EP14.魔法を使えない理由
フレイア・エテルファルシア:(15)
ノイン・メイヴィア:(15)
ロゼッタ・ホークリング:(15)
クレストール・リヒテンタルト:(44)
アレクシア・ベル・フルール:(32)
久々のバルメデアラ魔法学院、実に二週間以上ぶりの登校になる。
今は学院寮にお世話になっているので同じ敷地内にはいたのだが、療養のため校舎の方には長らく足を運んでいなかった。
教室に入るとすぐに私に気づいたノインとロゼッタが駆け寄って来た。
私がいなくても二人で一緒にいるのを見るとずいぶんと仲が良くなったと思う。
ノインに至っては、他のクラスメイトとも話せているようだし成長しているようだ。
「フ、フレイア……! あ、会いたかった……!」
「フレイア! もう、お待ちしていたんですよ?」
「ごめんごめん。ちょっと厄介なメンヘラに絡まれてさ……あ、ノインもメンヘラにはならないようにね」
「……???」
何のことかわからないといった顔で首を傾げるノインだが、涙なしには語れない話があったのだ。
かなり長くなるから、ここでは話さないけど。
「……それで怪我の方は大丈夫なのですか?」
「両肩以外は大丈夫かな。両肩は動かそうとするとまだ痛んで……って触ろうとしないで!?」
「それほど元気な声を出せるなら、大丈夫そうですね」
まったく、少し動かしただけでも激痛が走るのだから勘弁してほしい。
けど、以前よりもロゼッタとの距離が近くなったと思うのは、いい変化だろう。
「そういえば、どうしてお見舞いに来てくれなかったの? おかげで自室が暗黒空間だったんだけど……」
「も、もちろん行った……! けど、ぼ、暴虐の番人がいて、ち、近づけなかった……」
「本当、フレイアの護衛というのは理解できますが、ペットの姿ぐらい確認させてほしいものです」
「そのノリまだ続けるんだ……」
いつもなら真っ先に飛びついてくるノインとロゼッタが会いに来ないのを不思議には思っていたが、アレクシアが睨みを利かせていたとは……。
学院の生徒相手に攻撃したりはしないだろうが、あのアレクシアに睨まれでもしたら普通の生徒だったら逃げてしまうのもわかる気がする。
だが、やっぱりいつもの日常はいい、素晴らしい。
まだホームルームが始まる前の騒がしい教室。
ノインにロゼッタ……二人の友達。
私を目の敵にする小うるさ……うるさい先生、はまだ来ていないけど。
この場面だけを切り取るなら、女神教会の事件など影も見当たらないだろう。
それなのにあの事件によって、私の日常は変えられてしまったのだ。
「……フレイア・エテルファルシア」
「ひゃい!?」
いつもならホームルームが始まる5分程前に教室にやって来る先生が、それよりも少し早い時間に……それも教室の後ろから入ってきたのだから飛び上がりもする。
また何か小言を言われるのだろうか?
「久しぶりの登校だからといって問題は起こすなよ。休んでいた間の課題等はまとめてあるので後で職員室に……いや、帰りにでも持って来よう。……それと、痛みが酷かったら早めに知らせるんだぞ」
「……は、はい」
えっと、先生、優しくなった?
課題とか後で持ってきてくれるって言ったし、先生はそれとなく言ったつもりだろうが、最後に私を気遣う言葉もあった。最初の注意は絶対に照れ隠しでしょ!?
え、私と先生そんなに進んだ関係になっていたっけ?
落ち着け、私と先生は生徒と教師。これ以上は禁断の関係だ!
「何をもじもじしている……気持ち悪い。……ホームルームを始めるぞ」
「んなっ!? もじもじしてないし!?」
私の叫びは無視されて、ホームルームが始まった。
…
……
………
久しぶりの授業は楽しかった。
アレクシア以外の人と久々に昼食を摂ることができたし、その怪我どうしたの? と野次馬根性で話しかけてくるクラスメイトもいた。
陰でコソコソ何か言われるよりもマシかと、詳細は隠したが話したりもした。
先生も優しかったし、これが怪我の功名と言うやつか。
だがこれから待っているのは……たぶん地獄だ。
「な、なんで番人がいるの……!?」
「フレイア、説明をお願いしても?」
「えー、たぶんこれから私は地獄に送られます。一人では心細いので二人には一緒に生贄になってもらおうと思います」
「フ、フレイアの馬鹿ーーーーー!?!?!?」
「くっ……そちらもそちらで根に持っているというわけですね……」
放課後、魔法を使うときはおなじみの場所となった模擬戦闘場に私たちは来ていた。
到着するとそこには既にアレクシアが仁王立ちで待っていたのだから、何かを察したノインとロゼッタは嫌な顔をした。
昨夜、アレクシアとは無事に(?)師弟関係を結ぶことができた。
早速、今日から魔法の指導を始めるとのことで、一対一では何をされるか、わかったものではないので、二人には死なばもろとも……生贄になってもらうため付いてきてもらったのだ。
もちろんこれは、私をペット扱いした報いでもある、思い知れ。
「そこの二人は、たしかこの前もフレイアと一緒だった……」
「私たちどうしてもフレイアの力になりたいの、って懇願されたから連れてきました!」
「わ、私たち友達じゃないので……か、帰ります!」
「すみませんが、用事を思い出したので帰らせていただきますわ!」
「たしか二人は、女神教会にも師団ちょ……クレストール先生と一緒に来てたよね?」
「「は、はい……」」
口元に手を当てて何かを思案しているアレクシア。
ノインとロゼッタを交互に見回し、答えを出したようだ。
「……消すか」
「「「ひぃいいいいいいいいいいいい!?!?!!?」」」
消す……消すって何を!?
口封じに二人を殺すってこと!?
アレクシアならやりかねないと思うし、軍の機密ってことなら言い訳も立ってしまう。
そんなことのために二人を連れてきたわけではないので何とかして止めなければ……。
ノインとロゼッタも互いに抱き合って恐怖で震えている。
「二人のフレイアに関する記憶を消す」
「えっ、ちょ、なんで!?」
「もしもあの時、二人が連中が知って欲しくないことを見ていたら、フレイアだけでなく二人も標的にされるかもしれない。フレイアに関する記憶を全て消して、日常に戻ってしまえば連中も深追いはしないだろう」
「っ……」
そうだ……二人は女神教会に私を助けに来た時、その一部始終を見てしまった。
残虐な連中のことだ、口封じのためには殺すことも厭わないだろう。
実際にモンデストは、私を教会に誘導する際に二人の動向を見張っていることを匂わせていた。
巻き込んだ側の私が言えることではないが、二人には日常に戻る権利があると思う。
それで連中が見逃してくれるかはわからないが、その時は私が二人を守る!
だから二人には思うままに決めてほしい……。
「自分たちで決めていいよ。それが辛いなら私が強制しても……」
「こ、断るっ!」
「私もお断り致します」
「ふ、二人とも……気持ちは嬉しいけどもっとよく考えて……」
これから危険に身を晒すかどうかの大事な判断なのだ。
場合によっては死ぬことだって無いとは言い切れない。
こんな簡単に答えを出してはダメだと思う。
「フ、フレイアは初めてできた友達……そ、それが消えたらまた私は一人になる……。それは、もう嫌……!」
「ノイン……」
覚えている。
私がノインに友達って言った時、とても嬉しそうに笑っていたことを。
「私、見る目は確かな方なのでフレイアを選んだこと、後悔はありません。それに自分の身は自分で守るぐらできなければこの学院にいる意味もないでしょう」
「ロゼッタ……」
知っている。
私とパートナーを組みたいと言った時、ノインと決闘してでも手に入れようとする姿勢……その強さを。
「じゃあ、二人にも厳しく指導しないとね」
「「…………はい」」
アレクシアの"厳しい"という言葉に複雑な表情で返事をする二人。
そりゃあ、アレクシアの指導に恐怖を感じるのはわかるが、大事なところなのだからもっとしっかりしてほしい。……嬉しい。思わず顔がにやけてしまうぐらいには。
「じゃあ、早速始めよう。まずは最初にフレイアの実力を見極める」
「私の? この前のじゃダメなの?」
この前の模擬戦でアレクシアには私の魔法をすでに見せたはずだが……。
まさかメンヘラモードで確認してなかったとか?
まあ、最初の一撃以降、何かすることを許されなかったから何とも言えないけど。
「この前はフレイアが自身に使用するだけだったから、今回はノインとロゼッタにも協力してもらう。まずはフレイア、ノインを対象に魔法を発動してみて。次にノイン、魔法の発動を確認したらなんでもいい、攻撃魔法を発動してみて」
「「は、はい」」
流石に確認してない、なんてことはなかったようだ。
たしか、アレクシアは魔力の流れを詳細に知覚することができると言っていた。
自分に使った場合と、誰かに使った場合で違いを検証したいとかなのだろう。
私も≪祝福≫の魔法を誰かに使ったことはほとんどないため、興味がある。
「それじゃあ、ノイン、行くよ!」
「う、うん……!」
安全のためアレクシアとロゼッタがいる場所から少し距離を取り、ノインに開始のための合図をする。
ノインを対象に精神を集中させる。
「……ノインに、≪祝福≫を……!」
≪祝福≫の白い炎がノインの身体全体を包むように燃え上がる。
「す、すごい……! も、燃えてるのに熱くない。ふ、不思議な感じ……フ、フレイアに包まれてる……」
初めての体験に興奮するのはわかるが、ちょっと変態っぽいよノイン。
「変なこと言ってないで早く魔法を使ってよ!」
「う、うん。……≪炎≫……!」
ノインが前方に手をかざすと共に、激しく炎が爆裂する。
「う、嘘!? い、威力はかなり抑えたはずなのに……」
ノインはすでに私の魔法の効果を知っているため、かなり威力抑えて発動したのだろうが、予想よりも効果があったことに驚いているようだ。
「まあ、それが私の魔法の効果だしね」
「次、ノインとロゼッタ交代してくれ。ロゼッタは魔法の発動を確認したら魔法機銃をいつもと同じように撃ってみて」
「わ、わかりましたわ」
ノインと入れ替わりにロゼッタがこちらにやってくる。
先ほどの魔法の威力を見て、少し緊張しているようだ。
「じゃあ次、ロゼッタ行くよ!」
「い、いつでもどうぞ!」
今度はロゼッタを対象に精神を集中させる。
「……ロゼッタに、≪祝福≫を……!」
≪祝福≫の白い炎が今度はロゼッタ身体全体を包むように燃え上がる。
「こ、これが……たしかに不思議な感じはしますわね」
「じゃあ、ぶっぱなしちゃって!」
「はい……いきますわーーーー!!!」
ロゼッタの持つ魔法機銃から激しい魔法弾の雨が放たれる。
放たれた魔法弾が着弾地点にどんどん大穴を穿っていく。
以前、ノインと戦っていた時よりも魔法弾の威力が明らかに上がっている。
「……うん、二人とも戻ってきていいよ」
魔法機銃の轟音でアレクシアの声はこちらには届かない。
ノインが大きく手を振って合図しているのを見て、ようやく手を止めた。
「すごいですわ……このとんでもない威力……楽しすぎますわ……!」
「フ、フレンドリーファイアだけはやめてね……」
「……一発だけなら誤射ですわ」
「そんなわけあるか!?」
ロゼッタに≪祝福≫の魔法は使わない方がいいかもしれない……。
トリガーハッピーでこちらに銃口が向いたらと考えると……とても恐ろしい。
とりあえず検証を終えたのでアレクシアの元に戻る。
「……うん、大体わかったよ」
「わ、私の魔法どんな感じなの?」
今の検証で大体見極められたようなので、その結果がどのようなものかドキドキしてしまう。
一体どんな結果を告げられるのだろうか、試験結果を確認する時のような気持ちだ。
「フレイアはおかしい……いや、異常といってもいい」
「……は?」
ちょっと待って……おかしい、異常?
それはどういうことなのか。
最近になって、お母さんが魔法を使えたと知り、自分が魔法をほとんど扱えないことを疑問に思ったが、異常とは……。
「例えばさっきノインが使った魔法≪炎≫。発動するには魔力が必要だが、その魔力というのは魔素の集まりであり、魔素には7つの属性がある。≪炎≫を発動するためにはより多くの火属性魔素を集めたほうが威力が上がる。他の属性魔素が混ざっても問題ないがエネルギーの変化効率が異なるために威力が落ちてしまうんだ」
「……。うん、し、知ってたよ?」
「フ、フレイア嘘ついてる……目が泳いでるもん」
「本当、本当だって!? で、それがどう関係してるの!?」
知っているのは本当だ。授業でも教えてもらったのだから当然だ。
しかし、魔素の属性、これが正直よくわからない。
「フレイアは魔法を発動するのに無属性魔素しか使用していないんだ。ほんの少しも他の属性魔素が介在しない無属性魔法……それがフレイアの≪祝福≫……」
「……えっと、え?」
「ノイン、ロゼッタ、二人はどれぐらい魔力を感じ取れる?」
「ぞ、属性まではわからないけど、く、空間をたくさん満たしてのがわかるぐらい……?」
「私もそんな感じで、火山などの地脈では、なんとなく火属性が強いことがわかるぐらいでしょうか?」
「……フレイア、疑問に思ったでしょ? たくさん、満たしているってことに」
背筋に冷や汗が流れる。
アレクシアの言う通りだ。
私には空間を満たすほどの魔力を感じられない。
魔力とは、その空間に極少数存在する力のことだと思っていた。
それを一生懸命に集めて魔法を発動するものだと思っていた。
「フレイアは無属性魔素しか感じ取れていない。二人よりも感じてる魔力が1/7の状態だから、魔力が少ないと感じているんだよ」
「……≪祝福≫の魔法自体はずっと使えていたから、魔力ってこれなんだなってのは感じてたんだ。……でも、そっか、違ったんだ……」
魔法を発動するには、魔力が必要だ。
私は≪祝福≫の魔法が使えた。
≪祝福≫の魔法が使えるのだから、それを発動するために集中する力が魔力だと思っていた。
だが、その集中する力は、魔力を構成する7属性あるうちの魔素の一つである無属性魔素だけで、私はそれしか感じ取れていなかったのか……。
「≪炎≫を発動するためには火属性魔素が最低限必要だ。無属性魔素だけでは発動できない。無属性魔素しか感じ取れないフレイアが魔法を使えないのは必然だな」
そう、だったんだね……。
私……アレクシアの言う通りおかしかったんだ。異常だったんだ。
どんなに座学を勉強しても、どんなに魔法の練習をしても、他の魔法なんて使えるはずなかったんだね……。
「フ、フレイア……き、気を落とさないで……!」
「そ、そうですわ! アレクシアさん、どうにか他の属性を感じ取れるような修行などはないのですか!?」
「二人はどうやって魔力を感じ取れるようになったか覚えている? 物心ついた頃にはなんとなくわかっていたんじゃない? 私はそうだった。世界中の人の99パーセントがそうだろうね。それを教えるなんて無理だね」
「「………………」」
アレクシア……容赦なさすぎる。
だけど、妙な慰めをされるより、キッパリと切ってくれてよかった。
いや、よくないけど。
やばい、泣きそう。
これから私はどうやったって魔法が使えない事が確定したのだから、泣きたくもなるだろう。
「フレイア、覚えている? 昨日私が言ったこと」
「昨日……? えっと……」
「魔法は願いだって言ったよね?」
「ま、魔法が……」
「願い……?」
アレクシアの言葉に昨日の私と同じように二人も困惑している。
確かに昨日、アレクシアはそう言っていた。
あまりに衝撃的なことだったのではっきりと覚えている。
だが、それがどうしたというのだ……。
たとえ願ったとしても、私の願いは精霊には届かないのだから。
「他の属性が混ざらないからこそ、純粋な願いが届くと思わないか? フレイアの≪祝福≫は無属性魔素のみだからこそ、純粋な力の増幅として働くんだ。それに無属性の魔法なら使えるのではないか?」
「……た、確かにそれは試したことなかったかも……!?」
魔素が7つの属性を持つように魔法も同じように7つの属性を持っている。
―――火・水・風・土・光・闇・無の7つだ。
学院の授業では、主に前半の四源属性の魔法を扱う。
理由は簡単、後半の3属性はそもそもとして四源属性と性質が大きく異り、扱うには難易度が高いからだ。
だから、基本の魔法が使えない私が上級の魔法が扱えるはずもないと試したことがなかったのだ。
「だろうな。まあ、基本の魔法が使えないのでは上級魔法を試そうなど思わないだろう」
「あ、あ、あ、アレクシア師匠! わ、私に無属性魔法を教えてください!」
「そうだな。いずれ考えておこう」
あ、あれ?
これは無属性魔法を教えてもらえる流れだったのでは?
私をぬか喜びさせて弄んだの?
なんだろう、メンヘラになる気持ちがわかるかもしれない。
「ど、どうして?」
「無属性の攻撃魔法としては≪破滅≫がある。この魔法は≪炎≫などの基本攻撃魔法とは、比べ物にならない威力を持っている。お前の無属性魔素だけしか扱えない特性を考えたら学院……いや、王国が半分吹き飛んでもおかしくない魔法になる可能性がある」
「お、王国のは、半分……」
あまりにも大きな被害想定に思わず絶句する。
「女神教会が起こす事件なんて比較にもならないだろうな。なんなら間違いが起きる前にこの場でお前を殺した方がいいかもしれない。連中、その力を狙っているとも考えられる」
「……そ、それじゃあ、私どうすれば?」
「まずは魔力の扱い方だな。少量の魔力で十分増幅できるのに魔力の使い過ぎで馬鹿威力になってるんだ。それが改善されるまでは他の魔法は無理だな」
「……! は、はい!」
「よ、良かったね……!」
「ええ、本当に良かったですわ!」
一度は他の魔法が使えないと絶望したが、ついに希望が見えた。
アレクシアの指導は厳しいものとなるだろうが、それでも希望があるのなら頑張れる……はずだ。
ノインもロゼッタも一緒に頑張ってくれるのだから心強い。
それに、初めて他の魔法を使えるかもしれないと思うと、今からドキドキが止まないのだ。
アクセス推移を見てると、みなさんポケモンしてると感じます




