだろう。
それか、過去にランクAの魔物を倒した者がいて得点を認めざるを得なかったかだ。
しかし、目の前に20Pが現れたとなると、少しだけ興味が湧いてしまうのは性なのだ。
「ちなみに、今ノインが必死に時間を稼いでくれてますけど、この試験でランクAを倒した生徒っていましたか?」
「私が教師をしている間はいないな」
「その言い方だとその前はいたように聞こえますけど?」
「アレクシアだよ」
「あっ、はい。聞いた私が馬鹿でした」
アレクシアの強さは学生の頃から、すでにそれほどの領域に達していたのか。
お母さんは大学院まで行っていたらしいから、その頃から師事してもらっていた可能性もあるのだろうが、学生のアレクシアが倒せた強さのモンスターを私たちは相手にできるのだろうかと、どうしても考えてしまう。
「今すぐ私が助けに入り、この場からパーティを安全に離脱させてもいいが、教師のヘルプが入ったらその日の活動は強制的に終了となる。判断はリーダーである君に任せる」
クレストール先生は私に判断を任せてくれた。
私にとってそれは大きな意味を持つ。
先生は事務的にそういったのかもしれないが、私は一度先生の言いつけに背いているのだ。
ノイン、ロゼッタ、ミレイユ……三人の命を危険に晒すかもしれない大事な選択……間違えるわけにはいかない。
今の状況はノインがブリッツベアとエンシェント・エイプの二体を引きつけて、時間を稼いでくれていて、残りの三人でもう一体のブリッツベアを相手にしている。
強力な魔物二体を相手にノイン一人では危険、まずはノインの安全を確保したい。
その次は三体の魔物をどうするかだ。
一体も倒せていないためこのまま即時撤退してしまうと0Pとなり、今日狩りを行う時間も残らないだろう。
それならば先生に助けを求めても同じことだろう。
だが、この状況で即時撤退を選んでもいいのか……。
ランクAの魔物の強さをその身に知らない以上、即時撤退は間違いではないはずだ。
だが、それではかなり消耗させたブリッツベアからも撤退してしまうことになり、ポイントは手に入らない。
それでは時間を消費しただけで、何も得られていない。
明日以降、同一個体と戦える保証もなく、今日のことを鑑みると計画も再考しなければならない。
なにより私が即時撤退は嫌なのだ!
だから、まずはノインをこちらに戻し、四対三の状況にする。私が後衛であることを考えると一人一体を相手取ることになるが、こちらは連携できるため、それほど悪い状況ではないだろう。
その後、タイミングを作り、消耗させた一体に集中、速攻で倒して撤退する。
それができれば及第点、これで行くと決めた。
「……先生。もう少しだけ自分たちでやらせてください。厳しいと思ったらすぐに割って入ってもらって構わないので」
「ふん。そんなことはわかっていたことだ。早くしないとノイン・メイヴィアがやられるぞ」
「! はい! 見せてあげますよ、少しだけ成長した私たち!」
クレストール先生にそう宣言し、前に進み出る。
「みんな、一回体勢整えるよ!」
「う、うん……!」
「了解ですわ!」
「オッケーだよ!」
それぞれの敵と向き合いながらも、三人からまだやれるという思いが伝わってくる。
きっと私と同じ気持ちで、そう気持ちを合わせなければすぐにでもクレストール先生が割って入る事態になる。
そうならないように、私たちは力を合わせる。
覚悟するがいい、森の愉快な動物たち……!
寝るまでが今日だからセーフ……セーフですよね?




