初めてのランチ
高杉は会館から徒歩十分ほどの喫茶店に亜矢子を同行させた。木目調の店内を見て亜矢子は、父の友人が経営する喫茶店に似ていると感じた。
「どうした? 川澄」
「うん? なんか似たような喫茶店があったなあって」
「そうか、まあ座ろう。窓側と奥とどっちがいい?」
「窓側がいいな」
高杉は窓側のテーブルを指差し、亜矢子に席を選ばせ、彼女が着席するとその斜め前の席に着いた。
「先輩、ここはアタシが出すから。好きなの頼んで」
「えっ? いや悪いよ」
亜矢子は首を横に振った。
「お母さんからお昼ご飯代もらってるから。本当は手作り弁当でもと思ったんだけど、この時季は食べ物がいたみ易いからって」
高杉は亜矢子が大切に育てられているんだろうなと強く感じた。
「じゃあ、有り難く御馳走になるかな」
亜矢子たちのテーブルに従業員が水とおしぼりを二人分運んできた。
「若柳君、いらっしゃい。今日はガールフレンドと一緒かい?」
高杉は首を横に振り、メニューを広げた。
「僕は焼そば定食にする」
高杉はメニューを亜矢子に渡した。
「先輩は焼そばが好きなのかあ。おっ、この店定食にドリンクが付くんだ」
亜矢子はメニューを見て、好物のナポリタンスパゲティー定食に決めた。従業員は注文を聞こうとその場に留まった。
「御注文、よろしいですか?」
「僕は焼そば定食に食後はアイスコーヒー。川澄は決まった?」
「私はナポリタンスパゲティー定食に食後はオレンジジュース下さい」
「かしこまりました。焼そば定食に食後のアイスコーヒーひとつと、ナポリタンスパゲティー定食に食後のオレンジジュースひとつですね」
従業員は一礼して厨房に向かった。
「知りあいなの?」
「祖父が息子のように可愛がっていてね。僕が幼稚園の時に彼が大学生だったかな」
「高杉クン、幼稚園から川柳やってたんだっけ?」
高杉は亜矢子から「高杉クン」と呼ばれる時、彼女の本心が見えている気がした。
「祖父の影響でね。ブロック組み立てるみたいに、言葉を組み立てて川柳を作るのが楽しかったんだ」
亜矢子は高杉が「川柳界の若様」と呼ばれる理由が分かった気がした。やがて料理が運ばれ、二人は昼食を取り三十分程して退店した。亜矢子は宣言通りに代金を支払い、高杉はあらためて亜矢子に礼を述べた。




