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丸投げ

 高杉は佐藤に校内を案内され、普通棟の屋上に来ていた。県の予算が無いのか、校舎等は在学時から変わらないと実感する高杉である。

「昔とあまり変わらないって思ってます?」

 佐藤は柵の前まで進みグラウンドを見下ろすと、高杉を手招きした。高杉は佐藤に従い、運動部員達を懐かしそうに眺めた。

「ついこの間まで、彼等と同じ生徒だったと思う自分を図々しく思います」

「頭の中の自分と他人から見える自分のギャップを受け入れるのって、勇気いりますからね。保護者が年下って結構キツイもんです」

 高杉は深く頷いた。佐藤は高杉の前に顔を近づけた。

「はっ、はい⁉」

 たじろぐ高杉をみてケラケラ笑う佐藤である。

「ここで問題です! 私は以前、高杉先生と会った事があります」

 高杉は佐藤が自分との距離を縮めてくれているのだなと申し訳なくなった。

「県の研修でお会いしました?」

「ブッ、ブー! ヒント、川澄亜矢子の友達です」

 高杉は佐藤の顔を食い入るように見た。

「脳内で皺や白髪を画像修正してます?」

「いえ、目元を見て思い出してるところです。あっ!」

 高杉は佐藤の高校時代の顔を思い出した。

「確か、バレー部の、えっと、三原と一緒にいた?」

「え~! ひどい。三原先輩の事は覚えてるのに」

「すみません。顔は思い出せたんですが、岩田さん?」

「ブッブー! 残念でした。旧姓内川さゆりです」

 高杉が校門の前で佐藤らに待ち伏せされた事を思い出した時、屋上のドアが激しく開いた。

「あっ! 高杉先生、いたいた」

 息を切らしながら駆け寄って来たのは教頭である。佐藤は教頭の元へ歩み寄り、彼を停止させ深呼吸を促した。高杉は嫌な予感を抱きながら佐藤に続いた。

「はあはあ。佐藤先生、どうもありがとうございます」

 教頭は呼吸を整えて佐藤に一礼すると、高杉の肩に触れた。

「教頭、一体何があったんですか?」

「高杉先生、五月までに生徒達に川柳を教えてやって下さい」

 高杉は佐藤に「意味が分かりません」と目で訴えた。

「教頭、高杉先生が分かるように説明してあげて下さい」

 佐藤に諭された教頭は深呼吸して、伝えたい内容を整理した。

「本校は今年創立七十周年を迎えます。そこで駄目元で川澄清音先生にオファーかけてみたんです」

 高杉は小さなため息をついた。

「教頭、あの人気川柳作家さんにオファーしちゃったんですか?」

 佐藤は教頭の軽率さに心底呆れた。

「なんでも清音先生が本校の卒業生との事で、創立記念で句会をしていただけたいかお願いしたら、まさかの了解が頂けたんです」

 高杉は赴任早々、面倒な事になるなあと大きなため息をついた。

「高杉先生も在学時は川柳部だと聞いたんですけど」

 教頭はあまり青葉高校の歴史を知らないのだなと、高杉と佐藤は顔を見合わせた。

「教頭、それ昭和の話ですよ」

 高杉は令和の現在、川柳結社「いぶき」の同人(正会員)で主に欠席投句で参加している。他の同人からは「是非とも会長に」と言われているのだが、仕事が多忙である事を理由にずっと断り続けていた。

「昔取った杵柄って言うじゃないですか、せっかく清音先生がいらっしゃるんですから、我が校としても川柳で御迎えしたいじゃないですか」

 高杉は清音が人気川柳作家であるが故に、自分より遥かに多忙であると思うと、全校生徒の句を見るだけてもかなりの負担をかけてしまう事を懸念した。

「清音先生はとても御多忙な方です。そんなに御時間取れるんですか?」

 佐藤は教頭に冷静になってもらおうと、清音が多忙であることを訴えた。

「えっ? 句会って三十分くらいで選ぶんじゃないですか?」

 教頭の無知ぶりに只呆れるしかない高杉である。

「教頭、川柳に関しては私に一任して頂けますか?」

「マジですか? いやぁ、助かります~。川柳経験者が他にいらっしゃないので」

「清音先生のスケジュールは教頭が責任持って把握して下さい」

 教頭は大きく頷いてその場から立ち去った。

「高杉先生、いいんですか? 教頭から丸投げされちゃってないですか?」

「僕がやり易いように進めていきます。佐藤先生にも御協力をお願いするかも知れませんが、その時はよろしくお願いいたします」

 高杉が意外にしたたかなんだなと思いつつ、川柳に携わるのも面白そうと思う佐藤である。

「私も清音先生の句会に携われるんですか? なんか楽しい事がありそうですね」

 佐藤はバレーボール部の指導をどう調整して、創立記念の句会に携わるか考えながら「職員室戻りましょうか」と高杉に声をかけて屋上から立ち去った。




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