8話 いつも通り
休みの日。
朝早くに目が覚めた。
ちょっと体を動かしに訓練場へ。
リビアが居た。
かなり前から体を動かしていたらしく、結構な汗をかいている。
声を掛けた。
「リビア、おはよう」
「おはようございます、クリア」
さわやかな笑顔だった。
「休みの日くらいサボってもいいんじゃないか?」
「そういうクリアこそ」
「俺はちょっとだけ」
「目覚まし程度だから」
たぶんリビアは毎日やっているんだろう、本当に真面目だ。
「模擬戦とかしてみる?」
「ぜひお願いします」
しばらく二人で汗を流し、二人で朝食を摂った。
さわやかな朝の思い出だ。
二十一階層から二十九階層までの九階層分は、この前の櫛団子と同じ構造だ。
出てくるのも角影パーティーだ。
二十階層と同じ。
ただし団子の数が増える。
二十個ずつ増える。
二十九階層は団子が二百個だ。
食べきるしかない。
たぶん満腹になるだろう。
一か月ダンジョンに潜るつもりで準備した。
出来れば一回で二十九階層までたどり着きたい。
結果から言うと二十九階層まで難なく行けた。
到達するのに三週間もかかったが、一回目で到達したのだ。
順調だろう。
リビアの到達階数も二十九階層に更新された。
ダズに三十階層へ挑戦して良いか確認しよう。
たまたまダズが拠点にいた。
三人で会うのは久しぶりだ。
「三十階層に挑戦して良いか?」
「これからは俺に報告しなくていい」
「自分たちで決めろ」
「聞きたいのはそれだけか?」
「三十階層はどんな奴が出るんだ?」
「三十階層からの情報は教えられない」
「他に質問は?」
「無いなら俺は出かけるぞ」
ダズは行ってしまった。
また一か月分の準備をした。
二十九階層の最後の団子を食べ終えた。
三十階層はすぐに扉がある。
十階層の時に似ている。
入ると閉まる扉だろう。
二人で中に入る。
部屋の中央に影が集まっていく。
どんどん大きく膨れ上がる。
後ろの扉も、奥の扉も閉まっている。
完全に閉じ込められている。
まだどんどん影は膨れ上がる。
俺の気配読みのアラームは鳴りっぱなしだ。
不味い!
これはダメだ!
影から距離を取った方が……。
そう思った時、一気に影が集まり、カタチになった。
四メートルを超える影の塊は、近くにいたリビアに殴りかかった。
事態は、突然起こっていた。
気がついた時には、手遅れだった。
影の悪魔の一撃で、リビアの盾がはじけ飛ぶ。
映像がゆっくり流れていく。
リビアは剣で躱そうとするが、悪魔は構わず拳を振るう。
リビアは気を失った。
俺の体は鉛の様に重く、リビアにたどり着かない。
リビアは足を持たれて地面に叩きつけられた。
一回。
二回。
俺はやっと悪魔にたどり着いた。
悪魔に槍を突き入れる。
刺さらない。
リビアから手を放しやがらない。
リビアはまた地面に叩きつけられる。
三回目。
四回目。
リビアが死ぬ。
死んでしまう。
悪魔が邪魔くさそうに振るった拳が俺に命中した。
十五メートルほど吹き飛ばされ、部屋の隅に叩きつけられる。
ダズ。
ダーズ!
お前知っていただろ、こうなるってわかっていただろ!?
いるんだろダズ。
今も見ているんだろ?
また助けてくれるんだろ?
悪魔はリビアの足を持ったまま走りだした。
勢いを付けて側面に叩きつける気だ。
今度こそリビアが死ぬ。
ダズの助けは無い。
無いんだ!
またスローモーションになった。
壁に向かってゆっくりと動く悪魔。
一瞬だけ、殺意が芽生えた。
あいつに穴を穿つ。
そう思った。
黒い光の筋が悪魔の胸を貫き、光は壁に突き刺さり、止まった。
悪魔は消滅し、魔石が残った。
俺は槍を投げ終わった姿勢で硬直している。
俺は槍を投げていたらしい。
リビアが泣いている。
恐怖によるものか、安堵によるものか。
ドクドクと、心臓の音がやけに大きく感じる。
リビアの様子を見ないと。
つかまれていた左足が折れていた。
盾をはじかれた時に左手も折っていたらしい。
戦闘は無理だな。
俺はリビアを気遣いつつ、一人で敵を倒しながら、地上を目指した。
索敵で逃げながら移動して、地上にたどり着いた。
リビアを診療所に連れて行った。
リビアの様子も気になるが、俺はダズに話がある。
ダズは拠点にいた。
「なぜ教えてくれなかったんだ!」
「リビアが大怪我をした」
「死ぬ所だった!」
「進むかどうか、判断したのはお前たちだ」
「自分たちで解決しろ」
「クリア、そろそろ真剣にやれ」
「俺が真剣じゃないだって?」
「やっているだろ!」
「いや、お前は真剣にやっていない」
「初めてお前に会った時の事を覚えているか?」
「今から思えば、お前は、五日身動きが取れず死にかけていた割には、平然と自己紹介していたな」
「あの時もまだ余裕があったんじゃないか?」
「俺はお前を見ていて時々考えていたんだ、あの時お前に声を掛けなかったらどうなっていたんだろうってな」
「たぶんお前はサバスに辿り着いていた」
「外の魔物を倒してな」
「そんなこと出来るはずないだろ」
「武器だって持ってなかった」
「武器は関係ない」
「素手でも出来たはずだ」
「あの時、俺がお前に声を掛けたのはなんでだと思う?」
「脅威を感じたからだ」
「お前のへたくそな気配消しの間から、俺ですらも恐怖する殺気が漏れていたからだ」
「だから見つけられた」
「リビアもお前も才能の無駄使いだ、真剣にやれ」
ダズが何を言っているかわからない。
リビアの様子を見に行こう。
ダズはもういい。
リビアの命に別状は無いらしい。
笑う余裕があった。
骨折は二か所どころじゃなかった。
三ヵ月は入院、さらに二か月は療養が必要だ。
心に傷を負ってないと良いが……。
俺に気力は無かった。
もう何もする気は無い。
案内人候補になって初めて態とサボった。
今までにない無気力感が来る。
でも焦りは感じない。
全てどうでも良い。
六日ほど部屋にこもっていた。
腹が減って食堂に行った。
誰もいない。
気づくと夜中だった。
外の店もやっていないだろう。
暇だ。
最近日記を付けていなかった。
まとめて日記を付ける。
日記を付けて時間をつぶす。
三十階層での日記で、書くのが止まった。
リビアの顔がちらつく。
ダズの真剣にやれ、という声が聞こえる。
俺は、この先の展開に予想がついている。
俺の槍は、投げた時にボロボロになっていた。
始めに使っていた何の変哲もない槍を引っ張り出した。
しばらく槍を眺める。
やはり、なんの変哲もない。
そろそろ食堂がやっている時間だ。
六日ぶりに食べた。
旨かった。
旨いと感じていた。
またダンジョンに潜る。
一応一か月分の準備をした。
でも、たぶんそんなにいらないだろう。
そんな気がする。
一階層から五階層はいつも通りだった。
六階層で盾持ちが出てきた。
俺が放った突きは盾を貫通して致命傷を与える。
いつも通りだ。
十階層に来た。
ケンタウロスに突きを放つ。
衝撃で四本腕が全部かち上がる。
体勢が崩れた。
次に放った突きが致命傷になった。
いつも通りだろう?
十一階層から十九階層まで焦らず進んだ。
魔物を相手する時間が短くて済む。
そう時間は掛からない。
二十階層から櫛団子だ。
七体出ようが関係ない。
一人で処理していく。
出来てしまう。
端から順番に槍を突き入れる。
一撃で消えていく。
楽なもんだ。
三十階層。
さあ、ご対面だ。
扉が閉まって、影が集まっていく。
出やがった。
だが焦りはない。
この先の展開は読めている。
俺は間合いより三メートルほど離れたところから突きを放つ。
槍の先から黒い光が伸び、悪魔の左腕に命中する。
振動だけが伝わる。
悪魔の左腕が根元からはじけ飛んだ。
右腕を狙う。
また、振動だけが伝わる。
悪魔の右腕が根元からはじけ飛んだ。
悪魔は吠えている。
こっちにダッシュしてくる。
バックステップして槍で穿つ。
悪魔の胸を貫いて、悪魔は消えた。
あっけなさすぎる。
三十体は相手した。
全て、あっけなく終わる。
不意にリビアの顔が浮かんだ。
真剣にやれ、という声が聞こえる。
俺は槍を放り投げて素手で悪魔に殴りかかった。
悪魔が十五メートル吹き飛び、部屋の端にぶつかる。
俺は悪魔の脚をつかんで床に叩きつける。
一回。
二回。
三回。
四回。
五回。
そうだ、勢いをつけるんだったな。
悪魔をつかんだまま反対の壁に向かって走る。
思い切り勢いを付けて悪魔を壁に叩きつける。
一回。
反対側に向かって走る。
二回。
掴んでいた手に、奴の感覚が無くなった。
消えやがった。
消化不良だ。
「ァっーーーーーーーー」
苛立ちは声にならない。
もう帰ろう。
のろのろと魔石を拾っていく。
昇華されない苛立ちは、虚しさに変わる。
喜びなど感じる筈もない。
ただただ、虚しいだけだ。
ゆっくりと歩いて帰った。
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