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EP10.報い

フレイア・エテルファルシア:(15)

ノイン・メイヴィア:(15)

ロゼッタ・ホークリング:(15)

クレストール・リヒテンタルト:(44)

アレクシア・ベル・フルール:(32)

 女神教会が事件を起こした日から、一週間が経った。

 女神教会の司教であるシンと話をしている途中で気を失った私は、助けに駆け付けてくれたクレストール先生、ノイン、ロゼッタによって救出された。

 王国軍騎士団長であるアレクシアさんも応援に来てくれたらしいが、私が目を覚ました時にはすでに学院に戻った後だったので、直接会うことはできなかった。


 今回の事件、お母さんを助けるためにと、大事な人たちの手を振り払ってまで一人で敵地まで乗り込んだが、結局お母さんを助けることはできなかった。

 それどころか、私を助けるためにノイン、ロゼッタの二人まで教会にやってきたことにより、その身を危険に晒させてしまった。

 クレストール先生の言った通りに先走らず、先生と一緒であればもっと別の結末があったのではないかと思うとやりきれない。

 クリスタルに封印されたお母さんの方もなんとか助けられないかと、クレストール先生とアレクシアさんがクリスタルを調べてみてくれたらしいが、やはり現状では助けられそうにないということだ。


 そして、学院に戻った私を待っていたのは新しい生活と取り調べだった。

 女神教会の目的が私だということが判明し、お母さんが攫われてしまった家に一人では危険だとクレストール先生が判断し、学院の寮に入寮することになったのだ。

 基本的に学院寮は二人一部屋なのだが学期の途中、もしもの場合―――女神教会が襲撃してきた時、一緒に生活している生徒にまで危険が及ぶことを考慮し、二人部屋を一人で使うことになった。


 取り調べでは人生初の手錠を掛けられた。

 女神教会に一人で乗り込んだので、女神教会と本当は通じているのではないかと疑われたのだろう。

 それにクレストール先生から聞いた話によると、私が普段とは違う別人のような雰囲気でシンに指示を出していたという。

 クレストール先生と私の記憶には齟齬があった。

 私の記憶ではシンと話している途中で私は気を失ったはずなのだが、先生は女神教会の連中が去った直後に気を失ってその場に倒れたという。

 ノインとロゼッタも先生と同じだと言うので、きっと衝撃的な状況に混乱してしまって記憶があやふやになっているんだと思う。

 覚えていることは正直に全てを話したつもりだがどこまで信用されているか……。

 手錠の冷たい鉄の感触と取り調べに来た軍の人の私を見る冷たい眼差しには、生きた心地がしなかった。

 この手錠が外れることは一生ないのではないかと不安になったが、取り調べが終わったらちゃんと外されてホッとしたのは記憶に新しい。


 そして、今私が何をしているかというと、授業も受けず寮の自室に一人籠っていた。

 こちらに帰ってきてからも、ノインとロゼッタはいつもと変わらず、私に優しく接してくれた。

 気をつかってくれているのだろう、特に事件のことについて触れようともせず、私をご飯に誘ったりと騒がしくしていた。

 ……それが逆に辛かった。

 どうして置いていったのか。どうして嘘をついたのか。私を責めてくれたなら今よりもどれほど気が楽だったことか。

 いっそのこと、嫌いになってくれたなら……いや、それでも私なんかを好いてくれているのだ。

 こんなことでは彼女たちに申し訳が立たない。

 いい加減閉じこもるのをやめて授業にも出席しないと、クレストール先生もうるさいだろう。

 この時間では午後からになるが、今日は授業に出てみようかな……。


「フ、フレイア……いる?」

「フレイア、ご気分はどうですか?」


 自室の扉がノックされるとともに、ノインとロゼッタが扉越しに声をかけてくる。

 不意のことだったので肩がビクッと跳ねてしまった。


「……ぁう……」


 返事をして、扉を開ける。

 ただそれだけなにの声も出せず、震えて身体が動かなくなる。

 このままずっと彼女たちを避けるよなう真似を続けていたら、本当に嫌われてしまうかもしれない。

 ……そんなの、嫌だ。

 こんな私を慕ってくれる、大切な友達なのだ。


(しゃんとしないと、フレイア)


 意を決して扉の前に立つ。

 開けろ。開けろ。開けろ――――。


「ったぁ――――!?!?」


 私が開ける前に勝手に開いた部屋の扉が、私の額を直撃(クリティカルヒット)した。


「「(フ、)フレイア!?」」


「もう……どうしてノインは勝手に扉を開けちゃうかな……」


「ち、違う……! い、今のはロゼッタ……!」


「すみません……本当にいらっしゃらないのか確認しようと思いまして……」


 少しムッとするノインと、申し訳なさそうにするロゼッタ。

 ノインは前科があったので、つい決めつけてしまった。

 まさかロゼッタまで勝手に扉を開けちゃうタイプの人だったとは、これからは扉の前に立つときは気を付けなければいけない。

 しかし、二人の顔をしっかりと見たのは久しぶりな気がする。

 そして、二人の顔を見てどこか安心してしまったのか、勝手に涙が流れていた。


「ご、ごめんね……。二人とも、勝手なことして心配かけたよね……」


「し、心配した……! フ、フレイアが引きこもりになったかと思った……!」


 ……なんか、ノインには引きこもりとか言われたくないな……。

 いや、心配してくれてるのはわかるし、嬉しいけれど。


「ええ、明日までに自室から出てこなければクレストール先生が突撃するとおしゃっていましたから、よかったですわ!」


 あっっっぶないねえ……!?

 きっとクレストール先生のことだ、どんなことを言っても聞く耳も持ってもらえずに、私を教室に引きずって行こうとしただろう。

 本当に今日、思い立って良かった……。


「あ、あはは……。そ、それでね……私二人にちゃんと謝らないとって思って、それで……」


「フ、フレイア、今はご飯……! は、早く食べないと冷める……!」


「そうですわ! 嘘をついた誰かさんは、私たちとこの超高級ランチを食べないといけません!」


 うっはぁ……。

 わかっていたけどやっぱりきつい。

 責めてくれたら……なんて思ったが、あれは嘘だ。

 ロゼッタの言葉の圧がすごい。

 その笑顔が怖いんです!


「ぜ、ぜひご一緒させて頂きますわ……」


 顔を引きつらせて、ついロゼッタのお嬢様言葉が移ってしまうぐらいだ。

 そして、ノインとロゼッタが持ってきてくれたランチをミニテーブルに並べる。

 ミニテーブルに並んだ三つのランチボックスには、今まで見たこともないぐらい豪華な料理が詰まっている。

 ノインとロゼッタは私の方を見て、早く食べろ、というような笑顔で圧をかけてくる。


「じゃ、じゃあ、頂きまーす……」


 フォークを使い、名前も知らない肉料理を一口食べる。


「お、美味しい……!? こんなの食べたことない……」


「あ、この"超"高級ランチおいくらぐらいすると思いますか?」


「んふぅん!?」


 私が二口目を口に入れたのを見計らい、考えないようにしていたことをロゼッタが意地の悪そうな笑顔で言うので、思わずむせた。

 しかも、わかりやすくアクセントを入れてくるので恐ろしい。


「フ、フレイア……ご馳走様……!」


「ノイン!? ロゼッタ!? 嘘だよね? ね?」


「「………………」」


 私が悪いし、当然わかっていたけどこの二人、実は相当怒っていらっしゃる!?

 まさか本当に私の名前でこの"超"高級ランチを頼んだなんてことはないよね!?

 お願いだから目を逸らさないで! ハイライトさんを連れ戻して!?


「私たち友達だよね? 友達が外国に売り飛ばされるとことか見たくないよね!?」


「実は奴隷ってそこまで高く売れないんですわよ? フレイアぐらい肉付きのいい方でしたら内臓とか個別に売り捌いた方が……」


「やーーーーーめーーーーーてーーーーー!?」


 どうしてそんなことを知ってるんですか、ロゼッタさん!?

 冗談に聞こえませんよ? 冗談だって言って!?


「ふふっ……うふふふふふ!」

「ぷぷぷ……フ、フレイア、ひ、必死過ぎ……ぷぷっ……」


 ハイライトさん戻ってきてくれた!?

 この際、二人に許してもらえるならどんな道化でも演じますよ!

 なんならメイクもして着替えてきましょうか!?


「え、えっと……二人とも、許してくれますか……?」


 顔を突き合わせて笑う、ノインとロゼッタ。

 よかった、どうやら許してくれたようだ。

 あまりにも二人の演技が真に迫るものだったので、本当に焦ってしまったではないか……。


「も、もちろん……!」


「許しませんわ!」


 んーーーーーーーーーーーーー?

 この流れは許される流れでしたよね?

 はい、私の人生終わった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「えっと……似合うかな……?」


「う、うん……似合ってる……!」


「ええ、いい感じですわ!」


 "超"高級ランチを食べ終えて、授業に向かう前。

 ノインとロゼッタ二人からプレゼントがあるということで、びくびくしながら受け取った箱を開けた。

 中に入っていたのは黒い革ベルトに白糸での刺繍が施され、真ん中には赤い宝石のブローチが輝く可愛らしいチョーカーで二人の希望もあり、すぐに着けることになったのだ。


「あんまりおしゃれとか気にしたことなかったから、こういうチョーカーとか着けたの初めてだよ。二人ともありがとう」


「よ、よかった……! フ、フレイアに似合うの一生懸命探した……!」


「ええ、結局はオーダーメイドになりましたが似合っていますわ!」


 もう今日は疲れたから突っ込まなくてもいいかな?

 ダメですよね。はあ……。

 ……オーダーメイドって言いましたか?

 これ、おいくらぐらいするんです?

 私、本当に売られませんよねえ!?


「……嬉しいけどお二人にお返しします。私には過ぎた代物です……」


「ダメですわ。その首輪は肌身離さず着けて頂かないと」


「う、うん……!」


「いや、そんなこと言われても……って、首輪?」


 ロゼッタさん、首輪って言いましたか?

 え、こう言うアクセサリーのことチョーカーって呼ぶと思うんですけど?

 もしかして知らなかったりします?


「こ、これ……! ちゃんとリードも着けれる……!」


 あー、そっかあ。

 私もう人として見られてなかったかあ……。

 そっかあ、本当に首輪だったんだあ。

 あはははははは。嬉しいなあ。嬉しいなあ。

 じゃあ、そろそろ教室に行かないと午後の授業に遅れてしまうから行こっか。


「おい、さっきからノックをしているんだ! さっさと返事をしろ! フレイア・エテルファルシア!」


「!? ク、クレストール先生!?」


 つい現実逃避に忙しくて、部屋の扉をノックされていることに気がつかなかった。


「まったく……思ったよりも元気そうじゃないか」


「え、えっと、その節は本当にすみませんでした! 先生の言ったこと聞かないで先走っちゃって……」


「済んだことだ。今はお前が一番わかっているだろうからな」


 そうですとも。

 おかげで私は犬や猫と同レベルになってしまいましたから。

 ちゃんと叱ってくれるクレストール先生優しい。好き。大好き。


「は、はい……。それで、えっと、授業には今から行こうかと……」


「残念ながらお前の授業はお預けだ。お前に客が来ている」


「お客さん……?」


「そうだ。準備ができているなら付いてこい」


「は、はい!」


 私にお客さんとは誰だろうか。

 特に心当たりがある人物は思いつかない。

 しかし、わざわざここまで足を運んでもらったのだから、会わないわけにもいかない。

 とりあえず、クレストール先生の後を付いて歩いた。


 …

 ……

 ………


 やって来たのは学院の応接室。

 学院寮の方にも応接室はあるのだが、基本的に寮生が家族との面会に使用したりする。

 わざわざ学院側の応接室にやってきたということは、私と面識のない人が会いに来たのかもしれない。

 そう考えると少し緊張する。


「先生……私に会いに来た人って誰なんですか?」


「会えばわかるさ。くれぐれも失礼のないように」


「えっ!? そんなに偉い感じの人が来てるんですか!?」


「それでは私は授業に戻る」


 先生も同席するんじゃないんですか!?

 私を置いてさっさと行ってしまった先生。

 やはり、事件から皆の私に対する態度は冷たい。

 信用の大切さが身に染みる……。

 しかし、そんな偉い人を待たせるわけにもいかないため、覚悟を決める。


「し、失礼します!」


 扉をノックして中に入ると待っていたのは私の憧れだった。

 整った王国軍の軍服に身を包み、窓の外を眺めているのは女性はアレクシア・ベル・フルール。

 美しい金髪(ゴールドブロンド)の髪は腰当たりまであり、揺れると光が舞い上がるような錯覚を覚える。

 こちらに気付き振り向くと露わになる両の瞳は深い蒼に染まっている。

 何を映しているのだろか、私を見ているはずなのに、もっと別なものを見られているように感じてしまい、背中が冷たくなる。


「フレイア……エテルファルシア……」


「は、はひ!」


 憧れの人を前にして、緊張し過ぎて舌を噛んでしまった。

 王国軍騎士団長であるアレクシア・ベル・フルールが一体何の用が私にわざわざ会いに来たのだろうか?

 いや、彼女ほどの人が出向いてくるなんてあの件しかないじゃないか。


「ソファにかけていいよ。私はアレクシア・ベル・フルール。今日はフレイア、君と話してみたくて来た」


「わ、わざわざご足労頂きすみません! アレクシアさん!」


 アレクシアさんに促されるがままにソファに腰を掛ける。

 思いもしない状況に、これは何かの試験で、実は座ってはいけないとかなのではないかと勘繰ってしまうが、そんな私を他所にアレクシアさんは話を進めた。


「……君のお母様……フィエレス師匠(せんせい)は私の魔法の師匠でね……。私がまだ学生だった頃、この学院でよく師事してもらったものだよ」


「ぅえっ!? そ、そうなんですか!? お母さん、昔のことあまり話してくれなくて……全然知りませんでした……」


 自分の母が憧れであるアレクシアさんの師匠(せんせい)をしていたとは初耳だ。

 魔法を使えないお母さんしか知らなかったのだから当然だ。


「今回の事件……残念に思うよ。騎士団長などと呼ばれていてもこんな体たらくでは、師匠(せんせい)に顔向けできないね……」


「……えっと……きっと、そんなことないと思います……」


「こんなこと言われても、そう返すしかないよね。ごめんなさい、フレイア」


「い、いえ……」


 非常に気まずい。

 アレクシアさんの言っていることはその通りではあるのだが、一介の学生に謝られてもまた、困るというものだ。


「フレイアはグラスって知っている?」


「グラス……? グラスって飲み物を入れたり、入れ物だったりのグラスですか?」


「ああ、私もそれで認識しているよ。だけど、フレイアは別の意味を知っているんじゃないか?」


「別の……意味……ですか?」


「ああ……」


 "グラス"に何か別の意味がある……。

 それが重要なことなのだろう、アレクシアさんはソファから立ち上がり、私の前までやってきてその両手を私の肩に置いた。

 そして、真剣な眼差しで私を見つめてきた。

 こうもじっくりと見られていると、何かを思い出そうにも緊張してしまい、上手く思い出せない。

 とりあえず考える時間が欲しい。

 ここは素直に思い出せないと答えてわかったら連絡すればいい。


「す、すみません……考えたんだけど思い出せなくて……。お、思い出したらご連絡します!」


 私から目を逸らし、俯くアレクシアさん。

 落胆させてしまっただろうか。

 しかし、本当に思い出せることがないのでは噓になってしまう。


「ダメだよ。……グラス」


「!? ……かっ……ぅ……ぁ……」


 アレクシアさんの手が私の首をきつく締め上げる。

 何が起こっているのか理解できず、涙、汗、涎といった体液をただ流し、じたばたと、もがくことしかできない。

 私はここで、憧れの人―――アレクシアさんに殺されて終わるのだろうか?


「グラス……お前がフィエレス師匠(せんせい)を変えてしまったの? お前がフィエレス師匠(せんせい)から魔法を奪ったのか!?」


 鬼のような形相で私の首を絞めるアレクシアさんに生きるのを諦めかけた時、その手は離された。

 呼吸ができるようになり、足りない空気を肺が一気に求めた結果、私はごほごほとむせた。


「はあ……はあ……。ア、アレクシアさん……ど、どうして……?」


「どうして? はははっ……どうしてだって!? お前が師匠(せんせい)から魔法を奪ったんだ! お前さえ生まれなければ師匠(せんせい)は昔のままの師匠(せんせい)でいられたんだ!」


「わ、私がお母さんから魔法を奪った……!? そんなこと……どうして……」


「……一時間後、模擬戦闘場(バトルグラウンド)で模擬戦を行う。逃げてもいいがその場合、お前を女神教会の内通者と断定、即刻処刑する」


「そ、そんな……」


 一方的にそう伝えるとアレクシアさんは応接室を出て行ってしまった。

 どうしてこんなことになってしまったのか。

 憧れのアレクシアさんに会えたというのに、殺されそうになり、模擬戦を行うことになり、そして、模擬戦から逃げたらやはり、殺される。

 こんなのあんまりではないか……。


 ……いや、これこそが報いなのだろう。

 ノインに、ロゼッタに、罰を受けた気になっていた。

 しかし、それは違った。

 彼女たちは結局のところ、私が罪悪感を忘れられるように振る舞ってくれただけなのだ。

 アレクシアさんの私を見る目は殺意で満たされていた。

 抵抗しないと死んでしまうのに怖くて、怖くて……何もできなかった。

 そしてまた一時間後、私はあの目に映されるのだろう。

 だから、これが大切な人たちを裏切ってきた私への報いなのだ。

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