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シロクロ  作者: しろいるか
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試練の始まり

"なんでこんなこともできないのよ?"





暗くて何も見えない中、誰かの声だけが鮮明に聞こえる。




"やるって言ったのは貴方でしょ?"



その声を聞くたびに、私の胸は痛いほど締め付けられ悲鳴を上げる。




"私は知らないわ、貴方が悪いんじゃない。"



声にならない悲鳴は、誰に届くこともなく喉を焼き尽くす。






"もう、あんたやめた方がいいんじゃない?"





とうとう叫ぶことをやめた私は、光のない瞳でその人に向かって微笑むことにした。




はい、今までありがとうございました……。



















「っ!」


勢いよく上半身を起こすと、冷や汗が流れて不快感が全身を覆った。



「……夢?」



不快な夢から現実に引き戻されたのを感じて、安堵した。頬を伝うものに触れると少し濡れていて、自分が泣いていたことを自覚する。



「……またあの夢か……。」


もう何度見ただろう。

あの夢を見るたび、私の心臓はバクバクと脈打ち呼吸が早くなる。


我ながら女々しいな。いつまでも引きずるなんて。


自虐に満ちた笑みで濡れた指先を見つめると、その先に、見慣れない布団があるのに気づく。



ん?

こんな豪華な柄の布団なんて使ってたかな?


触ってみると、上質な布なのが容易に分かる。何かがおかしい。

そう感じて周りを見渡すと、高そうな壺やら絵画が並んでおり、それに負けず劣らずの豪華な装飾が施された壁紙やら天井にぶら下がったバカデカイシャンデリアが眼に入り、寝起きざまの寝ぼけ眼に眩しいくらいの輝きを放っていた。



……ああ、これは夢じゃなかったのか……。


シパシパする眼を擦りもう一度周りを確認するが、さっきと同じ光景しか眼に入らず落胆する。




確か私は、昨日残業をようやく終らせてすっかり暗くなった帰路を歩いていた。そこで突然目眩に襲われたかと思ったら、一瞬にして見知らぬ森に景色が変わった。

そこで黒い鎧の人やら黒い獣に襲われたかと思うと、今度は協会に連れていかれ、怪しい儀式に巻き込まれた。

あげくのはてに、大きなお城に連れていかれ、偉そうで話を全く聞かない王様やらひとの不幸を面白がってる王子様に出くわしあろうことか私を救世主だと騒ぎ始めた。


まるで夢のような出来事が、数時間の間に繰り広げられ、私のキャパシティは容易に越えてしまった。王子から重要事項を聞き出せずやきもきしていたにも関わらず、疲れきった体は正直だったようで、案内された部屋をろくに確認することもなく、ベッドへとダイブし気絶するように眠ってしまった。



……出来ることなら夢であってほしかった……。



昨日の出来事を思い返し、枕に顔を埋める。

だだっ広い部屋にこれまた無駄に大きなキングサイズのベッドに一人ポツンと体を沈めていると、より一層孤独感が際立つ。



シーツに伝わる自分が残した温もりが、ここが現実であることを嫌という程自覚させる。




……ここで臥せっていても仕方ない。

覚悟を決めて王子が言ってるテストに挑もうじゃないか。


「そんでもって、今日こそ帰りかたを聞き出してやる!」




コンコン。


気合いを込めていたら、扉の向こうから声が聞こえてきた。


「お早うございます。中に入ってもよろしいでしょうか?」


「あ、はい。どうぞ。」



丁寧で落ち着いた女性の声がして、私もつられて恐縮してそう答えると、さっきの落ち着いた雰囲気が嘘のように勢い良く扉が開かれた。


そこには、三人のメイドさんが立ち並び「失礼します!」と言うのと同時に私を瞬時に取り囲んだ。



「へ?あの……。」


「はじめまして救世主様!私たちはこれからあなた様の身の回りのお世話をさせて頂くことになりました専属のメイドでございます。私はメイと申します。」


「私はアリーです。」


「私はキハナといいます。よろしくお願い致します。」




突然のことに固まっている私に向かって元気良く自己紹介をした三人のメイドさんは、此方の反応を期待するような眼差しで待ち構えている。


「えっと……ヒノ・アスカです。よろしくお願いします?」



三人の勢いに圧され若干引きぎみだったが、彼女たちは満足そうに微笑んだ。


専属のメイドってどーゆうこと?



状況が理解できず固まっている私を気にする様子は無く、テキパキと何かの準備をするメイドさん達。


「では、お食事の前に身支度を整えましょう!先ずは湯あみです。」


「さあさあ、お召し物を脱ぎましょう。」


そう言って、メイさんという人は私が着ている寝巻きを掴んできた。


え!?ちょっと待って!


「もしかして脱がせる気ですか!?」


思わず捕まれた裾を奪い返すと、不思議そうな顔をされてしまった。


「はい、脱がないと濡れてしまいますよ?」



いやいや!そこじゃないから!



「じ、自分で出来ますから!てゆーかもしかしなくてもお風呂も手伝ってくれようとしてます?」


「「はい、もちろん!」」


今度はいつの間に移動したのか、部屋の奥にある扉の前に待機していた二人が元気良く返事をした。


とても爽やかな笑顔だった。


専属メイドってこーゆーことか!


ようやく状況を理解した私は、身の危険を感じ慌てて壁際へと避難した。



「お風呂は一人で入りますから!お構い無く!!」



私の必死な抵抗が功を奏し、不満げな三人を尻目に、部屋に備え付けられていたお風呂場に一人で入っていった。


あ、危なかった……。


自尊心を何とか守ることができて安堵のため息が漏れる。

これが異文化の洗礼というやつか。

異世界召喚物でよくこーゆー場面を目にするけど、お姫様扱いで羨ましい、なんてものじゃない。赤ん坊扱いされているようで恥ずかしいったらない。


「……てか、これどうやって使うの?」



お風呂場には、猫足の湯船とその真上には何やら水色の水晶玉のようなものがふよふよと浮かんでいた。


……今さら玉が浮かんでいること自体に驚きはしないが、何故それがここにあるのかは全く理解できない。


湯船には暖かそうな湯気をたてたお湯が張ってあるが、それ以外の体を洗うための石鹸とか桶とかそういった類いのものが一切見当たらない。

簡潔的に言うと、お風呂場にあるのは湯船とその謎の水晶玉のみなのだ。


元の世界と同じものがあるとは思ってなかったが、似たようなものはあるだろうとたかをくくっていたため困惑した。

これで一体どうやって体を洗えばいいのだろう。


……もしかして、ホントに手伝ってもらわないとダメかもしれない……。



私は恥を忍んでメイドさん達に助けを求めようと扉に手をかけた。








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