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神さまと繋がった  作者: たつのオトシゴ
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 学校を出た幽生は病院には向かわず、往来が激しい駅周辺の街中に来ていた。

 お見舞いに遅れることは仄に伝えてある。理由は聞かれなかったが、「でも、早く来てよね……」と以前の仄とは違い、素直に寂しさを口にした。

 幽生が死に掛けてから妹の様子がどことなく変わった。素っ気ない態度が増えたとか、悪い意味では無い。むしろ以前より甘えてくるような素振りが増えている。何か、幽生の知らない心境の変化があったのかもしれない。

 ふと足を止め、雑踏の中に立ち並ぶビルを仰ぎ見る。頭上に光る大型ビジョンを見遣ると夕方のニュース番組でアイドルグループの“ラプラス”のメンバー、樫之幽花が特集されている。どうやら彼女の復帰会見が放送されているらしく、

『樫之さん。怪我はもう完治したのですか?』

 という記者の質問に対して、

『はい。ですので来月のライブには間に合う予定です』と、樫之幽花は無表情に淡々と答えた。

 不思議なことに、というよりも不気味なことに彼女を陥れた写真などの事実や記憶が世界中から跡形もなく綺麗に消えていた。しかも、樫之幽花は怪我で入院していたことにされている。

 全ては“神さま”の力によって事実と記憶が書き換えられたに違いない。しかし、どうしてか幽生だけは影響を受けずに覚えている。

「……」まあいいや、と彼は疑問を棚上げにする。

 樫之幽花は無事に願いを叶えたのだ。そう思うと幽かな安堵を覚える。

『樫之さん。復帰するにあたってファンの皆さんに意気込みを聞かせて頂けますか?』

『……ご心配をお掛けしました。来月のライブではファンの皆さんと早くお会いしたいです。“みんな”のためにも精一杯頑張ります』

 ――ありがとう。と、彼女は幽かな微笑みを見せた。

「ありがとう、か……」

 その言葉を反芻する。

「“みんな”に聞こえているといいな」と、大型ビジョンに映る樫之幽花に向けて呟いた。

 すると、会見映像から別のニュースに内容が変わった。偶然にも、都市伝説と化している“神さま”の話題(ニュース)が上がる。都市伝説の専門家などをコメンテーターに迎え、解説が流れる。

 大型ビジョンから視線を下ろし、ポケットから携帯電話を取り出すと迷わず110番を押す。耳に添え、プルルルの発信音に意識を傾ける。しばらくすると、

『私は“神さま”です。ピーという発信音の後に――』

「あ、その前置きいりません」と、幽生は無機質な声を遮った。

『…………』

 あれ? 静かになった……。と、眉をひそめる。すると、

『……最後まで言わせてよ』

 少し不貞腐れた“神さま”の声が聞こえてきた。

「“神さま”……僕です。遊佐幽生です」

『どうしたんだい? わざわざ、初めて私に電話してきた場所から掛けてくるなんて』

 どうして場所が分かるのか、という疑問は呑み込む。

「“神さま”に聞きたいことがあって電話したんです」

『始祖竜を倒した君の質問なら答えてあげるよ。でも、その前に私から訊ねてもいいかな?』

 唐突に“神さま”は言ってきた。

「……何ですか?」と、少し身構える幽生。

『“諦めなければ願いは必ず叶う”って言葉を君はどう思っている?』

 思い掛けない問いに幽生は顔を顰め、携帯電話を握る手に力を込めると無遠慮に言い放つ。

「……大嫌いです」

『あ、そう』

 “神さま”の淡白な反応が聞こえてきた。すると、幽生は「でも……」と言葉を続ける。

「でも……“諦めなかった人間にしか願いは叶えられない”というなら、少しだけ好きになれるかも……」

 電話越しに笑う“神さま”の声が聞こえてきた。

『そんな君にチャンスだ』

「チャンス……?」と、怪訝な顔を浮かべる幽生。

『私が集めているのは“槍”だけではない。封印を解くのに必要な“鍵”は他にもある』

「……それは、つまり」

 ――まだ戦いは終わっていない? 仄ちゃんを救うチャンスがまだ残されている?

 言葉を詰まらせていると“神さま”は言う。

『諦めなければチャンスは必ず訪れる。それが人生だ』

「……」

『そして、私は“神さま”です。どんな願いも私が叶えてあげよう。異世界で再び黒竜(ドラゴン)となり、今度こそハッピーエンドを掴もうじゃないか』

「……」

『さあ、君はどうしたい? 愛する妹を諦めるか? それとも……』

 仄を救えるかもしれないという誘惑(きぼう)が幽生の頬に汗を滴らせる。

「僕は……」

 病に侵され、青白い肌をした仄の姿が脳裏に浮かぶ。いつか仄が死んでしまう恐怖に胸がギュッと苦しくなる。ゴクリと唾を飲み、小さな溜息を吐く。

 そして、幽生は答えを出す。

「僕は……行きません」

『……妹を、救いたくはないのか?』彼の言葉に“神さま”は幽かに狼狽する。

「救いたい……。だけど、僕の命は僕だけの命じゃないんです。これ以上、もう仄ちゃんを悲しませたくはないから……。だから、“神さま”の力に頼るわけにはいかない」

『願いを……諦めるのか?』

「いえ、諦めるつもりはありません」

『では、どうするつもりかな?』

 静かに息を吐き、ビルに囲まれた晩霞の空を仰ぐ。そして幽生は決意を口にする。

「新しい願いを見つけます」

『新しい……願い?』と、怪訝な声音を漏らした“神さま”。

「願いは諦めるか、叶えるかの二択じゃありません。だから……新しい願いを見つける、という選択をします。僕なりに仄ちゃんを助ける方法を探してみます。なので、“神さま”のお誘いは受けられません」

 ……半年で僕に何ができるのかは分からない。けれど、僕が手を握って傍にいることで仄ちゃんを幸せにできるなら、まずはその願いを叶えてあげよう。まだ時間は半年もある。半年もあれば仄ちゃんの願いを幾つも叶えてあげられる。だから僕は仄ちゃんの傍に少しでも長くいることを選ぶ。

『……そうか。残念だね。だけど、私はいつでも電話を待っているよ? 誰かの幸せを犠牲にしてでも叶えたい願いを胸に秘めている限り、君の“神さま”でいてあげる。そのためにも君の胸に竜の力を残しておいてあげるよ』

「……はい」と、“神さま”の力を頼ってしまう未来が訪れないのを切に願って返事をした。

「それで……僕からもひとつだけ聞いてもいいですか?」

『そういう約束だったね。何かな?』

 幽生は最後に、ずっと聞いてみたいと思っていたことを躊躇いがちに投げかける。

「……“神さま”の願いって何ですか?」

 幽生たちを殺し合わせてまで叶えたい願いが“神さま”にはあるに違いない、と彼は考えていた。自分たちが何のために戦わされていたのかを知りたくて電話を掛けたのである。

 すると、電話の奥から不気味な笑いが聞こえてくる。そして“神さま”はご機嫌に答える。

『……いいよ。教えてあげる。“神さま(わたし)”の願いを教えてあげる』

 それは――。


   ×××


 プルルルル――

『私は“神さま”です。ピーという発信音の後に、あなたの願いを入れてください』

 ピー

「…………“神さま”……助けてください」

『…………その願い、私が叶えてあげましょう』

 それぞれの“想い”が交錯する東京のどこか今も誰かが、神さまと繋がった――。

終わり

また、気まぐれに投稿するかもしれません。

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