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シロクロ  作者: しろいるか
18/35

試練の始まり3

「よかった、気に入ってもらえて。それで、アオ。早速なんだけど……」


コンコン。



「救世主さま?お時間掛かっているようですか大丈夫ですか?そろそろ支度を始めさせていただきたいのですが……。」



申し訳なさそうなメイドさんの声が聞こえてきた。


思ったよりも長時間籠っていたようだ。



「あ、すいません!今出ますから!アオ、悪いけどまた後で……ってあれ?」



いつの間にか、アオの姿が無くなっていた。


用事でもあったのかな?

また来てくれるといいけど……。


その時は特に疑問に思わなかったが、アオとはまた突拍子もなく再開することになることは、今の私には予想すら出来なかった。






あれから慌てて浴室から出た私には、いつの間に用意したのか、大量のドレスを背に微笑みを携えたメイドさん達が待ち構えていた。


私が着ていた洋服は、泥やら獣の体液やらで汚れすぎてもはや切れる状態ではなかったようで、嫌がおうにも用意されたドレスを着る他に選択肢はなかった。


勧められたきらびやかなドレス達をかわし、何とか一番地味そうなワンピースに近い藍色のドレスを選択。

不満げなメイドさんを宥めながら、着替えを手伝おうとしてくるのを拒んでいたが、ドレスなんて着なれない物だったため、一人で着ることを諦め着せ替え人形と化した私をメイドさん達は満足そうに着飾っていった。



そうこうしているうちに、一時間はたっただろう。

お風呂で癒した疲れは、再び私の体に重くのし掛かっていた。


「素敵ですわ救世主さま!まるで本物の女神さまみたい!」


「そうですか?ありがとうございます……。」


否定する気力もない私は、満足気なメイドさんの過剰な称賛を軽く受け流した。



コンコン。


「はい。」


ノックに答え、メイドさんが軽く扉を開けると、青い軍服を着た昨日の女の護衛の人が入ってきた。



「お早うございます救世主さま。お支度は御済みでしょうか?」


「え?あ、はい。多分。」


これで終わりであってほしいという願いも込めてした返事は、メイドさんに拒まれることはなくほっとした。



「殿下が御呼びです。執務室までご足労願います。」
















「やあ、昨日ぶりだ。よく休めたかな?」


疲れた眼には眩しいくらいの爽やかな笑顔。

今の私には、文字通り眼に毒だ。



「まあ、それなりに……。」


げっそりしている姿を見せておいて言えた口ではないが、そこは王子相手だ。社交辞令は忘れない。


執務室には王子が使う書斎用の机がどーんと中央に構え、その上にはまたどーんと大量の書類が積み重なっている。

王子って親の脛かじって遊んでばかりいるものだと思っていたが、ステルス王子にはそんな暇は無さそうだわ。


そんな失礼なことを考えて立っていると、後ろに控えていた執事さんに王子の机の前に設置されたいた応接用のソファーに案内された。

腰をかけるのと同時に、いい香りのするお茶をすかさず出してくれて、仕事の早さに感心した。



「そうそう、昨日君が言っていた件、通ったよ。」


「へ?」


お茶の香りを楽しんでいたところで、王子は誰かに向かって「入ってきなさい。」と声を掛けた。


すると間を置かず、大きな扉が開かれ「失礼します。」と聞きなれた声が聞こえた。



……ん?

誰?


性別は男。黒い短めの髪、背は高めで多分180くらいはあるだろう。王子の護衛と同じような軍服を着てはいるが、色は青ではなく真っ黒だ。あと、特徴といえば何故か両目を金色の刺繍が施された黒い布で隠していること。


声は聞き覚えがあるような気がしたが、こんな人に会うのははじめてだ。


私が昨日言ったことって確か……。



「今日付けで救世主様の護衛を勤めさせていただきます。ジェダ・クラウスです。よろしくお願い致します。」


そう言ってジェダさんは、私に向かってビシッと敬礼した。



あー、ジェダさんねぇ……




「ジェダさんっ!?」


思わずお茶をこぼしそうになった。



「はい。そうです。」


道理で聞き覚えのある筈だ。

数時間前まで聞いていた抑揚のない声色。まごうことなきジェダさんだ。


思えば、私は彼とは鎧で全身を覆われていた状態でしか会っていなかった。もっと筋肉モリモリのゴリラみたいな人だと思ってたのに、まさか中身がこんなスラッとした人とは……。

いや、しかし。何故か目隠しされているため顔までは確認できない。勿体ぶっているのか?まさかこれからスイカ割り始めたりしないよな……。


「昨日とは格好が全く違うからビックリしました。今日は鎧じゃないんですね?」


「……すいません。あれは討伐任務や戦時用の物なので。鎧の方がよろしいのでしたら、着替えて参りますが。」


「え?いやいや!あれもあれでカッコいいですけど、威圧感があるといいますか。今の格好の方がジェダさんの顔もよく見えますし、親しみやすくていいと思います!」


無表情でわあるから相変わらず何を考えているかは分からないが、顔が見えているのと見えてないないのとでは距離感が断然違う。

なるべくあの鎧になるのは避けていただきたい。


「……そう、ですか。了解しました。」


ん?

心なしか、ジェダさん驚いているような?

私変なこと言っちゃったかな……。

いや、そもそも私の護衛になったのが不満なのかも……。



昨日、ステルス王子は早々に話を切り上げた後に私に一つ提案してきた。



「は?ごえい?」


「そう。アスカは悪までも救世主様だ。今は公にはされていないが、いずれ国中の人々に君の存在は知れ渡る。」


うへぇ……。それは可能な限り避けたい。有名人になったところで喜ぶのは芸能人くらいだ。

あからさまにしかめ面したためか、苦笑いで「仕方がないだろう」と言われた。

いや、仕方なくはないだろう。救世主だってプライバシーというものはある。救世主じゃないけど。




「公になれば、自ずと君を利用しようとする輩は必ず出てくる。君には常に、拐われる危険性が付きまとうというわけだ。」


「だったらわざわざ公表する必要なくないですか?矢面に立ちたくないです。」


「それは出来ん。救世主の存在はいわばこの国の希望だ。国民の不安を緩和させるためにもいずれは公表する必要性がある。」


……私の希望はガン無視ですか。





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