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復帰、そして本気

 梅雨が本格的になり、川柳部では県内高校親睦川柳会に向けての作句が行われていた。

「川澄は退部と言うことでいいな」

 亜矢子が休部して今日で一ヶ月になる。今日までに復帰の意を示さなければ、遠藤は川柳部顧問として亜矢子を退部扱いに出来るのだ。高杉は亜矢子の復帰を期待したが、亜矢子自身が決めたのなら仕方無いと諦めていたその時、部室の戸が強く開けられた。

「川澄!」

 高杉はサッと亜矢子を部室に入れた。

「高杉先輩、色々ありがとう」

 亜矢子は遠藤の前に歩み寄った。

「川澄、図書室の先生からお前が通い詰めている事は聞いている。休部中の成果を見せてみろ」

 亜矢子は鞄から川柳用のノートを取り出し、遠藤に差し出した。遠藤はパラパラと亜矢子の川柳を読んだ。

「やはりお前は好き勝手にさせた方が良い句を作るな」

 遠藤は亜矢子のノートを大原に渡した。大原は里子を呼びつけて亜矢子の川柳に目を通した。

「見てみろ。以前の川澄の句とは雲泥の差だ」

「レベルはまだ低いけど、成長は感じる」

 大原と里子は亜矢子の可能性を信じてみる事にした。

「川澄、月に一回このノートを俺か副部長に提出しろ」

「あっ、あの、提出用のノート作っちゃダメですか? それ、作句用なんで…」

 里子は亜矢子が自分の文字が綺麗でない事を自覚しているなと大原に耳打ちし、新品のノートに「川柳提出用」と黒の油性ペンで書いて亜矢子に渡した。

「これからはそのノートに、川柳を清書して月に一回、そうね、その月の第一月曜日に部長か私に出しなさい。最低でも十句はひねりなさい」

 亜矢子は里子から受け取ったノートをパラパラとめくった。

「月に十句って事は、週に三句作れば余裕だな。部長、副部長、了解でーす!」

 亜矢子は大原と里子に敬礼した。麻山と政美は「いつまで続く事やら」とささやき合った。

「若柳、川澄に親睦会について説明してやれ」

 亜矢子は高杉の隣に着席した。

「またよろしくね。高杉先輩」

「よろしく、よく戻って来てくれた」

 亜矢子は「高杉クンがいるからだよ」とばかりに、休部中に作った川柳を高杉に見せた。高杉もまた、亜矢子にはあれこれ教え込むより、彼女の感性を伸ばした方が良い川柳を作ると確信した。

「川澄、誤字が目立つな。常に辞書で調べる事を習慣化させた方がいい」

「国語のテストじゃないんだから~」

「川柳を披露するのは、他人からの評価を受けると言う事だから、テストと同じだよ」

 亜矢子は頬を膨らませながらも、より慎重に川柳を作る決意をした。


 川柳部に復帰した亜矢子は、高杉は元より大原や里子とも川柳の添削を通じて少し心を開いていった。遠藤や麻山、政美とはまだまだ距離を感じつつ、川柳部いや川柳をやめる気にはならなかった。


「高杉先輩、もしも、もしもだけど」

「どうした?」

 亜矢子は本格的に高杉から川柳の手ほどきを受けるようになっていた。勿論、高杉の作句の邪魔にならないようにである。

「今度の親睦川柳会で、私が入選したらお願いがあるんだけど」

「お願い? 出来る事は叶えてあげるよ」

「そ、そんなに難しい事じゃないから。まずは、親睦会で入選だよね?」

「まだ一ヶ月先だ。再来週の日曜日、何か用事ある?」

「えっ? 別に無いけど」

「良かったら、川柳結社の句会に行ってみないか?」

「えっ!? 行く行く!」

 亜矢子のはしゃぎぶりに呆れる高杉以外の部員である。

「川澄さん、デートじゃないのよ」

 里子の忠告に「分かってますよ~」とばかりに口を尖らせる亜矢子に、遠藤が歩み寄った。

「川澄、分かっているとは思うが、お前達は高校生だ。くれぐれも間違いなど犯さないように」

「あの、間違いってどこまでですか?」

 亜矢子の問いに遠藤はキッパリと答えた。

「手を繋ぐ事だ‼」

 麻山と政美は大爆笑した。

「ヒャヒャヒャヒャッ‼ いやあ、質問する川澄もだけど、真面目に答える先生も笑っちゃうんだけど」

 遠藤は麻山を睨みつけて部室を出ていった。

「川澄、色々聞こえてくると思うが、気にするな。僕らは結社の句会に参加するだけなんだから」

「分かりました」

 亜矢子は高杉との距離は中々縮まらないと実感した。まずは高杉からの指導で、より良い川柳を作っていく決意を固める亜矢子であった。




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