いらない部員
亜矢子が川柳部に入部して一ヶ月が経った。顧問の遠藤や高杉以外の部員達は亜矢子のレベルの低さに呆れていた。亜矢子が彼等のレベルに到達するのは不可能だと決めつけているのだ。彼等だけだったら、亜矢子に冷たくあたって早く退部させる事も可能なのだが、高杉が親身になって亜矢子の指導にあたっているため、彼等の思惑通りにはならず苛立ちを覚えている。なるべく、亜矢子を部室に来させないようにしているが、最近少しずつやる気を見せている事に「このままでは青葉高川柳部のレベルが下がってしまう」と不安で仕方ないのだ。
亜矢子は少し遅れて部室に到着した。その日は部室に来なくてもよかったのだが、先輩達の作句を見て勉強しようと思っていた。
「川澄がすぐに辞めてくれてたらなあ」
部長の大原がため息と共に吐いた言葉を、亜矢子は耳にしてしまった。
「部長、今のって?」
亜矢子は大原らの元へ歩み寄った。遠藤は川柳部顧問として、亜矢子に本音を告げる決意をした。
「川澄、お前にペースを合わせるとこいつらへの指導が行き届かなくなる。青葉高川柳部には歴史と伝統がある。何が何でも部員全員が全国大会で入賞しなければならない」
亜矢子は遠藤や大原らが自分の退部を望んでいる事を、彼等の眼差しから読み取った。
「じゃあ、アタシに部室へ来させなかったのもジャマだったから?」
大原は高杉を除く部員を代表して強く頷いた。
「ひどい、川柳なんか大っ嫌い!」
亜矢子は逃げるように部室を出ていった。廊下で亜矢子とすれ違った高杉は、彼女の涙に嫌な予感をして部室に駆け込んだ。
「川澄に何をしたんですか?!」
大原ら部員は高杉から目をそらした。高杉は遠藤に詰め寄った。
「先生、川澄に何を言ったんですか? まさか、辞めろとか言ったんじゃ?」
遠藤は高杉の両肩を押さえて着席させた。
「落ち着け。川澄がこれ以上、川柳部にいてもお前や大原達には追い付くまい。あいつが苦しむだけだ」
「それを決めるのは川澄自身です。他人が決めることではない!」
高杉は部室を出ていった。遠藤は机を思いっきり叩いて職員室へと向かった。
「あ~あ、青葉高川柳部も崩壊ってか~?」
麻山も荷物をまとめて部室を後にした。
「私も塾がありますので」
政美も部室を出ていき、大原と里子はため息をついた。
「副部長、去年までは良かったよな? 部員が十名以上いて、当たり前のように文学論が飛び交って」
「川柳の事も分かってて? タイムマシンでも発明する? 新入部員勧誘の時に川澄さんにもっと厳しい条件突きつけて、入部を阻止させる?」
里子も大原の肩を叩いて部室を出ていった。大原は自分達の代で青葉高川柳部を廃部にさせてしまう事に、強い責任を感じて部室の施錠をした。