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ライバル? 姉貴分?

 青葉高校の最寄駅近くにある喫茶店「ひまわり」に到着した亜矢子は、東南アジア風の外観に店名とのイメージが合ってないなと思いながら高杉と共に入店した。

「あら、若柳君じゃない‼」

 高杉のもとに歩み寄って来たのは、アルバイトの末永洋子である。

「洋子さん、ここでバイトですか?」

 洋子は高杉が窓際が好みであると知って、サッと空いてる窓際のテーブルをさがして彼等を案内した。

「いらっしゃいませ。そちらの彼女、初めて見る顔ね?」

 亜矢子は洋子が高杉と親しげなのを見て、種火のようなライバル心を抱いた。

「青葉高校川柳部一年、川澄亜矢子です。高杉クンにはいつもお世話になっております」

 洋子は亜矢子が自分に対抗心むき出しである事が、面白くて仕方なかった。

「城西大学二年、末永洋子です。高杉君とは一緒にお風呂入ったり寝たりした仲です」

 洋子はニンマリと亜矢子にガッツポーズをして冷水とおしぼりを取りに行った。

「もしかして、高杉クンの彼女?」

 高杉は洋子のいたずらが始まったなとため息をついた。

「洋子さんのお爺様と僕の祖父が川柳のライバルあり親友でね。昔は家族ぐるみで旅行に行ったりしてたんだ」

「あの人も川柳やるの?」

 洋子が冷水とおしぼり二人分を運んできた。

「青葉高校川柳部にその人有りと言われたんだよ。彼氏に溺れるまでは」

 高杉は洋子をチラッと見て、メニューを亜矢子に差し出した。亜矢子は自分が知らない高杉を、洋子が知っている事に嫉妬した。

「だって~、かっこ良かったんだもん。峯岸先輩」

「高杉クン、知ってる人?」

「サッカー部のキャプテンだったらしい。遠藤先生は良く言ってなかったけど」

 亜矢子は洋子が表面的な価値で男を選ぶんだろうなあと決めつけて、メニューを高杉に戻した。

「私、アイスレモンティー」

「僕はアイスコーヒーにします」

 洋子は伝票に注文品を書き込み、軽く一礼して厨房に向かった。

「高杉クンより凄かったの?」

「川柳界の神童と呼ばれてた。常に僕の一歩も二歩も先を歩いていたよ」

 高杉の言葉から洋子が川柳をやめていると断定する亜矢子である。

「まさか、ここでバイトしてるとはな」

「えっ? なんで?」

 洋子がアイスコーヒーとアイスレモンティーを運んできた。

「お待たせいたしました。アイスコーヒーとアイスレモンティーです。どうぞ、ごゆっくり」

 洋子は亜矢子に顔を近付けた。

「なっ、何ですか?」

「あんた、高校から川柳始めたの?」

「そ、そうですけど」

「今度、川柳見せてよ」

 洋子はサムズアッブして亜矢子達のテーブルから立ち去った。

「高杉クン、あの人何なの?」

「どうも、君の事が気に入ったらしい」

「はあ? 訳わかんない‼」

 亜矢子はおしぼりで手を拭いて、アイスレモンティーにストローを刺してひと口飲んだ。高杉もおしぼりで手を拭くと、アイスコーヒーにミルクとガムシロップを入れて、ストローでかき回した。亜矢子は高杉が甘党なのではと勘繰った。前に喫茶店で昼食を共にした時も、アイスコーヒーにすぐミルクとガムシロップを入れていたからである。

「洋子さんは遠藤先生とケンカしちゃってね。あわや、高校を退学するとまで言い出して」

 遠藤とケンカする事に関しては、洋子の肩を持つ亜矢子である。

「しかし、遠藤先生は頭固いなあ。恋愛が川柳の邪魔になるなんて、川柳部員は修行僧じゃないっての」

 亜矢子はアイスレモンティーのレモンをストローで沈めて少しでもレモン果汁をアイスティーに染み出させようとした。

「川澄は酸っぱいの好きなのか?」

「う~ん、レモンとか柑橘類は好きだな。グレープフルーツの酸っぱいのは大好き」

「砂糖かけない?」

「えっ? 高杉クンったら甘党?」

「そうだな、コーヒーにはまず砂糖を入れるし、果物だと苺をスプーンで潰して砂糖とか練乳かけて食べるのが大好きなんだ」

 亜矢子は高杉が飲食に関しては「お子ちゃま」であることに、親近感を覚えた。


 入店して三十分がたった。

「ちょっと席外すね」

 亜矢子が席を外す理由を聞くこと無く、高杉はアイスコーヒーを飲みながら句集を読んでいた。

「ちょっといい?」

 亜矢子は喫茶店の裏で一服中の洋子に声をかけた。

「亜矢子ちゃんもどう?」

 洋子ほポーチからたばこを取り出し、亜矢子に差し向けた。

「まだ未成年なんですけど。それより、お会計済ませたいんだけど」

 亜矢子はポシェットから財布を取り出した。

「くぁー! あんた、男の気持ち分かってないねえ」

 洋子は亜矢子の財布を彼女のポシェットに押し込んだ。

「アタシは高杉クンに負担をかけさせたくないだけだよ。この間の句会の参加費も出してもらったし」

 洋子は亜矢子が「貸し借り」を作りたくない人間なんだと認識して、たばこを灰皿にねじ込んだ。

「亜矢子ちゃ~ん。せっかくの若柳君の好意、無下にしちゃダメよ~ん」

 洋子は亜矢子の背中を強く叩いた。

「イッタ‼ 何よ~、言葉と行動がチグハグなんですけど~」

 洋子は右の掌を亜矢子に差し出した。

「よっしゃ! 今日のお代は亜矢子ちゃんが出しなさい」

 亜矢子は「初めっから、そうしてくれればいいのに」と思いつつ、千円札一枚を洋子に渡した。

「はい、お釣りはたばこ代の足しにでもしてよ」

 洋子は亜矢子の額を軽く叩いた。

「大学生なめんな!」

 洋子は小銭入れからお釣り二百円を取り出し、亜矢子の右手に押し付けた。

「だってさ、洋子さんは自分でお金稼いでるじゃん。それがなんかかっこ良くてさ、アタシもちょっとは張り合いたいって言うか」

 洋子はケラケラと笑っても亜矢子の頭を撫でた。

「あんたって、本当に面白い娘だね。ねえ? 夏休みって家族旅行とか予定ある?」

「特にないなあ。お父さん、ずっとお仕事だし」

「大変だね。よかったら、川柳合宿しない?」

「合宿? 川柳で? だって、洋子さん川柳やめたんじゃないの?」

 洋子はニヤリと亜矢子の肩を抱いた。

「あんたと若柳君のコーチって事で、そうすればあんたの親も安心するでしょ?」

 亜矢子は洋子の話に乗ってみることにした。高杉と一緒に居られるのはもちろん、洋子がとんな人物なのかじっくり観察してやろうと思ったからである。


「はい、今日は私からのおごり。なんならサンドイッチとか追加する?」

 亜矢子が席に戻ってから十分後に洋子が彼等のテーブルにやって来た。

「えっ? おごられる理由なんてないですよ」

 洋子は高杉の頭を撫でた。亜矢子は「あんなに気安く高杉クンに触れるなんて!」と、洋子をにらみつけた。

「お子ちゃまが遠慮なんかしないの! それより、この三人で川柳合宿するよ」

「が、合宿? 洋子さんがですか?」

「そうよ! 海水浴も兼ねての合宿を行います。お盆前には決行するから、来週の水木なんてどう?」

 いきなりの提案に戸惑う高杉に対し、ヤル気満々な亜矢子である。

「若柳君、最近調子に乗っちゃってんじゃない? 川柳界の若様なんて囃し立てられて」

 高杉は久しぶりに洋子の指導を受けてみたくなった。また、亜矢子が洋子からどんな影響を受けるのかも興味が出てきたのである。洋子はメモ用紙に自宅の住所と電話番号を書いて、亜矢子に手渡した。

「えっ? 何?」

「あんたん家の住所と電話番号、これに書いて」

 洋子はメモ用紙の白紙を一枚破って亜矢子の前に置いた。亜矢子は渡されたメモ用紙に住所と電話番号を書いて洋子に差し戻した。

「よっしゃ、詳しい事が決まったら電話するから」

 洋子は亜矢子らに再びサムズアッブして立ち去った。

「何でも強引に決めちゃうんだね、あの人」

「川澄、嫌だったら僕から断っておくよ」

「海行くこと自体はいいんだけどね。高杉クンこそ海とか大丈夫? そもそも泳げる?」

「僕の事、運動音痴だと想ってるんだろ? こう見えて水泳大会ではリレーに選ばれるんだぞ」

 亜矢子は高杉に泳ぎを教えてもらえると、合宿が益々楽しみになってきた。十分ほどして亜矢子と高杉は喫茶店「ひまわり」を退店した。


 その日の夜、川澄宅に洋子から電話が掛かってきた。電話に出た母・晃子は洋子の礼儀正しさに感服し、高杉が同行する合宿と称した海水浴に無条件で賛成した。少し後に帰宅した父・修もまた、晃子から洋子の事を聞いて、高杉が同行しても問題ないと思うようにした。亜矢子は部屋に戻り、退院した伯父に買ってもらったあるものを見て、ベッドで飛びはねていた。

「ムフフフフ、これで高杉クンと。あ~、早く来週の水曜日にならないかな~」

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