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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編】まとめ

【短編】ジョゼフィーヌはネコである、大変高貴で傲慢である

いつもお読みいただきありがとうございます。


これまで作者はネコ飼いたいな……とツイッターでネコ動画を眺めるだけでしたが、うっかりネコを主役にした短編を思いついてしまいました。


アタクチの名前はジョゼフィーヌ。


アタクチほど高貴で美しいネコ様はいなくってよ。

見て、この純白の美しいふわっふわな毛を。可愛らしく頭にのったお耳を。

しゃなりと伸びた尻尾を。そしてくりっとパッチリとした金色の目を。


アタクチの美しさは外見だけではなくってよ。

今それを語ってあげてもいいんだけど。でもねぇ、アタクチの下僕がなんか最近元気なくって。アタクチ、とぉっても優しいから気になってしまうのよ。

あんなに何回もため息を吐かれた日にはねぇ、何かあったと思うわけ。


「はぁ……」


ちょっとぉ、アタクチと一緒にいるのにため息とはどーゆーことなのよ!!

むかついて下僕が広げた教科書なる本の上に寝転ぶ。


「あ、ごめんね。ジョゼフィーヌ」


そうよ、分かればいいのよ。そうそう、お前のそのマッサージ、気に入ってるのよ。

んーー、そうそうそこそこ。頬っぺたって意外と疲れるのよねぇ。

高貴なるアタクチはいつも笑みをたたえているからかしらね。


ポタリ

何かがアタクチの毛に落ちた。


ちょっとぉ! まさかあんた、アタクチの美しい毛並みの上になんか落としたわけ!?

アタクチの毛を汚すなんて万死に値するのよ!!


ガバリと起き上がり、下僕を睨みつける。でも、次の瞬間アタクチは呆気にとられた。


下僕が泣いている。


下僕が泣いているところなんてここ最近、見たことない。というかここ数年以上見ていない。だってこの下僕、この国のオーヒとかいうものに将来なるらしく、めちゃくちゃ勉強してたもの。マナーとかいうものだって、すっごく厳しくされていたし。いっつも嘘くさい微笑みを浮かべてたわ。

まぁ、高貴なるアタクチの下僕なら将来のオーヒとかいう偉いものになってもらわないと釣り合わないし、困るわよね。

この下僕、今はコウシャクレージョーというまぁまぁ偉い立場らしい。この国では上から何番目かに偉いんですって。ま、アタクチの下僕なら国一番くらいにはなってもらわないとね。


その下僕が今、アタクチの目の前で泣いている。子供のころから一緒にいた下僕が泣いている。


アタクチは大いに動揺していた。なんなのだ、この気持ちは。

たかが下僕。アタクチのお気に入りの下僕が泣いているだけジャナイ?


アタクチはどうしていいか分からなかった。高貴なるアタクチ、有能なアタクチなのに下僕が泣いていてどうすればいいか分からなかった。


しかし、ここでさっとおやつを食べに行くアタクチではない。すごすご逃げるなんて無能な猫のすることよ!


アタクチは恐る恐る、下僕の手に自分の手を重ねた。アタクチの美しい真っ白なおててを。

ふん、アタクチから触ってあげるのだから。さっさと泣き止めばいいのよ。

お前の涙、ちょっとばかし綺麗だとは思うけどアタクチの足元にも及ばなくってよ。


「ふふ。慰めてくれるの? ありがとう……ジョゼフィーヌ」


人間にしては長いまつげを伏せて下僕は辛そうに笑う。そういえば最近、こんな辛そうな表情ばっかりだ。


うん? 最近?


下僕がおかしくなった日を思い返す。

有能で賢くて美しいアタクチだから、すぐ思い出せるわ。そうよ、あの日。

あのいけすかない男がアタクチの家に来てからだわ。下僕のコンヤクシャだとか言うあの第一オージよ。


いっつもニヤニヤしてアタクチを下にみてくるのが嫌だったわぁ。アタクチにおやつも献上しないのよ。

それに、あの日。

あいつから他の女の匂いがしたわ。なんて気持ち悪い男って思ったもの。猫の発情期よりも始末悪いじゃないの。


「あの方は私以外に好きなお方がいらっしゃるのよ」


ちょっとぉ、下僕! お前! このアタクチの下僕なのに他の女にコンヤクシャとられてるんじゃないわよ!


でも、待てよ。

あの第一オージ、最初からいけすかなかったわ。アタクチと一度たりとも遊ばないし、跪かないし、褒めないし、撫でないし、マッサージしないし、おやつも献上しないのよ。

あんなのがこの下僕とこのまま結婚したらろくなことないわ。だって、結婚したらこことは別のお城に住むって聞いたもの。


ここのお屋敷のメイドとか侍女とかいう名前のたくさんいる下僕達は、なかなか優秀だわ。

アタクチに敬意をしっかり払うもの。美味しいおやつも献上するし、ブラッシングも丁寧でうまいわ。でも、他の所に行ったら質の悪い下僕しかいないかもしれないわ。


ふむ。

あらアタクチ、いいことを思いついたわ。でも、まずは情報が必要ね。

あら、下僕。やっと涙が止まったの?

仕方ないから今日は一緒に寝てあげるわよ。特別出血大サービスよ。

この高貴なるアタクチと一緒に寝れるんだから、いい夢みなさいよね!



アタクチがいつも眠るベッドもふかふかだけど、下僕のベッドの寝心地もなかなかだ。

下僕がガクエンというものに浮かない顔で行くのを、この高貴なるアタクチが見送ってやった。下僕は嬉しそうにアタクチをナデナデして、ガクエンに向かった。


下僕の母親が近づいてくるが、こいつは無視する。だって香水臭いんだもの!!

あと、下僕の父親は加齢臭がするから嫌いだ。高貴なるアタクチに臭い者が近づくなど言語道断! 頭が高い!

アタクチは優雅な足取りで庭に出る。下僕のお屋敷ということはつまり、アタクチのお屋敷だからどこに行くのも自由だ。


「ちょっとぉ、いるんでしょ! 聞きたいことがあるんだけどぉ!!」


一際高い木に向かって呼びかける。下僕達にはニャアニャアというアタクチの鈴のような綺麗な声が聞こえていることだろう。


「朝からうるっせーなァ」


バサッと地面に黒い影が落ちる。地面から近い枝に姿を現したのは、羽根の艶が一番美しいカラスだ。体も他のカラスに比べて大きい。ボスカラスである。


「あんた、第一オージについてなんか知ってる? 浮気してるらしーんだけど」

「あァ? それが物を聞く態度なのかよォ?」


高貴なるアタクチが聞いてんのよ! この性悪カラス! アタクチの下僕の一大事なのよ!


「ハァ」


カラスは下僕のようなため息をつくと、空に飛び立つ。

ちっ、役に立たないわね。


その辺のモグラに聞いてもダメだろうし……そうね、ネズミでも捕まえて城に忍び込ませればいいわね。あらアタクチ、ネズミなんて食べないわよ。まずいじゃない。アタクチ、下僕達からもっとおいしいものを毎日献上されているもの。


ネズミを探しに行こうとしたら、さきほどのカラスが戻って来た。


「てめェ、聞いといてさっさとどっか行くとはいい度胸だァ」

「あら、あんたが尻尾巻いて逃げたかと思ったのよ」

「ちげぇよォ。他のカラスに聞いてたんだァ」


ボスカラスに同意するように他の木にいたカラスが一声鳴く。


「あら、役に立つじゃない。ありがとう」

「……おめーに礼を言われるたァ、寒気がするぜェ。仲間に聞いたらァ、第一オージは他の女に入れあげてるらしいぜェ。次のパーチィでここの姫さんとのコンニャクハキするってェ、計画を立ててるようだァ」


思った以上にいけすかない奴だった。やっぱり、アタクチの直感は素晴らしいわ。


「国王ヘーカとかちょうどいないらしいぜェ。ショーコもでっちあげるんだとォ。城の庭に出入りするカラスから聞いた話だァ。間違いねぇなァ」

「アタクチに教えて良かったの?」

「ふん。あの第一オージって奴ァ、子供の時から仲間の巣を壊したり、仲間に石投げたりしてんだァ。あのオージの取り巻きも一緒になって仲間の子供を殺されたこともあらァ。恨みがあんだよォ」

「あら、高貴なるアタクチの下僕には随分不釣り合いな最低な人間だこと」

「なんかするなら俺達も噛ませてもらうぜェ」

「あら、アタクチはアタクチの下僕にしか興味がなくってよ。あんた達は好きにしなさい」

「ふん」


カラスから情報を貰った賢くて美しいアタクチは、念のためネズミ達にも協力してもらって裏どりをした。あら、脅してないわよ。だってネズミ、まずいから食べないもの。

ネズミのネットワークも広いのねぇ。すぐ情報が集まったわ。


「コウシャク家の残飯は美味しいんでチュウ!」

「オイラ達もがんばるっチュウ!」

「チュウゥ、食べないでください~」


って感じで快く協力してくれたわ。

ネズミたちは部屋の天井に侵入できるから、情報をたくさん持ってるわね。


で、整理すると。

どうやらあの第一オージは次の卒業パーチィとやらでコンニャクハキをするらしい。

オージの浮気相手がシンジツの愛の相手だとか。で、うちの下僕が彼女をいじめていたというショーコをでっちあげてダンザイするらしい。


アタクチの下僕がいじめなんてするはずないじゃないのよ~!!!

アタクチの下僕なのよ? 本気出したらそんな女、死んでるわよ! 部屋でメソメソ泣いてないわよ!


あら。ふぅふぅ。深呼吸。

高貴なるアタクチとしたことが、アホな人間どものために怒るなんて無意味だったわね。

よし、そうと決まれば。あの下僕に接触しましょう。


「どうした? おやつか?」


すりすりすりすりすり


「仕方ないな。内緒だぞ」


むふふふふふ。それでいいのよ、下僕2番。

この表情筋が死んでる男は下僕の義兄よ。アタクチの下僕2番。

下僕がオーヒになるからって、コウケイシャになるためにブンケから迎えたんですって。

綺麗な顔してるのに、ほとんど笑わないのよね。でも、アタクチの前では別よ。やはりこの美しすぎるアタクチの前ではこの下僕2番、よく微笑むのよ。


献上されたおやつをしっかり食して腹ごしらえは万全。

さぁ、下僕2番ついてきなさい!


「どうした? 何かあるのか?」


もう! さっさとしなさいよ!! 高貴なるアタクチが誘っているんだからすぐに来なさいよ!


「分かった」


降参するように手にしていた書類を置いて、下僕2番が立ち上がる。ふぅ、おっそいのよ。さぁ、下僕の部屋に行くわよ。ガクエンから帰ってくる頃なんだから。


「ヴィクトリア、どうしたんだ?」


「あ、お義兄様……」


ふぅ、ちゃんと鉢合わせできたわね。

てゆーか、下僕! 朝より酷い顔じゃないのよ! どうしたってのよ! ちゃんとメイクしてんの!? ゾンビよ! ゾンビ!


「酷い顔色だ。どうしたんだ? 何かあったのか?」


そうよ、下僕2番。頑張りなさい。アタクチは先に部屋に入るわよ。お気に入りのクッションの上で高みの見物といくわ。


あれから下僕は下僕2番の前でしこたまメソメソ泣いていた。でも、泣いている理由は言わなかった。

全く、あの下僕。変なところで頑固なんだから!!

でも大丈夫。下僕2番は優秀だもの。ほら、下僕が泣き疲れて眠ったらなんか考え込んでるわ。下僕2番は何かを決心したように立ち上がると、下僕の頬に愛おしそうにキスをする。


ちょっとぉ、アタクチ見てるんですけど?

目を細めていると、下僕2番はアタクチに向かってシーっと唇に人差し指を当てる。

ふん、あんたが下僕のこと好きだってアタクチはとっくの昔から知ってんのよ。まぁ、黙ってろって言うならおやつで手を打ってあげるわ。あと猫じゃらし30分よ。


それから下僕2番はいろいろ調べたようだ。

嬉しそうにしているし、加齢臭親父と話し合いをしている時間も長くなった。

アタクチ、バカな猫ではないからおやつと猫じゃらしはもう少し待ってあげても良くってよ?



朝から下僕がえらくめかしこんでいる。アタクチも一緒にお風呂に入れられた。


「ジョゼフィーヌはいつも綺麗ね」


下僕が分かりきったことを言う。アタクチが美しいのは太陽が東から登るのと同じくらい当たり前だわ。

侍女とかいう下僕に丁寧に毛を拭かれ、ブラッシングされる。はぁ、気持ちいい。苦しゅうない。


下僕もマッサージされて、化粧されてドレスを着せられている。なるほど、今日は卒業パーチィだ。


「どのアクセサリーがいいかしら」

「お嬢様、こちらは?」

「それは髪型に合わないわ」


侍女達がワラワラとアクセサリーで悩んでいる。何やってんだか。揃いも揃って使えないわねぇ。仕方ないなぁ。


「あ、ジョゼフィーヌ様。いけません」


ぴょんとアタクチは華麗にジャンプする。そこのお前、アタクチに命令するなんて百万年早くってよ。アタクチはとあるアクセサリーが入っている箱の前で優雅に足を止め、ポンポンと手を置く。


「まぁ! ジョゼフィーヌ様がアクセサリーを選んでくださったわ」

「あら、このお色のものがあったのね!」

「ヴィクトリア様にお持ちして」


アタクチが選んだのは下僕2番の目の色と同じ宝石を使ったものだ。

あの下僕2番の目、アタクチは気に入っている。だって今日の下僕のエスコートは下僕2番ですもの。第一オージは見事にすっぽかしやがったわ。ちなみに、まだ第一オージとコンヤク中とか気にしない、気にしない。ん? コンニャク中だっけ?


侍女達と一緒に卒業パーチィに行く下僕と下僕2番を見送る。

うん、いいじゃないいいじゃない。お似合いよ。下僕は珍しく柔らかい笑顔だし、下僕2番も色気がある。侍女が当てられて何人か倒れかけている。ふん、あんた達、根性が足りなくってよ!


下僕と下僕2番からしこたまナデナデされて、部屋に戻る。

果報は寝て待てって言うもの。下僕がパーチィから帰ってくるのを待ちましょう。

まどろんでいると、窓ガラスを叩く音で目を覚ました。ちょっとぉ、何なの? 美容には睡眠が大切なのよ!!


「なによ、ボスカラス」

「おい、てめェ。情報持ってきたオレになんて口の利き方だァ」

「あら、何かあったの?」

「第一オージがパーチィでコンニャクハキしたが、お前のとこの義兄がしっかりやり返した。オージと浮気相手はレンコーされ、結局コンニャク、じゃなかったコンヤクはなくなったぜェ。お前のとこのお姫様は無事だァ。もうすぐ帰ってくらァ」

「まぁ、そうなのね。ありがとう」


良かったわぁ。あのまま下僕がイジメたとかで捕まっちゃうかと思ったわ。帰ってくるならマッサージもまたしてもらえるわね。


「お前、まだ思い出さねぇのかァ?」

「何の話よ?」

「いや、こっちの話だァ。じゃあなァ」


ボスカラスは真っ黒な目でアタクチをのぞきこみ意味深なことを言うと、さっさと羽ばたいていった。

何なのよ、あいつ。もしかして仲間の復讐を派手にしたかったのかしら? それなら勝手にやったらいいのに。


下僕と下僕2番はその後すぐに帰ってきた。

出迎えをしたが、二人とも満足そうな顔だ。行きより距離縮まってるし。コンニャクハキされた人には見えないわぁ。もうさっさとコンニャクだかコンヤクだかしちゃいなさいよ。

はぁ、ほんと世話が焼ける。でも、下々の者達のことを考えるのも高貴なるアタクチの勤めよね。「のぶれす・おぶりーじゅ」ってやつかしら。



翌朝、下僕2番と加齢臭親父と香水臭い母親はお城に出掛けて行った。

イシャリョーとか、慌てて帰ってきた国王ヘーカとの話し合いがあるらしい。下僕はセーシンテキクツウを受けたとのことで一緒にはいかず、お留守番だ。

人間同士の話し合いにアタクチの出る幕はないわね。せいぜい、アタクチのためにおやつのお金を分捕ってきてほしいわ。


お気に入りのクッションの上でウトウトしていると、何やら屋敷が騒がしい。

あら、もう帰ってきたのかしら。下僕も部屋にいないし、どうしたのかしら。

優雅に廊下に出ると、侍女たちがバタバタしている。聞き耳を立てると予想外の来客があったようだ。

なんか嫌な予感するわね。


「チュウ、ジョゼフィーヌ様!」


上から声がしたので見上げるとネズミ達が5匹、天井に固まっている。


「第二オージが来てるっチュウ! あの第一オージの弟だチュウ」

「チュウ、食べないで! あいつ、オーイを狙ってるってウワサだっチュウ」

「お姫様にコンニャクを申し込んでるっチュウ!!」

「部屋に入れなくてヤバイっチュウ!!」

「なんかゴエーキシが扉の前にいるんだチュー」


5匹が口にした言葉にアタクチは身を翻した。親と下僕2番がいない間に何してくれとんじゃ!


「あ、ジョゼフィーヌ様!!」


途中で侍女に止められたが無視する。頭が高いわ!

見慣れないゴエーキシ達が立っている扉を見つけた。下僕の側によくいる侍女が部屋に入れてもらおうとしているが、首を振って中に入れないようにしている。

はぁぁあ? 何なの、こいつら。ここはアタクチの家よ! 何を勝手なことしてんのよ! お前ら頭が高いのよ!


アタクチは華麗にジャンプして侍女とゴエーキシの間に躍り出る。そして美しい爪を一閃させた。


「ぎゃあっ!」

「ジョゼフィーヌ様っ!」


ふん、オージのゴエーキシって顔が良くないとなれないんでしょう? あんたの顔をアタクチの爪でもっと美しくしといてあげたわ。

ジャンプした勢いのままドアノブにしがみつき、体当たりする。

ちょっと扉が開いて隙間ができたので、部屋の中に飛び降りた。


まず目に入ったのは下僕の上に覆いかぶさる男。

頭に血が上る。

しかし、ガンガンと窓ガラスを叩く音で我に返る。ボスカラスたちが部屋の窓を叩いていた。


覆いかぶさる男の急所、つまり首の後ろにアタクチは飛び掛かる。


「ぎゃあっ!」


男が体を起こし、アタクチを振り払おうとした力を利用して窓に飛ぶ。

そして窓の鍵に手を伸ばした。


あーあ、アタクチの美しく整えた爪がボロボロよ。しっかり後でケアしてもらわないと。

窓の鍵が開くと、カラスたちが部屋になだれ込んできた。なぜかスズメやツバメもいる。

鳥たちはいっせいに男、多分第二オージに向かって行った。


「鳥!?」


鳥たちがオージをつついたり、服を引っ張ったりして下僕から引き離してくれる。アタクチは下僕の膝にたたっと上った。


「あ、ジョゼフィーヌ!」


下僕は叩かれたのか頬が腫れていて、抵抗したのか引っ張られたのか髪がかなり乱れている。涙の跡もある。怖かっただろう。震えながらも下僕はアタクチに手を伸ばしてきた。ぎゅっと抱きしめられる。アタクチが助けに来たのに、この下僕はアタクチを守ろうとする。


それはそうとあの野郎。第一オージが失脚したチャンスに、この下僕の家のウシロダテが欲しいからってキセイジジツを作ろうとしたわね。


アタクチの中で何かがキレた。

目の前が白くなる。聞いたこともない声がアタクチの口から漏れる。


しばらく、白い世界で目が見えなかった。


やっと目が見えるようになると、下僕がびっくりした顔でアタクチを見ている。

振り返ると、鳥たちは襲撃をやめ壁に沿って綺麗に並んでいた。さんざんつつかれた第二オージと途中からオージを守ろうと参戦したゴエーキシも、驚愕の目でアタクチを見ている。


どうしたのかしら? アタクチが美しいのは元々よ。


「じ、ジョゼフィーヌ?」


下僕が再度、アタクチを呼ぶ。ん? アタクチの足、大きくなってない?


「神獣だった……の?」

「神獣だ!」


なによ、そのシンジューって。真珠ならアタクチ、大好きよ。アタクチみたいに純白で綺麗だから。

その時、部屋の鏡が目に入る。

鏡には、大きくなって尻尾の数も増えたアタクチによく似た大きな白猫が映っていた。

ん? んん?


首を左右に振ると、鏡の中の猫も一緒に動く。前足を上げると、上げる。

んんん?


「やっと思い出したかァ。『堕ちた神獣』よォ」


ボスカラスが偉そうに言うが、は?って感じだ。

しかし、大きくなったなら好都合。第二オージに向けてアタクチは唸る。


「っなぜ神獣が?」


どうよ、大きくなった美しく高貴なアタクチは。てゆーか、こいつら気に入らないから出てって欲しいわ、アタクチの家から。


すると、開いた窓からカラスが一羽入ってくる。そのカラスはニヤッと笑って、足で掴んでいたハチの巣をオージ達に投げつけた。


「ぎゃっ、ハチだ! 刺される!!」

「殿下、攻撃しては駄目です! 痛っ!」


不思議なことに巣から出てきたハチはオージとゴエーキシ達しか攻撃しない。

うふふ、ざまーみろ!

アタクチはそこで下僕のドレスが少し破れていることに気付く。間に合ってよかった。

アタクチは増えた尻尾でそぉっと下僕を包む。下僕はおずおずとアタクチの尻尾に身を任せた。どぉよ? アタクチのフワフワの毛は。アタクチがあんたを守ってるのよ。


鳥たちはハチに声援を送っている。あれ? 巣を壊してたのって第一オージじゃなかったっけ? ボスカラスに視線を向けると「レンタイセキニン!」と返ってきた。同じオーゾクだからいいのかしら。

ひとしきりオージ達の醜態を堪能した後、アタクチの一息で城まで飛ばしておいた。あら、小さい体のアタクチも可愛いけれど、大きい体も便利ね。



そうこうしているうちに下僕2番達が帰って来た。その頃にはアタクチは元の大きさに戻り、下僕の膝の上で下僕に撫でられへそ天をしていた。

残っていたハチの巣はネズミ達が綺麗にしてくれたし、鳥たちもビシッと翼で敬礼して出ていった。


「やっと戻ってくれて一安心だァ」

「なによ、戻ったって」


下僕に撫でられながら窓の側にいるボスカラスと会話する。


「お前、まさかまだ思い出してないのかァ? 神獣化しといてェ?」

「知らないわよ、シンジューなんて。アタクチはジョゼフィーヌよ」

「そーゆー傲慢なとこは変わってないんだけどなァ。まぁこれから大変になるぜェ」


ボスカラスは確信めいた言葉を残し、高笑いしながら飛び立った。

なによ『堕ちた神獣』って。アタクチはジョゼフィーヌよ。そんなダサい名前なわけないでしょ。


この日を境にボスカラスの言うように大変になるのだが、高貴なるアタクチはしばし下僕のマッサージに癒されるのであった。


こんなコメディをよく書いてます。

「続きが気になるぜェ!」「まだ読んでやってもいいぜェ!」という方は、良ければ下の☆マークで評価をお願い致します。いいねやブクマなども泣いて喜んでおります。

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※9/22から連載版スタートします。連載版のタイトルは変わっております。「堕ちた神獣伝~高貴で傲慢なジョゼフィーヌ~」です。よければ見てやってくださいませ。ちなみに5話までは短編にほんの少し加筆修正した内容です。


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