EP13.師弟結成
フレイア・エテルファルシア:(15)
アレクシア・ベル・フルール:(32)
その夜、アレクシアはここ一週間そうだったように夕飯を持って部屋に戻ってきた。
一応、まだ護衛の任務は続いているらしい。
しかし、その顔は俯いたまま、未だ迷いを抱えているように見える。
「テーブル、あんたが消し飛ばしたから無いんだけど」
「……そうだったね。≪複製≫……とりあえず今回はこれで済ませよう」
アレクシアが手をかざすと、その場には昼間破壊されたテーブルと寸分違わぬテーブルが生成された。
≪複製≫は対象に指定した物を複製する魔法なのだが、その対象となるテーブルは今ここに存在していない。
入学初日に行った先生との実力試験、先生は≪炎≫の魔法で魔法の性能操作を行ってみせたが、アレクシアもそれと同じことをしたのだろうか。
だが、同じことをしてみせたにしろ、対象の必要な魔法≪複製≫で対象が存在しないまま魔法を発動する……それはもう≪複製≫ではなく、無から有を生み出す≪創造≫なのではないだろうか?
流石に王国軍最強の魔法騎士と言ったところか。
魔法のレベルがあまりにも高すぎる。
「しばらくおかゆ続きで流石に飽いただろう? いきなり硬めの固形の食べ物は厳しいだろうから今日はシチューにしてみたんだ」
今しがた魔法で生成されたテーブルに、シチューが盛られた皿が置かれる。
それを見て、そのテーブルの前に進み立つと、アレクシアが椅子を動かしてきてくれたので座った。
「あ、ありがと……」
こうなったのはアレクシアのせいではあるのだが、一応の礼は言っておく。
「うん……」
だいぶ回復したとはいえ、まだ肩を動かすと激しい痛みが走るので、やっぱり食事はアレクシアに食べさせてもらう。
どうしてメンヘラ女なのに、作る料理はここまで美味しいのか……普通は壊滅的なものを想像してしまうが違うらしい。
特に非の打ち所もないので、あっという間に食べ終えてしまった。
なので、今一番重要な本題に入らせてもらうとしよう。
「……それで、どうするの?」
「どうする……か……。どうするも何も私に師匠は無理だよ……」
「はあ? どういうこと?」
俯き、こちらを見ようともしないアレクシアに理由を正す。
「フレイアにはだいぶ私のことを知られてしまったからわかっていると思うけど、私のような者が誰かに師事するなんて無理なんだよ……」
ここに来て弱腰になるとは……やはり、メンヘラ。
私が一度は憧れたアレクシアなら、無理などということはないと思うが……。
「……さっきの≪複製≫の魔法、普通の≪複製≫とは全然レベルが違った。それって、お母さんがあんたに教えたからでしょ? だったら、それを私にも教えてよ」
「……そうだよ。師匠は魔法ではなく、魔法の使い方を私に教えてくれたんだ……」
「魔法の……使い方?」
魔法の使い方……詠唱、魔法陣、文字、歌……魔法の種類によって発動の仕方は異なってくるが、基本の魔法であれば、魔法のイメージを頭に浮かべ、その内に秘める魔力または自然に存在する魔力を込めることで発動することができる。
だが、アレクシアの言う魔法の使い方とは、単純な魔法の発動の仕方ではなく、もっと別の何かを示しているのだろう。
「魔法はね……願いなんだ。私たちの願いを魔力で紡いで精霊に届けるんだ……」
「ど、どういう……こと……? 魔法ってのは魔力を使って私たちが発動してるんじゃないの……!?」
アレクシアは首を横に振って、私の言葉を否定した。
「人間に魔法は真の意味では使えない。精霊が私たちの願いを聞いた結果が、魔法なのだから……」
人間に魔法は使えない……。
今までの常識が真っ向から否定されたのだから、混乱しないはずがない。
アレクシアが今言ったことを知っている者はきっと、世界でも両の指で足りるぐらいだろう。
私は今までそんな話を聞いたことがないし、学院の優秀な先生方でさえ知っている様子はなかった。
だから、これからそんなことを学院で習うこともないのだろう。
それほどのことをアレクシアは口にしたのだ。
「それじゃあ……えっと、私たちは……何を……」
「初めてこのことを師匠に聞いた時、私も狼狽えたよ……。あの頃の私にとって、魔法は力そのもの。私自身を貫き通すための手段に過ぎなかった。それが私の願いだなんて言われてしまっては、反論せずにはいられなかった。……だから私は師匠に決闘を挑んだ」
……やっぱり、アレクシアはその頃からそんな感じだったんだ。
予想通りではあるが鉄砲玉が過ぎるだろう……呆れてものも言えない。
「魔法騎士を志望してたんだ、前衛である私と後衛である師匠の一対一の決闘、結果は想像に難くない、勝負は始まる前から決まっていると思っていた。それがどうだ、決闘はもちろん師匠が勝ち、私がフレイアにしたようにボコボコに殴られたよ」
……おい、おーい。正直忘れかけていた。
忘れかけていたのだから、自分に不利な事をわざわざ思い出させる必要なくない?
って言うかアレクシアからちゃんと謝ってもらってないような……。
「それから私は師匠に、本当の魔法について教わった。それまでの常識が全てひっくり返されたようで衝撃の数々だった……。思ったんだ……師匠の言葉が本当なら、師匠は私の願いを叶える本物の魔法使いだって……」
お母さん……そんなにすごい魔法使いだったんだ。
何一つとして知らなかった。
私みたいに全然魔法を使えないと思っていたのだから、妬けてしまう。
アレクシアをこんなにも魅了するほどの魔法を、私だって使ってみたいと思う。
「アレクシアはずるいね……私が知らないお母さんを知ってる。お母さんの魔法も教えてくれない。独り占めするんだね」
「それは違う……! 私は師匠みたいな魔法使いになれないんだ……。あんな純粋な願いを持つ師匠にはなれないんだよ!」
純粋な願いか……。
誰も知らないような魔法の真実に、一人で辿り着くようなお母さんなのだ。
誰よりも純粋に魔法を追い求めた結果が、それだったのだろう。
だけど、それならばアレクシアにも十分素質があると私は思う。
「……アレクシアはお母さんを助けたいんだよね? 私をボコボコにして……勝手に結論を出して突っ走って……それで私をまた強迫して……。それがアレクシアの純粋な願いだったから、そこまでしたんじゃないの?」
「……! そうだ……私は何をしてでも師匠を助けるつもりで……」
「だったら、できるでしょう? 私の師匠ぐらい。教えてよ、純粋な願い。……それができないならお母さんは全然、大した魔法使いなんかじゃないから」
「師匠の娘が馬鹿を言う。師匠以上の魔法使いなんて、この世に存在しない。……いいだろう。私も覚悟を決めたよ。師匠のすごさ、その身に刻み込んでやる」
"刻み込む"を言葉通りの意味で実行しそうで怖いが、これでやっと私たちはスタート地点に立てたのだろう。
アレクシアはようやく私の目を真っ直ぐに見て、迷いを断ち切ったようだ。
「よろしくお願いしますよ……アレクシア師匠!」
「ああ、明日から厳しく指導してやる。覚悟しておけ」
さっきまで暗い顔をしていたメンヘラ女は何処へ行ったのやら。
散々苦労を被った私に感謝してほしい。謝ってほしい。敬ってほしい。
「……それと、お前が生意気言ったこと、全部覚えているからな?」
殺気が視えてしまうほどに放出し、私を睨みつけるアレクシア。
……えっと、おかしくないですか? おかしいですよね!?
自分は散々酷いことを私にしましたよね!?
少しぐらい反撃したいと思うのもしょうがないじゃないか!
こ、これだからメンヘラ女は嫌なのだ。助けてノイン……ロゼッタ……先生……。
私は星になるかもしれません……。
今日はセーフ……




