プロローグ1 - 第一話 異端者に裁きを1
初投稿です。稚拙で力量のない文章かもしれませんが、よろしくお願いいたします。
それはイロアス暦六百二十三年の春のことであった。
アルシア王国は魔族連合国家と近隣諸国を相手に十五年続いた戦争の影響により国力が著しく低下していた。
何かよい打開策はないかと書庫をひっかきまわしていた当時のアルシア王国軍事魔法庁長官は三百年前の召喚実験を最後に禁じられた勇者の召喚に踏み切ることになる。
「勇者の召喚? 正気ですか、ゴォンツォ長官殿!」
王宮の長い廊下にて、腰に剣を帯び、貴族にしては地味な服を着た体格のいい一人の青年が金糸の刺繍が入った白いローブを羽織った中老の男に詰め寄った。
その青年は整った顔立ちをしていたが、一睡もしていないのか目の下にクマができ、明らかにやつれていた。
「ああ、正気だとも。アーマクス・フォン・ウルムガルト男爵。私の考えに異を唱える気かね?」
対する長官は豪華な衣装に身を包み、顎髭は地面を引きずるほど長く真っ白で、手には大粒で真紅の宝石がはめ込まれた杖が握られていた。
ゴォンツォ長官は男爵の話をそこらに舞う羽虫の音程度のことだと聞き流し、手にした杖を振り上げて行く手を阻む彼を追い払おうとしたが、振り下ろされた杖は床を転がった。
アーマクスが振り下ろされる杖を素手で払ったのだ。
「まず、どうやって勇者を召喚するのですか! 第一、王国の優秀な召喚術師は皆、前線に送られていますし、全員が長い戦いで消耗しています。そのような状態でどうしろというのですか!」
間髪を容れず、アーマクスは口調を荒げ長官に言った。
「足りないのならつぎ足せばいいのだよ。簡単なことさ、ウルムガルト君」
子供を諭すような口調で長官は答える。
アーマクスは最悪の返答を想像しながらも質問を続けた。
「具体的にどうやって?」
「そんなこともわからないのかい? 無論、生贄だよ。中でも死にたての人の肉は最高の魔力源、神々への供物だよ!」
大袈裟な身振りでものを語る長官の目の奥はぎらぎらとした真っ赤な狂気がうかがえた。
「あなたは人の道を外れている。……そもそも勇者を呼び出すほどの魔力を作り出すには一般人に換算して一都市潰すくらいしないと……まさか」
事を察したアーマクスの声色の変化に長官は顔をゆがめ笑った。
「そうだよ、その通りなのだよ。男爵君! 私は街一つを犠牲に召喚を成功させる計画なんだ」
「無関係な大勢の民を巻き込んで良心が痛まないのか?」
「私がそんなことを気にするとでも?」
長官のその答えに彼は息をのむも、ある可能性への推測が確信に変わった。
転がった杖を拾おうと長官が手を伸ばすとアーマクスはそれを手の届かぬところまで蹴り飛ばし、口を開いた。
「あなたのやろうとしていることは王国への反逆だ、ゴォンツォ長官! いや、勇者教法王ロール・ルフ・ゴォンツォ!!」
正体を看破されたゴォンツォは笑顔から一転、眉をひそめると声を低くして言った。
「誰の差し金だ? ジーズルー卿か? それとも辺境伯の入れ知恵か? お前の義父、ゴルドニス・フォン・ウルムガルトは古くからの王の重臣だ、それにしてもゴルドのやつの目も濁ったな、貴様のような薄汚い平民出身のどこの雑草かもしれない成り上がりに娘をくれてやったんだからな」
口周りを唾でべとべとにし、ドブの底を手で掬ったかのようなドロドロとした目をして罵詈雑言を吐き出すそれをゴミでも見るような目で見降ろすと、アーマクスは右手で腰の剣に触れた。
その刹那、二人の間になにか微弱な風のようなものが吹きぬけたかのように思えた。
「さすがはウルムガルト領の元戦士長。あれほどの抜剣を見せてくれるとはねえ。おかげで自慢の髭が数本持っていかれてしまったよ」
ゴォンツォは蓄えた顎鬚を撫でながら呑気に言った。
一方のアーマクスは無表情ながらも老人に似つかわしくないゴォンツォの動きに肝を冷やしていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
先ほどの一瞬に何が起こったのかを解説すると、先に仕掛けたのはゴォンツォでどのような魔法が放たれる手筈だったのかは定かではないが、なんの詠唱の起こりもなく魔法を発動、そして空間の魔力の歪みを感じ取ったアーマクスが抜剣し強制的に術を破壊、そのままの一閃で首を断ち切ろうとするもゴォンツォの防御術式の方が早く、その結果髭を何本か切るにとどまったのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「まったく、そこらの村人の家の洗面台に置いてあるカミソリの方がよく切れるんじゃあないか? 腕が落ちたんじゃないかね? 王国暗殺部隊長殿。そういえばお宅にはうちのかわいい教徒たちがよーくお世話になっていたな」
ゴォンツォの声にはドロリとした健康に悪そうな脂にも似た恨み憎しみの類の感情が色濃く乗せられていた。
「俺が殺した人間のどいつがお前の教徒だったなんて俺は知らない。そんなことに興味はなかったからな。いちいち覚えてなんかいない。それと落ちたのはお前の腕じゃないのか?」
彼はゴォンツォを指さして言った。
「フン、何を言ってやがる」
ゴォンツォは興味もなさそうに彼の発言を鼻で笑った。
「腕がだ」
「なあに、腕ならここにちゃんとついているぞ」
ゴォンツォは腕を体の正面に持って来ると、馬鹿にするようにアーマクスの前でひらひらと振り、見せつけようとしたが、右腕の肘から先が血も流すことなくなくなっていた。
感想、その他誤字脱字等ありましたら是非、コメントお願いします。今後の執筆のやる気につながります。