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シロクロ  作者: しろいるか
26/35

守るということ4

「んはー!やっと解放されたぁ!!」



殿下の執務室から数メートル先まで歩いたところで、彼女は盛大に深呼吸をして体を伸ばした。

緊張から解放されたのだろう、表情が大分緩んでいる。



「全く、あの王子様ときたら無理難題押し付けておいてあの笑顔。ドSとしか言いようがないわ。王様とはまた違ったタイプ。」


またよく分からない単語をつらつらと口にしている。何を言っているかは分からないが、たぶん、誉めているわけではないことはわかった。


「……救世主様。何処で誰が聞いているか分かりません。下手なことは口にされない方がよろしいと思います。」


俺の忠告に顔を青くした彼女は、慌てて周りを確認し、誰も居なかったようで安堵のため息をついた。

……忙しない人だな。


内心、少しクスリとした。

顔には出ないが。





「あの、馬車に乗ってたときも言いましたけど、その"救世主様"ってやめてくれませんか?やっぱり慣れないし落ち着かないです。」


気づくと彼女は俺の目の前まで来て真っ直ぐと此方を見つめていた。

一瞬意表を突かれたことに驚き、固まった。

近づかれていたのに気づかなかった。

気配を消せるのか?いや、"その手"に関しては素人であろう彼女がそれを出来る筈がない。

油断していたんだ。俺が。

彼女の一挙一動を見て気が緩んで……。



変な間があったためか、彼女は不思議そうに俺の顔を覗き込んだ。

俺は違和感が無い程度に一歩引いて、何事もなかったかのように話を続けた。



「その時に私も言いましたよね。"救世主様"なのは変わらないと。今後何処に行ってもそう呼ばれるのは回避不可能です。慣れるしかありません。」


「……そうかもしれないですけど、これから側に付いてくれるジェダさんもその呼び方だと、何だか距離感があって嫌というか……。」


「距離感?」


「ですから!折角マンツーマンでペアを組んだんですから、仲良くやっていきたいんですよ。そのためには、先ずはその一線を引いたような呼び名はやめてほしいです!」



……またよく分からない単語を……。

要は、親睦を深めたいということだろうか?



「……私と貴方の関係は、言わば主従の関係です。親睦を深める必要性はないでしょう。」



「いや、私別に従えてるつもりありませんから!」



高速で手を横に振る様子からも、本心でそう言っているのはわかる。

分かるが。

何故この俺との仲を深めたがる?

他のやつはむしろ遠ざけようとしている奴らばかりなのに。


……いや。

あの伝令が来たときから分かっていた筈だ。

この人は、俺が"どーゆうものか"わかっていないんだ。だから、最初に出会った俺を頼り、そして近づいてきた。ただ、それだけのこと。


期待などしてはいけない。

いつだってそうだったんだから。



「……救世主様、最初に……「まあ、とりあえずいきなり名前で読んでくださいってのはハードルが高いだろうから、この話は一旦横においておきましょう。」


意を決して口を開くと、彼女の言葉に簡単に打ち消されてしまった。

それに気付いた救世主様は、「あれ、何かいいかけました?」と聞き返してくれたが、もう一度話す勇気が出ず、「なんでもありません。」としか答えることができなかった。



「それより、今日はジェダさん私の護衛として1日付いてくれるんですよね?」


「ええ。」


今日付けで護衛の任を受けることになったが、悪までも俺の所属は第5部隊。その兼任として護衛をしていく形となるため、四六時中救世主様の側につくことはない。

ただ、今日は初日だということで、殿下の命令で1日護衛の任に付くことになった。


殿下曰く

「今日は若いもの同士、親睦を深めるためにも1日一緒に過ごすといい。城の中でも案内してあげなさい。」

とのこと。

爽やかな笑顔の裏に何を企んでいるかは全く予想はできなかった。



護衛をする上で、彼女の行動パターンを把握することは重要だ。その点からも、1日行動を共にすることは意味がある。

だが、親睦を深めるかどうかは別問題だろう。



「殿下も仰っていましたし、城内を散策されますか?」


彼女は俺の言葉を待ち望んでいたかのように、目を輝かした。


「はい!」










それから俺たちは、城の中を歩き回った。

玄関ホールから始まり、舞踏会場ホール、従者用の食堂、国立図書館など。

何処を案内しても面白いくらいに驚いたり、感動したり。楽しんでくれているのが手に取るようにわかりこちらも案内しがいがあった。

その中でも、彼女が一番目を輝かせていたのは、城一番の大きさを誇る大庭園でだった。


ここは魔術が施され、四季折々の植物達で彩られ、彫刻や噴水が更にその美しさを際立たせていた。

騎士としてはここは通りすぎるだけの場所だが、やはり女性としては心踊らずにはいられないのだろう。


しかし、彼女は花や彫刻を一瞬だけ眺めると、すぐに何もない空の方に視線を写した。

俺には何もないように見えるが、「一杯いる……。」なんて呟いており、虫でも見つけたのかと勝手に解釈した。






「おや?見慣れない顔だね。」





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