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シロクロ  作者: しろいるか
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試練の始まり6

「……それで、私は一体何をさせられるんでしょうか?」


「ん?言葉に若干のトゲがある気がするが、まあ、気にしないでおいてやろう。」



いや、気にしてくれていいんですけど……。


「救世主が何たるか、は君は分かるかな?」


「……詳しくは……。ただ何かを浄化する人だってことと、女神様?の使いだとかってことはなんとなく聞いてます。」


「大分アバウトだな……。」


そりゃ仕方ない。

だって此方にきてから詳しく話してくれたことなんて無かったんだから。

完全にわかってるでしょ?みたいな空気だったし。



「ふむ、いいだろう。まずは昔話をしようか。何年前なのかは誰にも分からない。気が遠くなるような昔のはなし……。」


王子は、まるで本の読み聞かせをするような語り口調でゆっくりと話始めた。












昔々、ここには何も存在していなかった。山も、海も、大地さえも。


そこはただ真っ白で、ただ一人、"神"と呼ばれる存在のみがいた。



彼は長い間ただそこに存在するだけだった。

話もせず、動きもせず、考えもしなかった。


ある時、時空に小さな歪みが生じた。それは本当に小さなもので、覗き込むのがやっとな程だった。


"神"は好奇心からそれを覗き、その先にある世界を垣間見た。

そこにはここにはないものに溢れ、"神"は羨ましいと思った。

ここには何もなく、自分がどうしようもなく寂しい存在なのだと感じた。



"神"は自身の力を使い、自分以外の物を作り出すことを考えた。


まずは大地を形成した。

自身をしっかりと支え、自分がここに確かに存在するのだと自覚させてくれるものを。


それから海を作った。

大地を潤し、新たな生命を生み出す存在を。


やがて海から水蒸気が発生し、それにより雲が出来、雨が大地に降り始めた。

雨は大地を潤し、大地は緑を生み出した。


美しい自然に囲まれ、"神"は癒されていたが、寂しい気持ちは変わらなかった。


"神"は考えた。

自分以外の、自分と同じ存在が必要なのだと。

同じ事を思い、同じ事をする存在が。



"神"は自身の髪の毛を使って、生命体を生み出した。"神"と同じような形をした、しかし少しの違いを持つ存在を。

輝くような美しい白銀の髪を持ち"神"よりは体が少し小さく、しかしとてもしなやかで美しい容姿をしていた。


彼女は"神"の命により、沢山の生命体を生み出していった。

彼女と同じような力をほんの少しもった生命体。それは後に聖霊と呼ばれるものだった。


聖霊にも個体差があり、火を生み出すものもいれば、水を生み出すものもいた。また、自身の力で姿形を変え"神"と同じような容姿になるものが現れた。


それは、"人間"と呼ばれる存在だった。


姿形を変えた人間は、それにより"神"たちと同じような力はなくなってしまった。力を無くしたもの達は、生きる力を失い、このままだと死んでしまう。

それに心を痛めた彼女は、"神"が生み出した自然と、それにより生まれた生命体を取り込み、力を蓄えることを教えた。

蓄えた力により生きる力を取り戻した人間は、その力を聖霊に分け与え、それを代償に聖霊の力を借りる術を生み出した。

それにより人間は大きく進化していき、知識を得、独自の文化を生み出すようになった。


人間が生み出すものは、"神"がかつて見た世界と同じようなものであった。

"神"はとても喜んだ。かつて自身が恋い焦がれた世界に自分が存在していることに。"神"はこの世界をとても愛し、自身が生んだ対となる彼女と共に、いつまでも世界を見守っていた。

しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。


かつて力を失い生きる力を無くしかけていた人間は、彼女の救いによって得た力で人間同士争うようになっていた。

互いの文化を受け入れず、自分と違うもの達を排除していくようになった。


自分の愛するもの達同士が争い、命を失っていくことに酷く悲しんだ"神"は絶望し、自身を封印して長い眠りについてしまった。


それと同時に、どこからか赤い光を持った黒い生命体が溢れだし、見境無く人間達から力を吸いとり、命を奪い出した。


人間たちは人間同士での争いはしなくなったが、変わりに新たに自身の命を脅かす存在と戦わなくてはいけなくなった。

際限なく現れる黒い生命体に人間たちは次第に疲弊していった。

"神"に救いを求めたりもしたが、彼は深い眠りについていたため、その声は届くことはなかった。


人間たちは生きる希望を失いかけていた。


そのとき、彼女は自身の全ての力と、聖霊達の力を借り、黒い生命体を封印した。

世界は平和になった。


だが変わりに彼女と聖霊たちは世界に存在することができなくなり、精神体のみの存在となってしまった。


人間たちは精神体となってしまった彼女達とはもはや会話をすることも、見つめ合うこともできなくなってしまった。


人間たちは悲しみに暮れ、自身の愚かな行いを悔やんだ。彼女や"神"、聖霊たちを崇め、神殿を作り祈りを捧げるようになった。


それから何年か経ち、再び黒い生命体が現れるようになった。

人間たちはなんとか対抗していたが、やはり際限なく現れるそれに、成す術なく途方に暮れた。


彼女になんとか力を借りようと、人間たちはあらゆる方法を試した。

何度も失敗を繰り返し、何人もの犠牲者を出した。

それでも諦めない人間たちに、彼女は一人の女性を使いに出した。

この世界ではない別の世界の人間。

それは、唯一彼女と関わることのできる人間。


女性は、自身の体をもって彼女を呼び出し、力を借りることができた。その力により、再び黒い生命体を封印することに成功した。


それから人間たちはその女性を"女神の使い"と称え、崇めるようになった。


世界は再び平和を取り戻した。


その平和が脅かされる時が来ても、"女神の使い"がまた降り立ち、我らを救ってくれるであろう。



これは始まりの物語。






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