033
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鞄の準備を終えて放課後の教室を出ていく幽生。すると、廊下で談笑する二人の女子生徒を見つける。雨宮ゐるかの“記憶”で見た桜ヶ丘と石塚だ。
清く正しいお嬢様の印象を与える桜ヶ丘が雨宮を脅し、売春させていた首謀者であるとは誰も思わないだろう。
「買いたい洋服があるんだけど、これから付き合ってくれない?」と、石塚が手を合わせる。
その誘いに対して桜ヶ丘は、
「別に構いませんが、今週はピンチだと言ってなかったかしら?」小首を傾げて言った。
「ママには内緒でパパからお小遣い貰ったから大丈夫!」
誇らしげに人差し指を立てた石塚。その姿を見た桜ヶ丘は仄かに笑って「そうだったの? なら行きましょうか」と了承する。
彼女たちはまるで普段通りで普通だった。いや、それが異常なのだろう、と幽生は思う。脅して体を売らせていた女の子が失踪したにもかかわらず、平然としていられるのは異常である。
「何か私にご用ですか?」
じっと見ていたのを桜ヶ丘に気付かれてしまった。
「いや、何でもない」と、目を逸らした幽生はその場を後にして廊下を歩いていく。
彼の後ろ姿を目で追う石塚はボソリと言う。
「……誰? あんな男子いたかな?」
「どこかで会った気がしますけれど……忘れてしまいました」と、桜ヶ丘が淡白に答える。
「忘れたと言えば、あいつどこ行っちゃったのかなー」
「……ああ、“彼女”ですか? 自殺でもしたのかもしれませんね。フフフッ」
「それは勿体ない。あいつの仕事が無くなったから、お小遣いが減って困っちゃうよー」
「アルバイトでもしてみたらどうです?」
「お嬢様に私の大変さは解らないだろうなー」
彼女たちの談笑を背に幽生は廊下の角を曲がり、階段を降りていく。
誰かが生まれ変わり、誰かが消えて、誰かが願いを叶えても、世界は大して変わらなかった。
どこの世界もあくまで残酷だ――。




