一服中
青葉高職員室に併設されている喫煙室。数年前までは職員室で喫煙していたのだが、PTAから生徒達に悪影響を及ぼすとの意見が出て、当時の校長が生徒が出入りする場所での喫煙を禁じて、喫煙室を設けたのである。
「遠藤先生、いいですか?」
昼休みの一服を堪能していた遠藤に生徒指導部の教師が近づいてきた。
「川澄が遅刻しそうになってたのを、助けてくれたそうですね。ご面倒をおかけしました」
遠藤はお詫びとして、たばこ一本を差し出した。
「遠慮なく」
生徒指導部の教師がたばこを加えたのを確認して、遠慮は背広の内ポケットからジッポライターを取り出してあげたたばこに火を着けた。
「ふう、昼飯後の一服はたまりませんなあ」
「確かに、で?」
「さっきの川澄の件なんですがね? 遅刻しそうになった理由が新聞を読んでたらしいんです」
遠藤は苦笑するしかなかった。
「私は川柳なんてもんは全く分からないんですが、川澄は川柳が好きですよ」
「そうですかね? ラクそうだから入部したとしか思えませんが」
遠藤は亜矢子が川柳部に戻ったら、彼女のために時間を割いてやろうと考えた。
「それに川澄は休部中でしてね、どうも川柳部が合わないみたいで」
遠藤はたばこの火を灰皿に押し付けて消した。
「遠藤先生、何か目標を持っている奴は目の輝きが違う。川澄がそうです。もし、川澄が川柳部に戻って来たときは、何も言わず受け入れてやって下さい。私は生徒指導部の一員として、川澄に真っ当な道を歩ませてやりたいんです」
遠藤は亜矢子が何故に高杉をはじめ、クラスメートや多くの教師から応援されるのか、その人間性が生み出す川柳を読んでみたくなった。
「そろそろ、午後の授業がありますので」
遠藤は一礼して喫煙室を出て行った。




