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待ち伏せ

 翌朝、高杉は校門で亜矢子を待っていた。

「あの、高杉君ですよね?」

 高杉の周りを理恵、さゆり、美智子が取り囲んだ。

「君達、一年生だね? もしかして、川澄の友達?」

「ええ、その通りです。亜矢子、泣いてました」

 美智子が高杉に詰め寄った。高杉は彼女達を通して亜矢子の気持ちを確かめようと思った。

「そうか、先生や部員達がひどい事を言ったみたいだ。川柳部員の一人としてお詫びします」

 高杉は理恵達に頭を下げた。そこへ三原あつ子が通りかかった。理恵とさゆりがあつ子に向かって深く頭を下げた。

「三原先輩、おはようございます!」

「おはようございます!」

 あつ子は高杉の前に歩み寄った。

「高杉、一年生に頭をさげるなんて何事だ!」

 高杉とあつ子は一年生から同じクラスなのだ。

「三原、川柳部で新入生にひどい事を言ったみたいなんだ。だから僕が…」

「甘い! 文化部は甘い! それにだ、一年生から君付けで呼ばれて何とも思わないのか!」

「敬語使ってくれてるから問題ないよ」

 あつ子は高杉の優しさ、いや甘さに呆れた。

「あっ! 谷口君、おはよう」

「おはよう、美智子ちゃん。どうした? 高杉に用って事は川澄さんに何かあったのかな?」

 あつ子は敬語さえ使われていない谷口に腹が立った。ちなみに谷口もまた、高杉とは一年生から同じクラスである。

「谷口、お前に至ってはタメ口じゃないか。一年生から馬鹿にされて腹が立たないのか?」

 美智子はあつ子の前に歩み寄った。

「あの、私は谷口君を馬鹿になんかしてません! 谷口君は私に絵の真髄を教えてくれてるんです」

 理恵とさゆりは美智子の口を塞いだ。

「三原先輩、すみません。この子、何もわかってなくて」

「美智子、謝んなさい!」

 谷口は理恵とさゆりに美智子を解放させた。

「はあはあ、死ぬかと思った。谷口君、ありがとう」

「美智子ちゃん、大丈夫? 三原、彼女には僕にはない観察力と描写力がある。後輩だなんて、そんなおこがましい事を思えるはずがない」

 あつ子は高杉の川柳と谷口の絵の才能に敬意を払い、彼等がどれだけ努力しているかもよくわかっている。だからこそ、彼等が下級生から君付けされたりするのが、許せないのである。

「もういい! 岩田、内川、行くぞ!」

「は、はい‼」

 あつ子の後をついていく理恵とさゆりである。

「はあ、あれが噂に聞く『三原山噴火』か~。理恵とさゆりはよくついてってるなあ」

「三原は上下関係に厳しいが、後輩の育成には定評があるんだ」

 美智子は高杉が本当の事を言っているか、谷口の表情で確かめた。

「美智子ちゃん、今度バレー部の友達に三原について聞いてごらん」

 校内にホームルーム開始のチャイムが響いた。

「美智子ちゃん、そろそろ行こう。高杉、川澄さんは欠席かも知れない」

「亜矢子、滅多に学校休まないんだけどな」

 生徒指導部の教師が校門を閉めようと高杉らの元へ歩み寄った。

「お前達、早く教室に行け! ホームルームが始まってるぞ」

 亜矢子が来るまで待とうとする高杉を谷口が教室へ連れて行こうとした。

「谷口、先生には遅刻だと伝えといてくれ」

「高杉、今日は諦めろ。川澄さんだって今、お前に会うのは辛いはずだ」

「亜矢子、高杉君にはいつも助けられてるって、言ってました。だからこそ、川柳部を嫌いになりきれないって」

 生徒指導部の教師は彼等の望みをかなえてやれるものなら、待ち人即ち亜矢子が来るまで待たせてあげたいと思った。

「さあ、早く教室に行け! 今なら俺がお前達の担任に口添えしといてやる」

 谷口と美智子は高杉を連れて校門から立ち去って行った。生徒指導部の教師が校門を閉めようとした時、女子生徒の声がかすかに響いた。

「待って~! 閉めるの待って~!」

 校門へ駆け込んで来たのは亜矢子である。

「遅いぞ! 寝坊でもしたのか?」

 亜矢子は息を切らしながら、まずは校内に入った。

「ち、違います。新聞を読んでたら家出るのが遅くなっちゃって」

「新聞? まあいい! さっさと教室に行け!」

 亜矢子は生徒手帳を生徒指導部の教師に提出した。

「一年D組の川澄か、担任には俺が話しておく。二年D組の高杉達がお前をずっと待っていたぞ」

 亜矢子は生徒手帳を返され、教室に行くよう促されてそれに従った。

「俺も甘くなったな」

 生徒指導部の教師は生徒が駆け込んで来ないのを確認した上で、校門を閉めた。


 一時限目の授業が終わり、高杉は一年D組の教室に向かおうと二年D組の教室から出た時だった。

「高杉先輩、これ遠藤先生に渡しといて」

 亜矢子は高杉にハガキ大の用紙を渡した。

「休部届け? 川澄、先生や他の部員がひどい事を言ったらしいな。川柳部の一人としてお詫びします」

 高杉は亜矢子に深く頭を下げた。

「やめてよ、そういうの」

 亜矢子はサッと自分の教室に戻って行った。高杉は亜矢子が部活に来ないにしても、川柳だけは続けて欲しいと思った。だが、休部している間に亜矢子が他の部に移籍するなら、それを受け止める覚悟もしていた。高杉は亜矢子の休部届けを遠藤に提出、自らも体調不良を理由にその日は部活を休んだ。

 

 

 

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