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アイカとマナミ

作者: 柄本ともる

 待ち合わせ場所に彼女が現れたとき、すぐに分かった。俺は試されている。

 俺の彼女は双子だ。一人はアイカ、もう一人はマナミ。俺の高校で有名な、美人一卵性双生児。背格好も髪型も声も、何もかも似ていた。しかし、見分ける方法はあった。

 マナミは笑った時に、口角が少し下がるのだ。あとは、性格の違い。一卵性とはいえ、やはりそれぞれに個性はある。付き合う友達や、趣味趣向に多少の違いがあった。

 そして俺の属するグループでは、双子の明るい方、そうじゃない方と陰で区別していた。付き合うならどっち?俺は明るい方かな。えー、清楚系もイイじゃん?そういう会話を何度かしたことがある。俺なら断然、明るい方。選ぶなら学年一の美人だろ。

 アイカもマナミも、モテるはずなのに彼氏はいなかった。何人かが告白したらしいが、どれも振られたと聞いた。でも俺には彼女と付き合える自信があった。正直、俺はモテる。実際グループ内では、告白された回数も付き合った経験も、俺が一番多い。

 学年が変わる直前の二月、俺はアイカを校舎裏に呼び出した。

「アイカ、俺と付き合わない?」

 言うと、アイカは照れたように笑った。綺麗な弧を描く口元で。

「いいよ」

 そうして俺たちは付き合い始めた。しかしその直後に、世界中で広がった未知のウイルスのせいで日本には緊急事態宣言が出され、学校は休校になった。せっかくアイカを彼女にできたのに、約二か月の間、デートはお預け。恋人らしいことは電話をする程度しか出来なかった。

 学校が再開し、みんなマスクをして登校するようになった。口元で見分けられていた双子は、余計に分かりにくくなったと皆から笑われていた。実際に、アイカが周りからマナミと間違えて呼ばれているところを何度か見た。

 俺は誰にも、アイカと付き合っていることを言わなかった。いつの間にか仲良くなっている俺とアイカに周りが気づき、実はカップルになっていたと明かす方が、ドラマチックで注目が集まると思ったからだ。そして予想通りの展開になった。

「お前もしかして……あの双子と付き合ってる? 今日の朝、一緒に登校してるの見た」

 教室でグループの連中と居るときに、一人が尋ねてきた。待ち望んでいた瞬間だ。

「ああ。明るい方と、実は二月から」

 悲鳴にも近い声が上がる。そして羨望の眼差し。お前、早く言えよ。マジかよ。口々に発せられる言葉が気持ちよかった。周りで聞いていたクラスメイトもざわつき始めている。学年中に広まるのは時間の問題だろう。

 放課後に近くのハンバーガー店に行くから、そこに連れて来いと友達の一人が言った。待ち合わせのため、アイカに告白したのと同じ場所に呼び出した。そして彼女が現れたとき、すぐに分かった。来たのはマナミだ。

 友達に紹介される前に、俺を試そうとしているのか。マスクで口元が隠れているから分からないと思って。だが、さすがに付き合っているのだから、俺の目はごまかせない。見くびらないで欲しい。

「君、マナミだよね。俺が分からないと思った?」

 目の前に来た彼女に言う。声を受けて、彼女がマスクをはずし、ニコリと笑った。口角が少し下がる笑顔。

「ほら、やっぱりマナミだ」

「違うわよ、わたしはアイカ」

 彼女が失笑混じりのため息をつく。

「あなたずっと勘違いしているみたいだけど、口元が下がる方がわたしよ。性格で判断されるときによくみんな間違えるんだけど」

 まさか。綺麗に笑う方が、明るい方だと思っていた。つまり俺は最初からマナミに告白し、付き合っていたのか。

「告白されたときにアイカって呼ぶから笑っちゃったって、あの子。いつまで経っても気付かないから、今日、最後のチャンスをあげたのに。あなた、最初からわたしたちには興味がなかったんでしょ。自分が注目されたかっただけ」

「そ、そんなことは……」

「今、マナミが……あなたの彼女が友達のところに行ってるわ。真実を全部話すって」

 血の気が引いた。俺がアイカとマナミを勘違いして、何か月も付き合ってたなんてことが知れたら、恥だ。

「お願いだ、アイ……マナミを止めてくれ」

「もう遅いよ。みんながどんな反応するか、楽しみだね」

 口元を下げ笑いながら、アイカが去る。俺はその場に立ちつくし動けなかった。


公募ガイドの小説工房テーマが「マスク」の時に書いたものです。

自信満々ナルシスト男に恥かかせてやれて満足しました。笑

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