表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シロクロ  作者: しろいるか
15/35

白い女神の使い(5)




……あ。




そう思ったときにはもう遅かったが、奴の体液がモロに人影に降り注いでいた。


よくよく見ると、人影の正体は女性のようだ。

体液で汚れてしまっているため、細かい容姿は確認できないが、赤い目でも黒いからだでもない。ましてや武器を持っている様子もなく誰がどうみても一般庶民にしか見えない。


女性はこの寒空の中悪霊の体液で身体を濡らしてしまったため、可哀想なくらいに震えだしてしまった。



不可抗力とはいえ、原因を作ったものとして罪悪感に襲われた俺は、自身の鎧についているマントを破き、女性に被せてあげた。


「……大丈夫ですか?怪我はないようですね。」




女性はようやく此方に目を向け被せられたマントと俺を交互に見だした。


「あ……あの。すいません。なんか大事なマント頂いてしまって……。」



そう言って一歩前に踏み出したかと思えば、突然固まり下を向いてしまった。


やや顔が青ざめてきているような……


不思議に思い、彼女の視線の先を見ると、まだ霧状化していない悪霊が両断された状態で横たわっているのが見えた。



ああ、素人にこの光景は目に毒だよな。


「あまり、見ないほうがいいと思いますよ。」


そういえば剣にもまだ体液がついていたことを思いだし、これ以上不快な思いをさせないよう、剣を振るって体液を落とし鞘に納めた。



彼女の方を振り返ると、青ざめていた筈の顔色はきれいな桃色へと早変わりし、此方をキラキラした視線で凝視していた。



……変なやつだな。コロコロ表情変えて何を考えているかわからない。


人のことを言えた義理ではないが、自分とは違う表情豊かなこの女性にやや苦手意識が芽生えた。



こーゆーときは深くか変わらず立ち去るに限る。

そう判断し、さっさと女性に自己紹介とあと説教を少し添えてその場を後にした。


こんな時間にこんなところで何をしていたかはわからないが、まさか手ぶらということはないだろう。霊具があればすぐに帰れる。


霊具とは、陣が込められた道具のことで、自身の魔力を注ぐことで様々な機能を発揮する便利アイテムだ。

難しい陣を覚える必要もなく、必要な魔力があれば子供にでさえ扱える。

それは火を起こすものだったり、遠くにいる人と会話をするものだったりと様々な種類の道具が存在している。その中に町の外に出るときの必需品として転移具というものがある。

何処にいても、その距離に応じた魔力を注げば決まった場所に作られた陣まで瞬時に戻ることができる道具だ。


つまり、常識ある大人はみな外出時は持ち歩いている筈の物である。




しかし、あろうことか彼女はそれを持っていないから助けてほしいと息を切らしながらついてきてしまった。


……嘘だろ。

まさかこんな森のなかを何も持たずに歩き回る馬鹿がいるなんて。



思わず溢れたため息を止める気もなく、畳み掛けるように彼女を戒める。


「こんな森の中を霊具も無しに入るなんて。また悪霊に襲われても文句は言えませんよ。いい大人がとる行動とは思えない。」



その言葉が間にさわったのか、彼女は顔をしかめて思いもよらなかったことを口にした。




「あなたが言ってる"れいぐ"だとか"あくりょう"だとかなんのことだかさっぱりわかりませんけど、勘違いされているのはよくわかりました。

私は好きでこんな所に一人でいた訳じゃありません。家に帰ってくる途中で突然知らないところに場所が変わってたんです。」





ん?

突然?知らないところに?



普通だったら馬鹿げた虚言だと鼻にもかけずに一瞥することだ。


だが俺が今探している人物は、正にそういう状況におかれている筈のものだった。




……まさか彼女が?

だがどこも変わったところは見受けられない。


髪は何処にでもいる栗色。

瞳はどちらかというと黒色に近い気もするがやや茶色がかっている。

格好は……あまり見たことない感じではあるが、女性のファッションに関してはあまり知識がない方なので、はっきりしたことは言えない。

魔力も……感じるほどは無さそうなので人並みくらいにかないだろう。


そう、いくら観察しても変わったところはない。

あるとすれば彼女のその言動のみ。

悪霊も霊具も知らないとなると、可能性としては限りなくゼロに近いが、だが決してゼロではない。



思わず「本当ですか?」と尋ねると、彼女は戸惑いながらもその首を縦に振る。

彼女が嘘をついている可能性もあるが、否定しきれない以上無視することは出来ない。



捨てきれない可能性に掛け、俺は彼女を連れていくことを決めたのだった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ