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シロクロ  作者: しろいるか
17/35

試練の始まり2

ーーー。



ん?


「……玉に触れ?」



唐突に、頭のなかで声が響いた。


後ろを振り返ってみるが、誰もいる様子は無し。浴室の外にはメイドさん達が待機しているが、聞き耳を立ててもバタバタと何かをしている物音がするのみで、こちらに話しかけにきた様子はまるでなかった。



…………うん。

気のせいだな。



嫌な考えが一瞬頭を過ったが、心の中で結論を出し、再びドアノブに手をかけた。




ーだから、玉に触ってってば!ー


「っ!?」


ガタン!



さっきとは違い、今度はハッキリとその声が聞こえた。

思わず壁に背中をへばりつかせ、後ろを振り返る。

だが、やはりあるのは水晶玉と浴槽のみ。




「ゆ、幽霊……?」


知らない振りをしようにも恐怖心から体が自然に震え思うように動けない。


どうしよう。幽霊なんて生まれてこのかた見たことがない。耐性もなければどう対応していいかも分からない。


「お経…?とりあえずお経唱えればいい?えーと……南無阿弥陀仏?」



ー……なむあみって何?ー



「ひえっ!またしゃべった!!」


しかもお経まるで効果無し!詰んだわ!


丸腰どころか丸裸な今の状況で、これ以上対抗する術は皆無。

外にいるメイドさん達に助けを求めるという考えが出ないほど余裕の無くなった私は、覚悟を決めて丸裸の状態でファイティングポーズをとった。


「ゆゆゆ幽霊だかなんだか知らないけど、私を呪ったっていいことはないよ!頼むからここから出ていってくださいー。」


情けないとは言わないでほしい。構えたはいいものの、私に戦闘能力なんてものはないのだ。懇願するしか方法はない。



ー幽霊なんて失礼だなー。どーでもいいけど、体洗いたいんでしょ?ー


「……へ?そ、そりゃまあ……洗いに来たんだし……。」


切羽詰まった状況に似つかわしくない砕けた物言いに、私は思わず返事をした。

……なんか、あんまり怖くないかも……?



ーだったら、早く玉に触ってよ。そうしてくれないと君の魔力受け取れないからさ。ー



魔力を受けとる?

どーゆうことだろう。


疑問に思いつつも、正体不明の声に素直に従い水晶玉へと手を伸ばす。

……我ながら怪しすぎる声に素直に従うなんて馬鹿な行動だとは思う。だけど、この声には悪意が感じられないような気がして、疑う気になれなかった。



手が水晶玉に触れた瞬間、そこから熱を持った水が一気に溢れだし、全身を覆いつくした。


お湯!?

てか息できない……!


顔まで覆われたため呼吸ができず苦しくなってきた。


私の馬鹿!

変な声に馬鹿正直に従ったりするからこんなことに!

自分の行いに後悔しながら、死を覚悟したところで、全身を覆っていたお湯が瞬時に消え去った。


「……?」


『はい、終わりー。どう?さっぱりしたでしょ?』



呼吸苦から解放され、変わりに全身に爽快感が駆け巡った。

私は恐る恐る眼を開けると、目の前には見慣れた水晶玉と、その上にちょこんと小さな子供が腰かけていた。


子供と言っても、見た目は人間のそれとは違い、青い肌に尖った耳。終いには蝶々のような羽も生えている。見慣れない生き物を前に、不思議と恐怖は沸いてこなかった。



「……小人?」



『あながち間違っちゃいないけど、あんた達人間には聖霊なんて呼ばれてるよー。幽霊でないことは確かだね!』



聖霊?妖精みたいなものかな?

幽霊じゃないならなんでもいいや……。



ほっと胸を撫で下ろしたところで、自分が今丸裸だったことを思い出し、慌てて湯船へ体を沈めた。

程よく暖められたお湯が疲れたからだに染み渡る。


「あふぅ……幸せ……。」


『……ねえ、もっとさっきみたいに驚くとか感動するとかないわけ?リアクション薄くてつまんない。』


聖霊は不満そうに頬を膨らませる。

……かわいいなあ。中性的な顔をしてるから性別まではわからないな。



「そう言われても……。昨日から色んなことがありすぎて驚き飽きたというか。ようやく一息つけて気が抜けちゃってるから驚く気力がないんだよねぇ。」



『つまんないのぉ。折角女神さまの使いがきたっていうからわざわざ見にきたのにさぁ。』


「え。なんでそれを知ってるの?」



『僕たちの間で知らないやつなんていないよ。あんな沢山魔力を使って召喚術使わせたんだし。』


僕たちってことは、この子みたいな妖精が他にもいるってこと?

てか、その子達の間では私有名人になっちゃってるのか……。


「体綺麗にしてくれてありがとう。君の魔法なの?」


『んー……正確には違うかなぁ。僕はただ、この魔方陣の通りに力を込めてるだけだから。それに、あんたの魔力貰ってるしね。美味しかったよー。』


「魔力?私にもそんなものあるの!?」


思わず身を乗りだし、聖霊に詰め寄った。


『そりゃあるでしょ。生きてるものにはだれだって持ってるものだよ。』



ってことは、さっきのは私の魔力で魔法を私が使ったってこと?

うはー!感動するわ!!


聖霊は、目をキラキラさせて固まった私を、不思議そうに見つめていた。

この子は色々詳しそうだし、話も他の人より通じそうだ。ここは親睦を深めて色々教えてもらいたい。


「色々教えてくれてありがとう。私、アスカ。君の名前は?」


『アスカっていうんだー。僕に名前はないよー。人間達には水の聖霊とか言われてるけどね。』


体が青いし、水を操っているからだろうか?

しかし、名前がないと些か不便だなぁ。



「水の聖霊だと呼びにくいし、青色だからアオって呼んでもいいかな?」


『……アオ?それって僕のこと……?』


聖霊は突然固まり、驚いた表情をみせた。


……もしかして気に入らなかった?

てか、馴れ馴れしく名前決めるなんておこがましすぎたかな?


「う、うん……気に入らなかった?」


『ううん……名前、付けてくれるなんて初めてだから……。アオ、アオか。うん!気に入ったよ!ありがとう、アスカ!』


さっきとは、うって変わって背後に花が咲きそうな程かわいらしい笑顔になったアオ。

内心ドキドキしていたからホッとした。




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