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帰り道
亜矢子は自宅近くの電気屋を通りかかっていた。亜矢子の父・修と電気屋の主人・石山はプロ野球ファン同士と言うことで昔から家族ぐるみで親交を深めていた。石山夫妻には子供がおらず、亜矢子を実の娘のように可愛がっていた。
「亜矢子ちゃん、部活の帰りかい?」
石山は亜矢子のために、店内のテレビ一台にアニメーション番組を映させた。
「石山のおじさん、折角だけど部活の宿題で本読まなきゃいけないから。今日は早く帰るね」
「部活で宿題? 確か川柳部に入ったんだよな」
「うん、季語の無い五・七・五だからラクな部活かと思いきや、いきなり川柳の歴史なんか話し始めてさ。じゃ!」
「気をつけてな!」
亜矢子は石山に手を振って家路を急いだ。店内に戻った石山を夕食の準備をしていた妻・久美子が出迎えた。
「亜矢子ちゃん、もう帰ったの?」
「ああ、部活の宿題で本を読まなきゃいけないらしい」
「川柳部の? 亜矢子ちゃんも大変ねえ」
亜矢子が高校生になって、あまり店に立ち寄らなくなるかと想うと、彼女の成長を喜びつつ寂しさも否定できない石山夫妻であった。