022
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胸を貫き、記憶を流し込んでくる灼熱の双角。それを前足で其々掴むとジュウッと音を立て、焦げた煙を昇らせる。皮肉が焼け焦げていく痛みが幽生を襲う。
流れ込む記憶と痛みが意識を明滅させる。骨折している右前足に力が込めると激痛が走った。
『うがぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
手が、正確には前足が焼ける痛みと骨折による痛みに悲鳴を上げた。その凄絶な痛みを堪え、胸を貫く双角をありったけの膂力でグググと引き抜いていく。
『――!』佐々木も負けまいと頭を突き出すが幽生は双角を掴んだまま後足で腹を蹴り上げた。
一瞬、佐々木の力が緩むと一気に双角を胸から引き抜いた。胸にポッカリと空いた二つの風穴は焼け焦げ、血は流れ出ない。しかし、肺を膨らませると風穴から黒ずんだ血が噴き出す。
灼熱の双角を離さず、ほぼ零距離から炎弾を佐々木に吐き放つと爆炎が頭部を呑み込んだ。
『目がぁっ!! 目がぁぁぁああああああ!!』
首を振って悶え苦しむ佐々木の双角を離すと頭部を火炎に包まれながら中空を落下していく。その双眸は焼き潰れていた。
『目が、目が熱い!! あぁぁがっ!! ヴゥ、前が見えない!!』
花火の残り火のように落ちていく黒竜を俯瞰する幽生は苦痛を滲ませた声で言う。
『佐々木さん……ごめん、なさい。僕には……貴方の帰る道を案内できません……』
『はあ……はあ……遊佐、くん……?』
『僕は僕の大切な家族を守らなくちゃいけないから……。だから……さようなら』
そう言って幽生は胸を膨らませると肺に溜めた魔力を圧縮させる。風穴から血を噴き出すのを意に介さず、鋭牙の隙間からマグマ色の炎を漏らす。
『…………そう、か』全てを悟ったかのように虚しい声を零した佐々木。
巻角の黒竜の口腔からマグマ色の黒炎弾が吐き放たれると佐々木を目掛けて落ちていく。
『……遊佐くんは大切な人の、妹さんの気持ちを見失わないでくれ。……それと、ごめんな』
彼の肢体に黒炎弾が直撃し、爆ぜると巨大な火柱が黒竜を呑み込む。その業火の中で黒い影があっという間に焼失していった。
“ごめんな”その最後の言葉は自分に向けた言葉ではない。と幽生はそんな気がした。
焦土に残る炎を避け、巨翼を羽ばたかせて降り立つと、
『はあ……はあ……はあ……』折れている右前足を庇い、三足を震わせながら立つ。
黒炎を吐いて体力は底を尽きかけ、気を緩めれば意識を失って崩れかねない。内臓と骨を焼かれた痛みと、“想い”を流し込まれた不快感が全身を駆け巡っている。
焦土の地面に夥しく喀血した幽生。地面に突き立てておいた“神槍クイーン”を取りに戻ろうと折れた足を引き摺っていく。すると、朦朧とする視界に黄金の“槍”の前に立ち塞がる黒竜が映る。その黒竜が雨宮ゐるかだと気付いて足を止めた。
『…………ごめん、なさい』伏し目がちに謝った雨宮。
『はあ……はあ…………返す気は、無いんだよね?』呼吸する度に肺が痛むのを堪えて尋ねる。
『……うん。だから……返して欲しかったら……』
ゴクリと喉を鳴らした彼女は幽生の双眸を見て弱々しくも言い放つ。
『返して欲しかったら……わ、私を殺して……みろ。……ごめんなさい』
怖くなって謝るなら言わなければいいのに……。と彼は思った。
しかし、そこには幽生の知る雨宮ゐるかという、か弱い少女はいなかった――。




