試練の始まり7
「……それって、おとぎ話かなんかですよね?」
「いや?"昔の話"だと言っただろう。我が国の歴史書に確かに記されている。まあ、最後に同じことがあったのはざっと千年ほど前だがな。」
……違う世界から人を呼び出して、その人に自分の世界を助けてもらう……?
だから私はいきなりこんな、右も左も分からないような所に連れてきたの……?
誘拐したことと同然に……。
体が震える。
世界を救わなくちゃいけないという使命の重みで?
……違う。
「……んなっ……。」
「ん?」
こんなただの一人の乙女に、世界を救ってもらおうとしているこの人たちに対する怒りで。
「なんですかそれっ!自分勝手にも程があるでしょーが!!」
思わず立ち上がってしまった。
王子も、二人の護衛さんもポカンとしている。
多分、後ろに控えているジェダさんも同様に。
でも構うものか。
こんなの、抑えられる筈がない。
「"女神の使い"だ?"救世主"だ?そんなの私の知ったこっちゃないんですよ!
私は!ただの人間で!
医者だの患者だのにコキ使われてるだけのただの看護師なんですよ!
それをいきなり誘拐しといて世界を救えだ?あんな屈強な騎士がいるくせに、こんなひ弱な人間に頼るなんて情けないにも程がある!!
恥を知れってことですよ!!」
「「「「…………。」」」」
はぁ……
はぁ…。
沈黙が部屋を包み込む。
や……やばい。
言ってはいけないことを言ってしまった……。
それ以前に、王子に対してなんとも無礼な物言い……。
これは、もうマジで斬首刑かも……。
一気に血の気の引いた顔を伏せ、ゆっくりと腰を下ろす。
「い……以上……わ、私の……心の、叫びでし、た……。」
静まり返った部屋に、私の呟きが虚しく響く。
「あはははは!」
出会ってから何度目かになる王子の笑い声。
私は胸を撫で下ろすのではなく、驚いて王子を凝視した。
うそ、怒らないの……?自分の国、というか自分達を腰抜けのように言われたのに。
「はははっ!……はぁ。そうだよなぁ。そりゃ怒るよな。世界屈指と言われている大国が、女性一人に国の明暗を託すなんてな。俺もそう思う。」
うんうんと頷く王子からは嘘を言っているようには感じられない。
少しは話は通じるが、暴君なのには変わりないだろうと思ってた。
「だがな、今の俺たちにはそれでも君に頼らざる終えない。国を、いや、国民を守るためならば恥も捨てる。」
そう言った彼は、私に真っ直ぐ向き直り、頭を下げた。
「頼む、"アスカ殿"俺たちを助けてはくれないだろうか。」
強引だけど、強情でない。
真っ直ぐな瞳が、私を見据える。
助けてほしいと。
「…………はぁ……。わかってます。どちらにせよ、私には選択の余地なんてないですから。」
彼の思いに答えたよう。
そう思わずにはいられない。
きっと、それは私だけではないだろう。
故に、彼は"王子"なのだ。
爽やかな笑顔に変わった王子。
それにつられ、私も思わず口が綻ぶ。
「それで、私は何を"すれば"いいんですか?」