守るということ7
……目隠し?
は?
何を言ってるんだ?
「あれっ。やっぱり、聞いちゃ不味かったですか?目隠ししてるわりに、まるで見えてるみたいに動き回るから、てっきり何か仕掛けでもあるのかと思ってたんですけど。やっぱり目が悪くて……。でもスゴいですね!全盲なのにあんなに動けるなんて!第六感みたいなやつですか?」
物凄い早口で身ぶり手振りを入れて話す彼女からは他意は全く感じられない。
本当に、ただ目隠しのことだけが気になっているのか?
「あの……。」
「はいぃぃぃ!!無神経なこと聞いちゃってすいませんでした!」
「……いえ。これは魔術を施された特殊な目隠しなので視界を遮ることはないんです。視力は寧ろいい方ですから。」
「あ、そうなんですか。」
ホッとした様子の彼女は、俺の目の前に指を二本立て「何本に見えますか?」と言ってきた。
「……二本です。」
「すごー!正解!!」
いや、だから見えてるって言っただろ……。
彼女の素直な反応に、無意識に口角が上がった。
「あ!今、笑いましたね!?」
「……いえ。」
「いやいや、笑ってたでしょ。いつもそうやって笑ってればいいのに。」
「笑う必要性がないので。」
「笑顔は大切ですよ?愛想よくしてれば、さっきみたいな不届き者も少なくなりますから。」
……そんなことで、環境が変わるなら嫌というほど笑うだろうな。
だが、そう簡単に"紅い生き霊"を受け入れてくれる者なんて現れるわけがない。
「……救世主様、俺を護衛に指名してくれたことには感謝しています。」
「え、本当ですか?むしろ迷惑だったかなって思ってたんですけど……。」
戸惑いはしたが、迷惑だなんて思いもしなかった。
寧ろ……
「迷惑がかかるのは、寧ろあなたの方です。俺を側においている限り、あのような者と対峙するのは避けられないでしょう。」
「んー、なんとなく、そんな気はしてました。」
……は?
気づいていた?
詳細は分からなくとも、今までの俺に対する周りの態度から、俺がどんな扱いを受けているか想像するのは容易い。
だが、この人は俺をわざわざ指名してきた。
なんて鈍感な人なんだと思っていたが……
「あんなあからさまな態度取ってたら誰だってわかりますよ。てか大人としてどーなんですかね。態度に出しすぎでしょ。子供かっての。」
彼女の言っていることは、至極真っ当なことだ。
だが、"自分の命が脅かされるかもしれない"対象に好意的な態度を取れというのは、無理というもの。
それを、彼女はまだ理解していない。
「……それは、仕方がないことです。」
「……仕方がない?」
「は……」「仕方がないってなんですか!」
俺の言葉を遮った彼女は、食い入るように俺に近づく。
「どんな理由があるか知りませんけど、あーゆーの、私嫌いなんですよね。人を見下して、自分とは違うものを排除させようとするの。何様だって感じ。」
「いや、しかし……」「それに!」
「あなたの、そーゆー悟ってますって態度もです。」
……言葉が出ない。
図星だ。
「最初は、理不尽な扱いに対して毅然とした態度をとっていたあなたを格好いいと思ってました。でも、あれは戦っていたわけじゃない。ただ、ぶつかることに逃げてるだけです。」
……そうだ、俺は逃げている。
憎悪にまみれた視線に対峙することに。
産まれたときからそうだったんだ。
産声と共に見たのは、歓喜の表情ではなかった。
まるで、悪魔を見るような恐怖の眼差し。
それからは、正に地獄だった。
親など、気づいたらいなかった。
年端もいかないただの子供が、そこからどうやって生き延びてきたのか、正直、隊長に会うまでの記憶が全く無い。
だが、そこからも決して容易な人生ではなかった。