アレキサンダー王(2)
まるでどうだ、すごいだろう?とでも言いたそうに誇らしげな顔をしている。
それに反して、私の顔は徐々に青くなっていく。
「……ってことは…私は偶然、こっちの世界に来ちゃった訳ではなく、あなた方に連れてこられたってことですか……?」
「ええ、その通りでございます。救世主さまを御喚びした際何らかの不手際があり検討違いな場所に召喚してしまった形になりましたが、こうして無事に救世主さまをお連れすることができ安心いたしました。」
神官長さんもとても誇らしそうな顔をしている。
え、待って?
私がおかしいの?
なんか召喚できたとかで誇らしげに語ってるけど、これってただの誘拐じゃない?
異世界召喚なんてただの物語だったらおもしろい設定だって楽しむだけで済む。
ただ、これは私にとっては紛う事なき現実だ。
私には元の世界での生活がある。
こちらの事情も考えず、断りもなしにこんな所まで連れ来るなんて誘拐しているのと一緒だ。
しかし、目の前にいる二人にはそれを自覚している様子はまるで感じられない。
寧ろ異世界という常識離れした所から特定の人物を召喚できた自分達を誇らしく思っている。
……通りで話が噛み合わないはずだ。
こちらとしてははた迷惑な話だが、相手方にまるで悪気を感じられないのだ。
……これは何を言っても時間の無駄な気がする。
正直、つもり積もった不満を思いっきりぶつけたい気持ちでいっぱいだが、それをした所で何一つ伝わらないだろう。それどころか、下手をすると相手方の怒りを買い兼ねない。
彼方の世界で似たような人を何人も見てきた。
こっちの訴えは全く聞き入れてくれないのに、無理難題を押し付けて、それが出来ないとなると全部こっちの責任にして罵倒してくる。
どの世界にも同じような人は要るものだ。
それが国のトップとなると救いようがない。
私は一旦心を落ち着かせ、湧き出る怒りを納めた。
「……私がこの世界に迷い混んだ理由は良くわかりました。でも、王様……陛下が望んでおられるようなことはできないと思います。」
なるべく失礼にならないよう、言葉に気を付けながら話す。めちゃくちゃ神経使う……。
「何故だ?お前は女神の使いなのだろう?」
「そもそも、その女神の使い?っていうのすら私には覚えがありません。国を浄化しろと仰ってますが、なにをどうすればいいのか全く分からないです。ましてや救世主なんて大それたこと、何かの間違いじゃないかと思うんですけど……。」
恐る恐るそう答えると、王様はあからさまに怪訝な表情に変わってしまった。
やばい、言い方間違えた?
王様の反応に心臓が跳ね上がったが、その矛先は私にではなく、神官長さんへと向けられた。
「神官長、覚醒の儀は行ったのだろう?」
「は、はい。確かに額には女神の使いの証である神の眼が出現しました。」
「ではどーゆうことだ?この者は全く自覚している様子がないではないか。」
「も、申し訳ありません。それは私にも理由が分かりません。何分、女神の使いを召喚したのは数千年ぶりのことでして、文献で確認できることしか詳細は分からないのです。」
「言い訳はよい。早く何とかせよ。事は一刻を争うのだぞ。」
私のせいで可哀想なくらい責め立てられる神官長さん。私はハラハラしながら二人のやり取りを眺めていた。
神官長さんは最後には小さくなって何とか聞き取れる声量で「はい、仰せのままに。」とつぶやくと足早にその場から立ち去ろうと踵を返した。
バンッ
その瞬間、勢い良く扉が開かれ絵に描いたような王子様みたいな人が入ってきた。
「父上、お待ち下さい。」
わあ、イケメン。
王様を父上呼びしてるってことは本当に王子様ってことかな?
青を基調としたきらびやかなスーツを着こなした青年は、王様に負けず劣らず整った顔立ちをしており、遺伝なのか、王様と同じ青い瞳に金色の髪を携えている。後ろに花を背負っててもなんら違和感を感じさせないほど華やかな雰囲気を醸し出していた。
颯爽とこちらに近づいてくる王子様をまじまじと見つめていると、視線がバッチリと合い、爽やかに微笑まれてしまった。
うわっ
眩しくて直視できない!
イケメンに免疫がない私には大ダメージだ。
「……何の用だ、ステルス。今取り込み中だ。」
王様はさも迷惑そうにため息をつく。
そんな反応を気にする様子もなく、王子様は話を続けた。
「神官長に全ての責を負わせるのは酷ではないでしょうか。数千年振りのことです。予測不可能なことが起きてもおかしくはないでしょう。」
うんうん、ごもっともだ。
大体自分でもよくわかってないくせに、全部を神官長さんに丸投げするなんて、いくらお偉い王様だとしても暴君過ぎるというものだ。
「では、何だ?お前が責任を持つというのか?」
お?
王様今度は王子様に責任を擦り付けようとしている。
王子様がどや顔でそう言うと、王子様はまたもや爽やかなに笑った。
「そうですね、私に全てお任せするということならば、救世主様にはリハビリをしてもらおうと思います。」
うんうん、リハビリね。
ん?
私が、リハビリ?
「……はい?」
爽やかな笑顔とは裏腹に、私は間抜けな顔をして王子様と見つめ合ったのだった。