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束の間の専業主婦

 県立青葉高校創立記念の川柳大会から三ヶ月が過ぎた。

「高杉クン、明日はお休みでしょ? 一杯やろうよ」

 亜矢子は冷蔵庫から日本酒を取り出し、リビングルームに向かった。高杉は沖縄で買った赤と緑のガラス製のお猪口とカシューナッツと小皿二枚を運んで来た。


 清音が青葉高校で高杉にキスしたのを、今野は川柳作家としての活動を優先させてきたがために、清音の欲求不満が爆発したのだと思い込み、スケジュールを調整して二ヶ月の休みを清音に与え、高杉亜矢子として過ごさせる事にしたのである。


「亜矢子、十何年か振りに長期休暇もらえたんだ。家事は僕が」

 亜矢子はカシューナッツ一粒を高杉の口に放り込んだ。

「川柳作家を休んでるから、高杉クンの奥さんをするんじゃん」

 高杉はカシューナッツを食べて日本酒の栓を開けた。

「おっ? 珍しいねえ。お風呂入る前に呑むなんて」

「呑もうって言ったのは亜矢子だよ。それに一晩くらいなら風呂入らなくてもいいかなあって、入院中なんか二日に一回の風呂だったし」

 高杉はお猪口二個に日本酒を注いだ。

「高杉クン、一緒にお風呂入ろっか?」

「はい?」

 亜矢子は一気に赤のお猪口を空にした。

「ほら、高杉クンも呑んじゃて」

 高杉は二日酔いを覚悟で一気に緑のお猪口を空にした。

「大丈夫だよお。高杉クン、自分が思ってるよりお酒強いんだから」

 亜矢子は高杉を浴室へと向かわせた。

「そう言えば、初めて高杉クンとお風呂入ったのって、最初の全国(川柳)大会の後の合宿だったっけなあ。先生や他の先輩が急に来れなくなって」

 亜矢子は四十年近く経って、顧問だった遠藤の計らいだったかも知れないとポジティブに捉える事にした。

「休みが明けたら、川柳頑張んないとなあ」

 亜矢子は高杉と一緒にいられる時間が少ない事を悔やむのをやめた。川柳がなければ高杉とは出会わなかった。そう考えると、川柳にもっともっと真摯に取り組む決意をしつつ、嬉々として日本酒とお猪口二個を浴室に持っていく亜矢子であった。


《終わり》


長い間、お読みいただきありがとうございました。

この


「先輩を高杉クンと呼んだ夏」


を気に入って下さったら、


「良寛さんにはなれない」


「阪下駅のおにぎり屋」


もお読みいただけたら幸いです。


次回作も絶賛構想中! お楽しみに!

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