本物の王子様
「改めて自己紹介させてもらう。俺はこの国の第二王子、アレキサンダー・ステルスだ。えーと、名前は何て言ったっけ?」
「……アスカ・ヒノです。」
「うんうん、アスカね。君には悪いけど、これから本物の救世主かどうか確かめさせてもらうから。」
……いきなり名前呼びですか。随分馴れ馴れしい王子様だな。
この国に習って名乗ったものの、意に反してまたもや名前呼びされてしまった私は、思いっきり怪訝な顔をした。
この人は本当にさっきの爽やかな笑顔をしていた人と同一人物なのだろうか?
怪訝な顔をしている私を見て面白そうに笑っているステルス王子。その笑顔からは爽やかさの欠片が微塵も感じられなかった。
……イケメンなのは変わらないのになぁ。
物語に出てくるような王子様でなかったことに若干落胆した。
あれから私と王子、神官長は王様のもとを後にして、王子様専用の応接間に通された。
数名のメイドさんと、執事さんが扉付近に控えており、あとは護衛なのだろう、鎧姿ではなく軍服のようなものを着た人が剣を腰に提げて王子様の両端に控えている。
因みに、護衛の一人は女の人でとっても美人さんだ。
私と神官長さんは王子様に向き合う形でテーブルを挟んだ向かい側のソファーに座らされていた。
居心地が悪いことこの上無い。
神官長さんなんて、さっきの王様の圧力にやられてしまったせいか、それも相まってますます縮こまってしまっていた。
「……本物かどうかなんて、初めから私は違うって言ってるじゃないですか。まるで私が騙してるみたいな言い方……。」
そっちが勝手に救世主だなんだのと言っているくせに、心外にも程がある。
メイドさんに出してもらったいい香りのする紅茶に眼もくれず、私は負けじと王子様に対峙する。
「悪いな、だが仕方がない。異世界からくる人間なんて然程珍しくは無いことだからな。」
「ええ!!そうなんですか!?」
思わぬ情報に身を乗り出す。
王子様はまたもや面白そうに笑った。
「ああ、基本異世界人が現れたときは国に報告することが義務付けられててな、今確認されてるだけでも数百人はいるな。」
「そ、そんなに……。」
なんて私は運がないんだとか思ってたけど、そんなホイホイと異世界から人が迷い混んでいたなんて思いもしなかった。
「じゃあ、何でそんな中で私が救世主だなんだって言われちゃってるんですか?」
そんなに異世界から人が来ているなら、私だけを救世主扱いするのはおかしい気がする。寧ろその数百人の中に本物がいるのではないだろうか?
「アスカは他の異世界人とは違って迷い混んだわけではなく召喚されて来た。莫大な魔力を使って女神の使いを呼び出す召喚術によってな。」
「でも、その召喚の場所に出たわけでもないし、人違いだっていう可能性も……。」
「残念だが、それはない。君には女神の使いの証である神の眼が現れたそうだな。可能性でいったら一番高い。」
……ああ言えばこういう……。
有無を言わさない物言いに私は顔を伏せる。
「……じゃあ、何で本物かどうか確かめる必要があるんですか。証ってものが出たなら間違いないんじないですか?」
「俺は自分の眼で見たもの以外は信じない主義でな。」
……理不尽すぎる。
ふんぞり返るイケメンを冷めた眼で見つめるが、当の本人はなんとも思ってない様子だ。
王様よりは話がわかる様子だが、やはり遺伝なのか、我を通そうとする意志は強いようだ。
「……しかし殿下、一体どのようにするおつもりですか?救世主様には未だに覚醒する兆しは見られておりません。覚醒の儀以外でなにをしたらいいか皆目検討がつきません。」
王様からの圧力に解放されたのか、ようやく口を開いた神官長さん。
王様よりは緊張しないのか、萎縮している様子はみられない。
「それはまた明日話そう。今日はもう遅い。なれない環境で疲れているだろうからゆっくり休むといい。」
「え、ここまで話を盛り上げておきながら勿体ぶるんですか。」
思い切り話の腰を折られ思わず口答えしてしまった。
王子の右側に立っていた男の護衛の人に睨まれ体が強張る。
それを宥めながら、王子はイタズラっぽく笑った。
「俺はお楽しみは後にとっておくのが好きなんだ。」
理想の王子様像とかけ離れたその姿に、私は壮大なため息をこぼす他なかった。