守るということ
キイィンッ!!
鋭い金属音が青空に響き渡る。
俺はこの瞬間が一番好きだ。
何も考えず、ただ、無心に剣を振る。
それだけでいい。
単純で、明解だ。
余計なことを、考えなくて済む。
「クラウス!」
「!」
ギィィィンっ!!
咄嗟に構えた剣に、重く鉄の塊がのしかかった。
「……めずらしいな。お前が鍛練中に考え事なんて。」
「……っ。すいません。」
布越しに見える、冷たい視線。
サーキンスさんは、体勢を崩した俺に、容赦なく二撃目を加えようと交えた剣を離す。
それを見た俺は、わざと腰を落として姿勢を低く変える。
俺がいた位置でサーキンスさんの剣が空を斬った。
「!」
目の前に止まった剣に、自身の剣を下から振り上げ、相手の手から弾き出した。
ガシャンッ
剣が空を舞い、虚しく金属音を立てて地面に叩きつけられた。
「……はぁ。"また"完敗か。」
地面に落ちた剣を拾ったサーキンスさんは、形だけの礼をして此方を見ることなく立ち去っていった。
俺は、彼の背中に向かって頭を下げ「ありがとうございました。」と呟いた。
……ホントにらしくない。
剣を交えているときに他のことを考えるなんて。
"恥を知れってことですよ!"
昨日の、彼女の言葉が突き刺さる。
それが、あまり揺れない心を揺さぶった。
自分よりも遥かに小さな体を、めいいっぱい震わせて、自分よりも格上の相手に口答えをした彼女。
俺は、肝が冷えたのと同時に、はっとした。
彼女は、使命を受けて自分からこの世界に降り立ったわけでは、ない。
初めて彼女を見つけたとき、不思議なくらい動揺していた。
俺は、慣れない世界に来たのに、誰も周りにいない状況だったせいだと思っていた。
でも、よく思い返してみると
"……その救世主様ってやめてくれません?身の丈に合ってなさすぎて反応に困ります。"
必要以上に自分を卑下していた。
"えっ……一緒に来てくれるんじゃないんですか?"
不安そうな様子でもあった。
"……うそだ。ありえない。"
あれは、身に覚えのない呼び名に戸惑い、何をされるか分からない雰囲気に不安で、押し潰されそうになっていたんだ。
……なんて、馬鹿な思い違いをしていたんだ……。
頼りなさげな彼女を前に、俺は少しでも、安心を与えられるような関わりができていただろうか?
むしろ、心の中だけではあったが、
"なんて、頼りない救世主だ。本当に大丈夫なのか……?"
彼女を疑いの目で見ていたのではないだろうか?
"恥を知れ!"
……本当に、なんて恥ずかしいことをしていたんだ。
彼女の影に隠れ、静かに拳を握り込んだ。
しかし、彼女はその事実に怒りをぶつけただけではなかった。
「それで、私は何をすればいいんですか?」
「!?」
受け入れるのか?
こんなにも、理不尽な我々の要求を。
背中越しのため、彼女がどんな顔をしているかは見ることはできない。だが、彼女のその声からは、もう戸惑いも、不安も、不満も感じ取れなかった。
覚悟、したんだろう。
彼女にとっての未知の世界で使命を全うすることを。
そして、そんな彼女を守り抜く役目を、任された。彼女に選ばれたんだ。この俺が。
……出来るのか?
"こんな"俺に……。