EP00.プロローグ-誕生の日-
壁に置かれた蝋燭の光がほんのりと照らす室内。
足元に描かれた魔法陣が圧力となって肌で感じられるほどの光を放つ。
その光は徐々に輝きを増し、頂点に達した時、一気に爆裂し魔法陣中央に置かれた籠の中に収束していく。
籠の中には暖かな毛布に包まれながら眠る我が子グラス―――。
器が生まれたのはほんの数日前だ。
正真正銘、私自身が腹を痛めて産んだ私の子供。
彼女が生まれてすぐにこの魔法を試してもよかったのだが、いかんせん生まれたばかりだ。
発動した魔法の負荷に耐えきれずに死んでしまうかもしれなかった。
自分の子供――それも幼き赤子を魔法実験に利用しておきながら勝手なことを言っているという自覚はあるが、死なせてしまうのは欠片ばかり残った良心が許さなかった。
だから万全を期すために数日だけ、その幼い身体が安定するのを待った。
世界に生み落とされたばかりの赤子は意識が薄弱で自我が無い、まだ世界を何も識らないからこそ、世界の全てをありのままに受け入れることができる。
それは器としての資質であると共に、そのような未熟な存在ならば消えてしまっても何の問題ないという私が私を許すために用意した免罪符。
たった今私が魔法陣を用いて発動させた魔法は、世界の上位存在である精霊を呼び出し、対象に指定した依代に降霊、定着させるというもの。
もちろんその依代となるのは我が子グラスであり、そのためにグラスは生まれてきたのだ。
この魔法が成功すれば、グラスは人間を超越した存在に生まれ変わるだろう。
グラスの薄弱な意識は呼び出した精霊の意識に上書きされ残らないだろうが、その身体は確かに人間のものであり、人でありながら人を超越した存在が完成する。
そうなれば私はこの世界の誰よりも、限りなく、魔導の極地に近づけるだろう。
そして、私がこれから先の人生、魔導の極地に至ることができなくても、超越者に生まれ変わった我が子ならば必ずそこに至ることができる――――はずだった。
それはあくまで成功した場合の話であり、どうやら私は失敗してしまったようだ。
≪□x■■■■■■、□x■■■■■■≫
≪□x■■■■■■、□x■■■■■■≫
頭の中に直接響き、浮かぶ、およそ人間には理解できないであろう言葉の羅列。
しかし、何故かその意味だけは理解できる。
どうやら精霊を呼び出すことには成功したようだが、私は彼らの琴線に触れるようなことをしてしまったらしい。
構成した魔法に問題があったか?
編んだ魔法陣に欠陥があったか?
術者である私が未熟だったか?
器がダメだったか?
そう考えているうちに精霊から私に罰が下される。
因果応報という奴だろう。
私は自分勝手にグラスを別の存在に上書きしようとしたのだ。
それ報い、私の魔法に関する記憶、思い、その一つ一つが白で塗りつぶされていく。
ここまで至るのに長い年月をかけてきたのだが……。
何のためにその時間かけてきたのか、もうわからない。
…
……
………
どうやら私はいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
腕の中で安らかな寝息を立てて眠る我が子の顔を見て、うたた寝をしている間に落としてしまわなくて良かったと、ほっと胸をなでおろす。
柱に据えられた壁時計を確認すると、正午はとうの昔に過ぎてしまっている。
急いでこの子と自分の昼食を用意しなければならない。
作業に移るために寝ている我が子をそっとベッドに移すが、少しの変化でも敏感に感じ取り、起きて泣き出してしまった。
「ごめんね、起こしてしまったね。でも、お昼の用意をしなくてはならないの。あなたもお腹が空いているでしょう? お願いだから泣き止んで?」
ベッドからもう一度我が子を抱き上げて、泣き止んでくれるように私はあやす。
少しばかりぐずったが泣き止み、笑顔を見せてくれた我が子に自然、私も笑顔になる。
「ありがとう。大好きよ。――――フレイア」
そして、15年後――――――。




