EP11.VSアレクシア
フレイア・エテルファルシア:(15)
ノイン・メイヴィア:(15)
ロゼッタ・ホークリング:(15)
クレストール・リヒテンタルト:(44)
アレクシア・ベル・フルール:(32)
「フ、フレイアと騎士団長がも、模擬戦……!?」
「う、うん……。私馬鹿だから、なんか失礼なこと言っちゃって怒らせちゃったみたいでさ……」
あれから私は、自分の私用装備を取りに学院寮の自室に戻ってきていた。
応接室であのまま立ち尽くしていても、アレクシアさんのあの殺意に満ちた目……模擬戦を避けることは不可能だということは容易に理解できた。
アレクシアさんの意に添わぬことをしたら殺されるかもしれないという予感、争いを避けるにしても最低限身を守れるものは持っておきたいと思ったからだ。
そして、何故か私の部屋でくつろいでいたノインとロゼッタに事情を話したところだ。
きっと、午後の授業も終わって、また私を慰めるために待っていてくれたのだろう。
あんなことがあったばかりなのだ、二人の優しさがとても身に染みる。
「しかし、アレクシア様がそのような方だったとは……少し複雑ですね……」
「そ、それは私が悪いの! きっと、普段のアレクシアさんは素敵な人だから……」
「そうだといいのですが……」
事実ではあるのだが、私の話があまりにも荒唐無稽で"王国軍騎士団長アレクシア・ベル・フルール"と結びつけるのが難しく、ノインもロゼッタも黙ってしまった。
暗く沈む雰囲気をなんとか払拭できないかと話題を変える。
「えっと……それで二人が良ければなんだけどさ? 模擬戦闘場に一緒に来て欲しいなって。きっと、模擬戦を見るぐらいならアレクシアさんも許してくれるだろうし……」
「し、仕方ないなあ……!」
「飼い主としてペットの動向を見守るのは当然ですわ!」
「ワー、ヤッタア! フタリトモアリガトウ!」
それ、まだまだ続くんだね……。
こんな時なのだから、素直に言ってくれてもいいとは思うのだが、元はと言えば私の独りよがりが原因なので言えはしないのだが……。
「それじゃあ、少しだけ怖いけど行こうか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
模擬戦闘場に一人待つのはヴァン・エグセリオン王国軍騎士団長―――アレクシア・ベル・フルール。
その右手には槍を、左手には盾を装備しており、臨戦態勢といった状態である。
あれだけ酷いことをされたはずなのに、その立ち姿をつい美しいと思ってしまった。
「フレイア……よく来てくれたね……」
「は、はい……。まだ死にたくはないんで……」
「ん? ああ……さっきは取り乱してしまってすまなかった。この模擬戦は君の力を試すためのものなんだ。君の力を把握していれば私たちも女神教会に対する策を立てやすい。そのための協力を惜しめば処刑するのは事実だが、この模擬戦で君を殺すようなことはないよ」
よかった。アレクシアさんの言葉にひとまずの安堵を得る。
やっぱり先ほどまでのアレクシアさんは、普通ではなかったのだ。
だから、今の冷静な彼女こそが普通で、私が余計なことを口にしなければもっとスムーズに話は進んでいたはずだ。
「……それと私は普通は目には見ることのできない、魔力の流れをそれを構成する魔素レベルで知覚することができる。君の力の本質を見極めることができれば、フィエレス師匠を助けられるかもしれないから私は来たんだ」
「! お母さんを助けられる……女神教会のシンって奴も言ってた……!」
不思議には思っていた。
≪祝福≫の魔法は使えるのに、他の魔法はまったく使えない。
普通であれば、扱える魔法属性の得手不得手などはあれど、基本的な≪炎≫、≪水≫、≪風≫、≪土≫等の魔法であれば魔力操作ができれば発動することが可能なはずなのだ。
それを私は、どう頑張っても発動することができなかった。
お母さんがそうだったからと、私もそうなんだろうなぐらいに思っていなかったが、ここ最近のことを踏まえると、どうやらそうではないらしい。
―――何か秘密が隠されている。
「だから、最初から全力で戦ってね。私も君の全力を引き出すために全力で戦うつもりだから、お友達にはしっかり離れてもらってね」
「は、はい……!」
少し離れた場所で見守ってくれているノインとロゼッタに目配せをし、十分に離れてもらう。
そして、いつも通り≪祝福≫の白い炎を全身に纏い、目を閉じて精神を集中する。
深呼吸。肺一杯に空気を取り込んで少しでも緊張を解す。……よし。
目を開いて、これから戦うアレクシアさんと対峙する。
王国軍騎士団長であるアレクシアさんと共闘する夢は描けど、戦うことになるなんて思いもしなかった。
アレクシアさんの期待に応えられるように全力を出す!
三角盾から抜剣し、構える。
「……行けます!」
「いいよ。いつでも」
模擬戦の開始は、私の先制に任された。
最初の一撃で決めるつもりで行く!
「……≪斬撃≫!」
通常の何倍もの魔力を込めた剣を大上段から振り下ろすと、その剣身が輝き、圧倒的な魔力の奔流とも呼べる光が放たれる。
それは≪祝福≫により何倍にも増幅・強化された≪斬撃≫であり、通常の≪斬撃≫の威力の比ではなく、その光の中にアレクシアさんは飲み込まれた。
やりすぎたか!? と、思った時には遅かった。
「――――ぁが!?」
私の身体は風に飛ばされたベッドのシーツのように、空に浮いていた。
光に飲み込まれたはずのアレクシアさんが突然、目の前に現れ、私の顔面を全力で殴ったのだ。
人って殴っただけで浮くものだっけ……?
どこか他人事みたいに思っていると、さらにアレクシアさんが私の上に馬乗りになってきて、また殴打が私の顔面を襲う。
――――あー、アレクシアさん、やっぱり普通じゃないや。
さっきの話……私を殺すようなことはないって絶対嘘じゃん。
普通の大人だったら学生である私の顔面をこんなに何度も、何度も、何度も、全力で殴ったりしないはずだ。
アレクシアさんの殺意に満ちた目……たぶん、それがアレクシアさんの本性なのだろう。
理性の仮面をかぶった獣が私を殺そうとしている。
恐ろしくて腹の底から底冷えして、寒気を感じる。
やっぱり死ぬなと思った時、アレクシアさんの攻撃が止まった。
「やっぱりグラスはフレイアの意思では呼べないか……」
「……ぅあ……?」
「君を死ぬ寸前まで甚振れば、君がグラスを呼ぶか、もしくはグラスの方から出てきてくれると思ったのだが……どうやら違ったらしい」
また、それだ。
グラス……さっきからずっと何のことを言っているんだ?
たしか学院に帰ってきて目を覚ました直後、クレストール先生も言っていたはずだ。
私が『グラス=フレイア』と名乗ったと。
そのことを言っているのだろうか。
「……フレイア。君だけが師匠を助けられる可能性を秘めているんだ。だから早くその力を解放して……私をあの頃の師匠に逢わせてくれよ」
アレクシアさんの暗く濁った瞳は私を映しているはずだが、その実、別なものを映している。
彼女はお母さんのことしか考えていないのだ。
娘である私以上にお母さんのことを思い、何をしてでもお母さんを取り戻す気でいるのだ。
まるで狂気に取り憑かれたように。
「……ぁ、アレクシアさんって……普段からそんな感じなんですか?」
殴られた痛みが疼くのを我慢して、アレクシアさんに問いかける。
「ん? こんな横暴をしてついてくる部下はいないだろうな。君だけだよフレイア……。君だけはどうしても許せなくて……こんなに取り乱してしまうんだ」
そんな吐き気を催すような台詞を、情熱的な感じを装って話さないで欲しい。
こんな狂気的な笑みを浮かべ狂った台詞を口にするような女に憧れていたとは、自分の見る目の無さが伺える。
「アレクシアさんの本性……お母さんは知ってたのかもしれないですね……。お、お母さんから……あ、アレクシアさんの話聞いたことない―――うああああああぁ!?!?!?」
突然襲ったてきた痛みに、もがくことしかできない。
アレクシアが私の左肩を槍で貫いたのだ。
アレクシア……この女は本当にヤバい奴だ。
こんなのが王国軍騎士団長だなんて王国軍はどうなっているんだ!?
「お前は知らないだろうが……師匠は魔法に関する記憶を失っていたんだ。だから私のこともお前には話せなかったのだろう」
「ま、魔法に関する記憶ですか? だ、だったら、は、話せたんじゃないですか? アレクシアさんが魔法のこと以外でもお母さんと親交があったな―――ぐぅうううああああああ!?!!!?」
次は右肩を貫かれた。
激しい痛みに気を失ってしまいそうになるのを気力だけでこらえる。
どうしても、何故か、この女には一矢報いたいと思うのだ。
「死にたいか?」
「こ、殺せるんですか?」
私はにやりと笑ってみせる。
殺せるのならやってみろ。
私を殺せばお前の大好きなお母さんには今度こそ一生逢えなくなるのだから。
「お前たち何をやっている!? アレクシア! これはどういうことだ!?」
クレストール先生……声の方を確認するとクレストール先生とノインとロゼッタが息を切らしていた。
たぶん、この模擬戦はおかしいと思った二人が先生を呼びに行ってくれたのだろう。
二人ともありがとう、これでこれ以上何かされることはないだろう。
「師団長……。少し熱くなってやり過ぎたようです」
「こんな状態で少し熱くだと!? どうかしている! 流石に見過ごすことはできない、このことは上に報告させてもらう」
「お手間を増やしてしまって申し訳ありません」
やっぱりクレストール先生は頼りになる。
もう少し早く来てくれたらとは思うが、ノインとロゼッタも全力で呼びに行ってくれたのだろうから仕方ない。
アレクシアに関しては自業自得だ、ざまあみ……えっ?
クレストール先生に咎められ、報告されるのなら、もう一発も関係ないと思ったのだろう。
再びアレクシアの豪拳が私の顔面に沈んで、―――そこで私の意識は途切れた。
EP01の前半部分に改稿入れました!
よければ一読お願いします!




