僕っ子は地雷だと彼の友達は気づいている
体育の時間、男女で分かれての授業の合間に友達と集まって話をする。
最近面白い漫画、ゲーム、そして、それがいったん落ち着くとやがて楓の方に話が移っていった。
「そういえば、佐藤って桐ケ谷とほんと仲いいよな」
「ん?まぁ、保育園の頃からの幼馴染だしな」
「かーっ!あんな可愛い幼馴染がいるとか羨ましいぜ」
「はっはっは。そうだろう、そうだろう。言うなればトリプルS、俺にはもったいないくらいのいいやつだぞ?」
「…………おい、山下。コイツ、痛い目見たいらしいぞ?」
「だな。裏切り者には罰を……天誅っ!」
「あ、いてっ。バカ、やめろよ」
山下と竹島、普段から仲の良い二人が息の合った動きでこちらに蹴りを入れてくる。
さすがに本気ではないのはわかるが、脛ばかり狙うところに若干の本気が感じられ地味に嫌らしい。
「おい、ほんとやめろって。裏切り者ってんなら、そこで笑ってる東堂の方だろ?」
抵抗空しく激化する攻撃に、矛先を逸らす意味でそう伝える。
というより、学年でもトップを争うモテ男を差し置いて俺がいじめられるのは、なんだか釈然としない。
高い身長に、甘く整った顔。金持ちな上に性格もいいというある意味嫉妬の血涙が出るような相手だ。
標的にするには、格好の存在だろう。
「ん?俺?」
「そうだろ。なぁ?」
「…………いや、なんか東堂はスペック高すぎてもう、何も言う気失せるわ」
「…………それな。東堂はフツメンの佐藤とは違って理由がありまくるし」
「はぁ!?なんだよそれ」
同意を求めるために投げかけた言葉に対し、二人は顔を見合わせるとアホな子を見るような目をして俺の肩に優しく手を置いてくる。
「俺だって、ほら、そんな悪く無いだろ?」
「はぁ。現実を見ろ、佐藤。お前を甘やかすのは桐ケ谷くらいなもんだ」
「そうだぞ。ほら、東堂様のあり難いお言葉でも聞いて目を覚ませ」
『「先生、お願いします」』
「おいっ!やめてくれ。俺は、知りたくない!」
両肩をガシっと掴まれると、東堂の前に突き出すように立たされる。
そして、逃れようとする俺に向けて、東堂は親指を立てると、爽やかな笑みを浮かべた後にゆっくりと頷いた。
「君…………フツメンっ!」
「ぐわぁー」
崩れ落ちるようにして倒れる姿に、遂に堪えきれなくなったのか周りから笑い声が漏れたのが聞こえる。
ある意味、いつもの光景。
茶番のようなやり取りは、どうやらいったんこれで手じまいでいいらしい。
「しかし、佐藤はすごいよ」
「ん?なにがだよ」
そして、しばらく経ち笑いも収まってきた頃。
ふと東堂から、そんなことを言われて疑問に思う。
こいつは、嫉妬すら湧かないほどの高スペックな上に性格も良い。
実際のところ、すごいという言葉をかけられるようなところにまるで心当たりがなかった。
「桐ケ谷さんをちゃんと、こっち側に留まらせてる」
「そりゃ、どういう意味だ?」
「ははっ。どういう意味だろうな?」
何か、俺ではわからないようなことがあるのだろうか。
そう思い、山下と竹島の方を見るも、彼らも同じようなアホ面を並べてるだけで頼りにはなりそうになかった。
「……………………首輪、か」
「え?なんて?」
「いや、なんでもない」
釈然としない態度に言いたいことはあるが、ぐっと我慢する。
こいつとは、一年近い付き合いだ。
こういう時には何を聞いてもはぐらかされるのは知ってるし、ちゃんと言うべきことは伝えてくれるやつでもある。
なら、今は別に聞かなくてもいい話だということなのだろう。
「そういや、去年転校した斎藤とこの前会ったんだけどさ」
「げー、斎藤さん?俺、あの人にこっぴどく振られたんだが」
「あははっ。いつものことだろ?てか、それより聞けよ。あのスポーツ女子が今はめちゃくちゃ雰囲気変わっててさ…………」
聞きたくないとでもいうように耳を塞ぐ俺に、面白そうに話しかけてくる竹島。
山下は呆れながらも、揶揄った方が楽しいと思ったのかそちら側につくような雰囲気を感じる。
加えて、東堂は何かを考えこんでいるようで味方は一人もいないようだった。
「………………人の皮を被った怪物。彼女がまだギリギリのラインで留まっていられているのは、たぶん君のおかげなんだろうね」
そして、いつも通りのやかましい日常。
独り言のように呟かれたその言葉は、誰の耳に届くこともなく、周囲の喧騒に溶け消えていった。
また性懲りもなく書いてます。文字数的にも雰囲気的にも、なんか書きやすいんですよね(笑)