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シロクロ  作者: しろいるか
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現実なんて

ジェダさんの問いに首を縦に降ると、彼は何かを考え込むように顎に手を当て固まってしまった。


私は何かまずいことを言ってしまったのだろうか。


そんな不安がよぎるなか、ジェダさんは再び私の方に視線を向けた。




「……アスカ殿とおっしゃいましたよね?

あなたの言っていることが本当だとしたら、ここはあなたにとっては異世界ということになります。」



「……はい?」


この人、初対面の女性に対していきなり名前呼びかよ。とか思う余裕もなく、私は彼の言ったことを頭のなかで復唱した。


いせかい?

今異世界とか言った?



あれだよね?よく漫画とか小説とかに出てくる単語、設定みたいなやつ。

異世界に飛ばされて勇者に選ばれましたー。とか。

異世界に呼び出されてハーレム状態ですー。とか。


どんなものであれフィクションと呼ばれるものだ。


そんなものを今彼の口から聞かされることになるなんて、夢ではないだろうか?

あ、夢だったわこれ。


自分の中で納得した私は、「そうなんですかー。それは大変ですね。」と他人事のように軽い返事をした。


「……自棄に冷静ですね。あり得ない話をされているとは思われないのですか?」


あまりにも私があっさり納得したためか、彼の声色からは怪訝そうな雰囲気が滲み出ていた。


自分で言っときながら失礼だな。



「いや、だってこれは私の夢ですから。あり得ないことが起こったとしてもおかしくないですよ。いきなり知らない場所にいたり、よく分からない生き物に襲われたり、鎧を着た騎士様が現れたり。あり得なさすぎて逆に驚かないというか。夢だからそんなこともあるよねって思っただけです。」


夢の中の住人にここは夢だからなんて話すのは何とも変な感じだ。

現にそんなことを言われたジェダさんは驚いているのか黙りこんでしまっていた。



てかいい加減目を覚ましたいんだけど、いつまで続くの、この夢?


ん?


ふと、体を見ると何やら黒い靄のようなものが発生しているのに気がつく。



「うわ!何これ!?」




これ以上訳がわからないことが起こるのは勘弁してもらいたい。

慌てて全身に発生した黒い霧を振り払おうとしている私に、さっきまで黙っていた黒い騎士さまは静かに、ゆっくりとした口調で話し始めた。



「安心してください、それは先程の悪霊が霧状化して消えた証拠です。体液が消えていっているでしょう?」


本当だ。

体を冷やしていた筈の体液が、黒い霧とともに消えていっている。それと同時に体が乾いてきているのか、寒さがさっきより大分マシになっていた。


「なーんだ、ビックリした。今度は体から闇の力的なのがわき出てきたのかと思った。流石にそこまでいくと、私の頭の中中二病拗らせちゃったんじゃないかって心配になるわ。」




「……それと、心してお聞き下さい。これは決して夢ではありません。まごうことなき現実です。あなたは夢の中ではなく、違う世界の中にいるのです。」



「またまたー。私騙されませんよ。こんなの現実にあるわけないじゃないですか。」


「では、これがあなたの夢の中だとして、それを証明できますか?」



「……それは……。ありますよ!ほら、よくやるでしょ。夢と現実を確かめるのにこうやって頬っぺたをつねって……。」




……痛い。

うん、ちゃんと痛い。


夢の中では感覚がないとかよくあることだけども、右手によって思いっきり捻られた私の頬っぺは、しっかりと脳に痛覚を伝えてきた。

そういえば、痛み以前に寒さもしっかりと感じ取っている。

やけにリアルな夢だなーとか思ってたけど、こんな鮮明に五感を刺激する夢があるものだろうか?




いや、そんなことよりも

何度も目覚めようとしているのに、全く夢の世界から出ていける気がしない。



「……うそだ。ありえない。」


こんな

夢みたいなことが現実なんて。


無意識に、頬をつかむ手の力が強くなってくる。



「夢に決まってる……。」


頬は徐々に白くなり、血流が止まっていく。



「うそだ!うそだ!」


やがてそこは白から赤へと変わり、痛みも比例するように増していく。



「……っなんで、覚めないのぉ……。」



いよいよ血が滲んできそうだというとき、右手に何か被さってきた。

それは強ばった手をほどき、頬を解放させてくれた。



「……それ以上は痕になってしまいます。」



ジンジンて痛む頬が、これは現実なのだと私に言い聞かせる。

本当は泣きわめきたい気分だったが、ジェダさんの抑揚のない声で、私の頭は冷静さを取り戻していった。




「……これが夢じゃないことは痛いほど理解しました。ひとつ、質問していいですか?」


痛みに滲んでいた涙を拭い、真っ直ぐとジェダさんを見据える。





「なぜ、あなたは私が異世界から来たと断言したんですか?」



いきなり、私知らない場所に来ちゃったんです。なんて言ったら、こいつ気違いなんじゃないかと疑うのが普通だ。

異世界から来たなんて、現実的に考えることではない。


ここがあり得ないことが起こるファンタジーな世界でも、だ。


しかし、彼は何の疑いもなく私を異世界人だと断言した。

それは、彼がそう考える根拠があるということ。




ジェダさんは冷静さを取り戻した私に少々戸惑いながらも、ゆっくりとその答えを口にした。



「……それは、私がその異世界から来る人物を探していたからです。あなたはその人物である可能性が限りなく高い。」



「探していた?なんのために?異世界から人が来ることはよくあることなんですか?それに、今日、来るのがわかっていたってことですか?」


彼の答えは何だか要領を得ない感じがして少しイラついた。大事なことを、隠されている気がする。



「……申し訳ありません。詳しいことは私からはお教えすることが出来ないのです。」


「何か、隠してますよね?」



「否定はしません。」



しないんかい!



抑揚のない声、加えて表情の見えない兜のせいで彼の考えていることが全然わからない。


私はジェダさんの感情を読み取ることを諦め、ため息をついた。

これは粘るだけ時間の無駄だわ。



「わかりました。じゃあ、誰に聞いたら詳しく教えてくれるんですか?」


騎士であるジェダさんが言えない事情となると、きっとそれ以上の身分の人でないと話せない事柄なのだろう。

こんな森の中では埒があかないので、さっさとその事情を話してくれる人の所まで案内してほしい。



「我が国アダラント、そこを統治する最高権力者アレキサンダー王がお話し致します。王都リーリアまで私と来ていただけますでしょうか。」




それは、私の予想の遥か上をいく人だった。








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