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初挑戦

 その夜、亜矢子は数学の宿題に苦戦していた。なんとか数学の宿題を早く終わらせて、「ヤングのための川柳入門」を読もうと思っているのだが、まだ一問も解けずにいるのだ。

「明日、学校休もうかなあ? いや、さすがにそれは駄目だ」

 亜矢子は例題を見ながらなんとか数学の宿題をやり終えた。去年までは美智子に宿題を写させてもらったりしていたが、高校ではクラスが別になり、更に美智子が亜矢子を自立させるために距離を取っているので、亜矢子は出来る限りの努力をしようとしているのだ。

「ふう、最初から出来ないってあきらめちゃ駄目だな」

 亜矢子はようやく「ヤングのための川柳入門」を読み始めた。しかし、文字だけの本を読む習慣が無かった亜矢子にとっては、睡眠への案内にしかならなかった。


 翌日も亜矢子は休み時間になると「ヤングのための川柳入門」を読み進めようと試みたが、すぐに睡魔が襲ってくるため、遅々としてページが進まなかった。

「おい、川澄。体調悪いのか?」

「川澄さん、大丈夫? 保健室で休む?」

 一年D組の室長(男子)副室長(女子)が亜矢子を心配して声をかけてきた。

「室長、副室長。ごめん、川柳部の宿題なんだ」

「俺が代わりに読んで、要点まとめようか?」

 亜矢子は首を横に振った。

「優等生のアンタからしたらまどろっこしいかも知んないけど、アタシは自分でやりとげたいんだ」

 副室長は室長の背中をポンと叩き、亜矢子の元から立ち去った。

「そうか、みんな心配してたから」

 室長も亜矢子の元から立ち去ると、他のクラスメートもひと安心したのか、亜矢子に「頑張れ」とばかりに手を振って彼女から離れた。亜矢子は「いいクラスだな」と思いつつ、少しずつ「ヤングのための川柳入門」を読み進めていくのだった。


 土曜日の授業が終わり、亜矢子ら生徒は荷物をまとめていた。そんな中、亜矢子の前の席の女子生徒が声をかけてきた。

「川澄さん、帰ったら読書の続き?」

 亜矢子は大きなため息をついた。

「なんとか、今日中に読み終えて明日は漫画読むんだ」

「一章読んだら漫画読んで気分転換するとかしたら?」

 亜矢子は大きく首を横に振った。

「駄目! 漫画の誘惑に負けちゃうもん」

「そっか、まっ頑張ってね」

「アンタこそ、午後からテニス部でしょ? すごいよね、日曜も部活なんでしょ? よくやるよ」

「練習しないと試合出られないから。じゃ!」

 教室をかけ出していった彼女を見て、ラクそうなと言う理由で川柳部に入部した自分を恥じる亜矢子である。


 帰宅した亜矢子は、母・晃子あきこの分を含めたスパゲッティ二人分を茹でながら、玉ねぎやピーマン、赤ウインナーを包丁で切っていた。

「亜矢子、悪いわね。伯父さんが中々帰してくれなくて」

 晃子は兄の見舞いから戻ってきた。晃子の兄、つまり亜矢子の伯父は急性虫垂炎いわゆる「盲腸」の手術の為に入院中なのだ。

「不安だったんだよ、伯父さん」

「不安って、もう五十近いのよ」

「明日、お見舞いに行こうかなあ?」

「アンタは川柳部の宿題を優先しなさい。伯父さんもその方が喜ぶから」

 亜矢子は「そうなのか?」と思いつつ調理の続きをした。

「ごちそうさまでした!」

 亜矢子の作ったナポリタンスパゲッティを食べ終えた川澄母子は、使用した食器を台所に運び食卓をダスターで拭いた。

「亜矢子、あとはお母さんがやるから」

「じゃ! お願い」

 亜矢子は自分の部屋の学習机で「ヤングのための川柳入門」を読み始めた。調理をして気分転換が出来たのか、文字だけの本に対しての「苦手感」が少しだけなくなってきた。夕食前には完読し、見よう見まねで川柳をひねり床についたのである。


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