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シロクロ  作者: しろいるか
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白い女神の使い(3)

慌てて辺りを見渡すと、自分の後方、先程倒した狼型の悪霊がいたところに、広範囲に渡って黒い霧が集中しているのが目に入った。


これは異常だ。


悪霊は倒された後、黒い霧となって最後には跡形もなく消える。


しかし、さっき確かに狼たちは霧状に離散した筈なのに、消えずにその姿を徐々に濃いものへと変貌させていた。



この場にいる誰もがこの異常事態に警戒心を高め、黒い霧を囲うように、だが、ある程度の距離を保ちながら対峙する。





霧状のままでは、こちらの攻撃は一切通用しない。


奴が原型を成すまで指を咥えて待っているしかないのだ。



そんな俺たちの心情を知ってか知らずか、黒い霧は時間をかけて姿を変えていき、特徴的な赤い瞳が現れた時には、ハッキリとその姿を認識できることができた。





……これが召喚の儀による副作用とでもいうのか。




敵は一体。

数で言えばさっきの大群を相手にしていた時よりは大分マシといえる状況だ。

しかし、奴のその姿が、俺達から警戒心を消し去ることを許さなかった。




簡潔に言えばそれは狼の姿といえる。

だが象のようなその巨体、そして、本来なら二つしかない筈の赤い瞳は、黒い身体に6つ並んで此方を睨んでいた。




グオオオオッ!



咆哮が鳴り響く。

数は三体分。





第3級悪霊。通称ケルベロス。

1つの身体に3つの頭を持つ悪霊は、先程相手をしていた狼達より遥かに凶悪な力を持ち合わせていた。




「全員距離を置けっ!来るぞ!!」



ランダム隊長がそう号令するのと同時に、奴は三つの口から灼熱の炎を噴き出す。




その炎は広範囲に渡り、避けきれるようなものではなかった。

隊長は瞬時にそう判断したのか、前方に陣を形成。それに手を触れ「氷結界!」と唱えると、陣から氷の壁が現れ迫り来る炎から隊員達を守った。


隊長が得意とする氷属性の霊術だ。



「剣を構えろ!炎が収まり次第、全員で奴の足元を狙うぞ!!」



止めどなく吐き出される炎。


容赦のない灼熱の追撃に、徐々に結界が溶かされていく。

知恵があるのか、ケルベロスは1頭ずつ順番に炎を吐き出し、追撃が絶えないよう工夫しているようだ。



「……隊長、このままでは破れます。」


静かに隊長の側に寄り、皆に聞こえない声量で進言する。



「ああ、わかってる。だが見ての通り、俺は今手が話せない。」


そりゃそうだ。

この結界は隊長の右手から生み出されている。

当然、隊長が自ら動こうとすればその右手は結界から離れ、跡形もなく結界は消えてしまうだろう。



危機的状況なのに彼はいつもの豪快な笑顔を此方に向けていた。

それを見た俺は、彼の言わんとすることを理解し、頷きで返す。


「タイミングはお任せします。」


そう言うのと同時に、地面を蹴り氷の壁より遥か上空まで飛び出す。

幸いケルベロスは結界に炎を吹きかけるのに集中していたため、俺が頭上から降ってくるに気づくのに一瞬の隙ができた。


その隙を見逃さず、落下の勢いを利用して結界に目を向けている真ん中の頭部目掛けて剣を突き刺した。



グオオッ!


剣はケルベロスの眉間に命中するが、頭蓋骨が分厚いためか、致命傷とはならず真ん中の頭は痛みに苦しみながら俺を振り落とそうと頭を一心不乱に振り回す。



突き刺した剣を右手でつかみ支えにし、空いた反対の手に短剣をもち振り回される勢いにのせて今度は左側の頭部に短剣を投げる。


グアッ!


短剣は右目に命中。

左側の頭部は怯み反対側へと顔を反らした。



二頭らやれたためか、炎を吐き出していた右側の頭部は、ようやく此方に意識を向けてきた。

そうなると、必然的に一瞬の隙が生じる。


そう、氷を溶かそうとしていた炎が止まったのだ。



それを逃さず、隊長は「突撃!」と号令し、結界を解くと隊員たちは一斉にケルベロスの足元目掛けて剣を突き刺した。




グアアアアアッ!


三頭が同時に苦痛に顔を歪める。

当たり前だが胴体の感覚は共有しているようだ。


動きが止まったのを見逃さず、俺は剣に意識を集中させ、自身の魔力を通わせる。

それと同時に頭部と胴体とを繋いでいる首の繋ぎ目を狙い力一杯に剣を振り抜いた。


……っ!!


真ん中の頭部は声を発するまもなくそれを胴体から落とし、胴体は力無く残りの頭部とともに地面へと倒れこんだ。



「畳み掛けろ!」


隊長がそう叫ぶのと同時に、隊員たちの剣がケルベロスの身体を貫く。




グオオオッ……!


ケルベロスは最後に力無く雄叫びをあげると、その身体を黒い霧へと変え、空気中へと消えていった。






「…… 今度は消えたようだな。」



暫く警戒心を解かずにケルベロスが消えた方に向かって構えていたが、何も起こらないのを確認し漸く全員の緊張が和らぐ。


「召喚の儀とかこのような災いも招いてしまうのでしょうか。倒した悪霊が更に強力な悪霊に変貌するなんて……。」


第五部隊隊員の1人がつぶやく。


確かに

今までこんな事態が起こったことは一度もない。


召喚の儀は大量の魔力を要する儀式。

魔力を欲する悪霊が大量発生するのは予想の範囲内だ。しかし、倒した悪霊が変化して再び襲ってくるなんて誰も想像だにしていなかった。



……召喚の儀。

救世主を喚びだす希望あるものだと思っていたが、何か不吉な予感がしているのは俺だけだろうか?




「今ここで俺達がない頭で考えても無駄だ。……とにかくこの事は他の部隊にも伝える必要があるな。おい!ハウンド。伝令術を起動してくれ。」


「了解。」


ハウンドと呼ばれた隊員は、右手をかざし、陣を形成する。

それを確認した隊長は、伝令の内容を口にしようと口を開く。






カッ!



その刹那、

俺達が背を向けていた神殿から強い光が発生した。









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