川柳部の将来
遠藤は高杉ら二年生を帰宅させると、大原と里子の三人でミーティングを開始した。
「率直に聞きたい。川澄をどう思う?」
大原は里子をチラッと見て、首を横に振った。
「僕達のレベルに追いつけるとは思えません。万年補欠です」
「私も同感です。高校生にもなって小説も読んだ事ないなんて、川柳をなめてます」
「五・七・五なんて簡単に出来るって思っていたんだろう。だが、今のところ新入部員は川澄しかいない。年々、川柳部の部員数は減っている。このままでは同好会に格下げだ」
青葉高校では、部員数が三年連続で十名を切ると同好会に格下げとなり、生徒会から予算が降りなくなるのだ。川柳部も昨年度までは部員が十名いたのだが、今年度はとうとう十名を割り込んでしまった。これから三年間、つまり亜矢子の在学中に川柳部員が十名に達しなければ、川柳同好会となってまうのだ。
この地域では川柳が盛んだった。昭和初期に川柳界では知らぬ者はいないと言われた加賀美遊登と言う川柳作家が、この地域の出身で弟子も多かった。第二次世界大戦を挟んで昭和四十年代までは「高尚な文芸」として人気のあった川柳だか、昭和五十年代になるとレジャーの多様化に伴い、川柳を含めた文芸への関心が薄くなっていった。高杉ら川柳部員は祖父母が加賀美の影響を受けていたために、幼い頃から川柳の手解きを受けていたので、この地域で唯一川柳部がある青葉高校に入学したのだ。因みに遠藤も青葉高校川柳部OBで、高杉の祖父は川柳の師にあたる。
「俺が高校生だった頃は、青葉以外にも川柳部のある高校ば沢山あった。もう思い出でしかないがな」
遠藤は川柳部の廃部を覚悟した。新入部員の亜矢子に川柳部の将来を託す要因が見当たらないからである。