好き? 嫌い?
亜矢子は川柳部を休んだ。だが、他にやりたい事がみつからず、川柳部が嫌いながらも川柳の事が頭から離れず、新聞やニュース、小説から句材を拾っていた。
亜矢子がいない川柳部では、スムーズに作句が進んでいた。高杉は亜矢子が戻って来ることを期待しつつ、淡々と作句していた。
「先生、体調悪いんで先に帰ってもいいですか?」
高杉は度々、部活を早退したり休むようになっていた。
「若柳、そんなに川澄を邪魔者にした事が気に食わないか?」
「新入部員をもっとゆっくりと育てる余裕があってもいいと思います」
高杉は一礼して部室を出ていった。
「余裕か。お前達、川柳部に余裕は感じないか?」
遠藤の問いに挙手したのは政美である。
「先生、私が川澄さんの立場だったら、キツいと感じると思います」
麻山も続けて挙手した。
「初心者前提にしてないっしょ‼」
遠藤は否定できなかった。青葉高川柳部はほぼ毎年、全国大会に出場して賞をたくさんとってきた。そのお陰で文化部としては破格の予算を学校側からもらっていた。
「川柳キ…」
「副部長、言葉を選べ‼」
「先生、僕も森川と同意見です。上達者しか受入れない感じ丸出し、自戒を込めて」
「部長が言います? なんかカッコいいっすけど」
「麻山、お前は川柳が好きじゃないのか?」
遠藤は頷く麻山を見て肩を落とした。
「正直、今更イチから学ぶのめんどくさいから」
遠藤は大きな溜め息をついた。川柳部に未来を感じられなくなったからである。
「それに川柳部全国大会に出場って、多少でも内申書にプラスになるかなって」
「麻山、北。それくらいにしとけ」
遠藤は怒る気力もなくなり、大原を呼びつけて本日の部活を終了させて職員室へと戻った。
「お前達、川柳に全霊を掛けろとは言わないが、全国大会に部費で行かせてもらってる事に感謝はしろ」
「部長、川柳部引退しても川柳続けます? それこそ、大学生になっても」
麻山の問いに大原は首を横に振った。
「川澄さんによって、私らの本音があぶり出されたって感じ~」
政美はサッと荷物をまとめて部室を出ていった。麻山も「お先です」と政美に続いた。
「今までがラク過ぎたのかな? 小さい頃から川柳やってきた人ばっかで」
「同じような考えの人間しかいなかったからな。高校から川柳始める奴なんて、想定してなかった」
大原と里子は部室を片付けて帰路についた。
亜矢子は図書室で川柳の本を読んでいた。川柳への情熱を無くしかけている大原らとは正反対に、川柳への興味がムクムクと涌き出ているからである。




