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ラクそうな部活

 1984年春、県立青葉高校に入学した川澄亜矢子は小学校からの友人、岩田理恵、内川さゆり、原美智子と共に新入部員勧誘会に参加していた。青葉高では原則として三年生の一学期までは部活動をしなければならないのである。無論、全校生徒が真面目に部活動を行っている訳ではないが、運動部と文化部が共に充実しており、かなりの生徒が積極的に部活動を行っている。

「はあ、どっかラクそうな部活ないかなあ」

 亜矢子の無気力さに呆れる理恵達は希望する部のブースをさがしていた。

「あっ、三原先輩がいた! あそこがバレー部のブースだよ、行こっ、さゆり」

「ホントだ! 美智子、私と理恵はバレー部に行くから」

「分かった。じゃあね」

「亜矢姉も青春燃やせそうな部活さがしなよ」

「ちょっと、理恵、さゆり。バレー部に入部するって決まってんなら、アタシに合いそうな部活を一緒にさがしてよ」

「やりたい事は自分で見つけなきゃ。青春は待ってはくれないよ」

 理恵とさゆりはバレー部のブースへと駆けていった。

「何よ、もう。二人とも青春しちゃってさ」

 美智子は亜矢子の肩に右手を置いた。

「理恵とさゆりの言う通りだよ。もう高校生なんだから、一度くらい自分で何かを始めるってのは有りだと思うよ」

 亜矢子は黙りこんでしまった。

「何なら、一緒に美術部入る?」

「え~! アタシがどんな動物描いてもイモムシみたいにしかならないの知ってるくせに~」

「あっそう、私は美術部のブースに行くから」

「どうぞご自由に。それと谷口君によろしく! アタシは高校入学早々、友達に見捨てられると言う悲劇に見舞われれながら、宛もなくこの新入部員勧誘会をさまようんだわ~」

 亜矢子はめまいがした素振りで美智子の前から立ち去った。美智子は亜矢子が漫画かドラマの一シーンを演じているのだと思い、美術部のブースへと向かった。

「あ~あ、アタシがやれる部活ってなんだろう? 運動部はまず無理だし、文化部でハードルの低いのって言うと」

 亜矢子は入部勧誘の波をかき分け、各部のブースを見て自分でもやれそうな部をついにみつけた。

「あっ! 中学ん時の国語の先生が季語の無い五・七・五が川柳だって言ってた。川柳ならラクそうだ、きっと」

 亜矢子は嬉々として川柳部のブースに向かった。

「あの~、川柳部に入りたいんですけど~」

 川柳部のブースに自らやって来た亜矢子を歓迎する部員達。

「ようこそ、我が川柳部へ。僕は三年で部長の大原利明だ」

「同じく三年で副部長の森川里子です」

「俺は二年の麻山茂」

「私も二年の北政美よ、よろしく」

「ご、御丁寧にどうも、アタシは一年D組の川澄亜矢子で~す」

 大原達は顔を見合せ、不安感を共有した。

「川澄さん? 他の部も見た上で入部したいとこがなかったら川柳部にいらっしゃいよ」

 里子は満面の笑みを浮かべて入部説明会のプリントを亜矢子に渡した。

「わっかりました! 他の部を見てよく吟味して決めたいと想います」

 亜矢子は一礼して川柳部のブースから立ち去った。

「部長、アレ川柳なめてますよね?」

「麻山の言う通りです。大体、高校生にもなってアタシって」

 大原は頭を抱えた。川柳部は部員が少なく同好会格下げも時間の問題だからである。

「今年の新入生には川柳やってる奴はいなかったか?」

「小学生までは川柳結社に所属してんだけど、中学に入ると部活だったり、勉強に集中するためって辞めちゃうんだよね」

「私達みたいに、高校生にもなって川柳続けてる方が珍しいんですよ」

若柳じゃくりゅうの風邪はまだ治らないのか?」

「そうみたいっすね? 俺、よく分かんないけど」

「ふう、川柳界の若様をもってしても新入部員は増えないか」

「部長、それ分かるのごく一部の人間だけだから」

 里子の客観的な意見に大原は、川柳部の将来に失望するしかなかった。


 亜矢子は他の部のブースも見て回ったが、川柳部よりラクそうな部を見つけられず、川柳部入部を決意した。平々凡々な高校生活を送ろうと思っていた亜矢子に、川柳が様々な出会いをもたらす事となるのである。





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