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神さまと繋がった  作者: たつのオトシゴ
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015


   015


 薄霧が残る風光明媚な神樹の森に似つかわしくない幾つもの爆音が鳴り響いていた。

 母樹が聳える開けた空間から離れ、無数の巨樹が刺さっている森の中で幽生は吼える。

『妹にキスして貰うまで、死ねるかぁぁぁぁああああああああ!!』

 黒々した胸を膨らませ、鋭牙から漏れるほど炎を肺に溜めると一気に吐き放つ。一度の息吹(ブレス)で前方の一帯を火の海に変え、花々や樹々と共にエルフの一人を焼き尽くし、灰燼に帰した。

 炎を吐き尽くして息を吸い込むと、緩慢に息を吐く。その吐息が焦げた花弁と黒い灰燼と化した死体を舞い上げる。パチパチと樹皮の爆ぜる音が鳴り、赤白い炎の光が神樹の森を照らす。すると突然に横殴りの突風が吹き荒れ、樹皮が爆ぜる音も燃え上がる炎も一気に吹き飛ばす。

『!』体勢を下げ、飛ばされまいと踏ん張る幽生。

 突風の正体は左方から黒竜の脇を狙って突如現れる。樹々の奥から(りゅう)を思わせる荒々しい竜巻が激しい風音を立てて襲い迫る。躱す間も無く直撃すると竜巻の奥にエルフの男の姿を捉えた。魔法の竜巻に呑み込まれた幽生は神樹の巨大な幹に背中から乱暴に叩き付けられる。

『――ウグッ!』爆音にも似た衝撃音を立てると竜巻は消え、黒竜は地面に落ちる。

 ギギギという音と共に百メートルを超える背の神樹が折れると緩慢に傾き始める。そのまま倒れると地鳴を轟かせて砂塵と焦げた花弁を舞い上げた。

「……倒したか?」と、竜巻を放ったエルフの男は呟いた。

 離れていた彼の元まで砂塵が押し寄せ、まだ残っている霧と混ざって視界を覆う。あまりの砂塵に目を細めて注意を緩めた。その時、エルフの眼前に黒竜が砂塵を裂いて飛び出してきた。

「え……」エルフの男は細めていた目を剥いた。

 黒々した翼を羽ばたかせて現れた幽生はエルフに魔法を構える隙も与えず、目一杯に顎を開く。そして優美な肢体をバグリと一気に噛み殺す。襲い掛かった勢いそのままに砂塵を飛び出し、花々を抉りながら地面を滑ると、ようやくして止まった。すると、嘔気が幽生を襲う。

『グッ……ガ…………ガホッ、ガホッ……グルルルッ』

 形を残したエルフの赤黒い血肉を吐き出す同時に、己の血を喀血する。

『はあ……はあ…………これで、あと二人……だ』

 左右の薄霧の中からエルフの姉弟が現れ、口から血を滴らせる黒竜を見て息を詰まらせる。

 森の奥から幾つもの爆音や轟音が鳴り響き、爆炎や魔法の光が薄霧の奥に淡く輝いていた。

「……よくも!」奥歯を食い縛り、怒りの形相を向けてくるリンと呼ばれていたエルフの青年。

「どうして、私たちの森を……みんなを……。許せない……。これ以上、誰も死なせない!」

 エルフの女が叫ぶと、その周囲の地面を割って現れたのは無数の大きな樹根。始祖竜の力と似ている……。と、思っていると蠢く樹根が襲い掛かってきた。

『くっ――!』咄嗟に飛び上がって躱すと、地面に根が突き刺さる。

 始祖竜ほどでは無いにしても十分過ぎる威力を危惧し、彼女の反対にいるリンという青年を捉える。彼に狙いを定めた幽生は羽ばたくと、一気に距離を詰める。肺を膨らませると透かさず炎弾を放つ。しかし、リンは素早く横に跳んで往なすと炎弾が地面を激しく吹き飛ばした。

 重心を傾けて翼を広げると地上すれすれを滑空し旋回する。樹々を縫って森を翔けると、逃げるリンの背を一気に追撃する。鋭牙の隙間から炎を零し、残り数メートルまで迫ったその時、

「リンには触れさせない!」と、エルフの女の声と共に、蛇を模した形状に変化させた樹根が雨のように降り注いできた。追撃を止め、身を翻して躱した幽生は付近の幹に鉤爪を突き立て、樹皮を砕くほどの握力を込めて留まる。そのままエルフの女を俯瞰して睨み合う。

『まるで……神話に出てくるメデューサだな』

 蛇を模す無数の樹根に囲まれた彼女は自由自在にそれを操り、再び幽生を襲う。幹を蹴って翼を羽ばたかせると、木牙(もくが)を露わに襲い掛かってくる蛇を躱す。樹根は幹に激突し破砕音を鳴らす。透かさず新たな樹根がエルフの女の元から怒涛の勢いで次々と伸びてくる。

 翔け出した幽生は樹根の蛇から逃げ出す。複雑に樹々の間を縫って飛んで見たものの(しな)う蛇たちは執拗に追い掛けてくる。黒竜は中空で体を反転させ、樹根の蛇が襲い迫る後方に体を向けると肺を膨らませ炎弾を吐き放つ。蛇に直撃して爆ぜ、爆音と共に炎と黒煙が中空に広がる。

 しかし、爆砕した樹根の焦げた断面が蛇を模す形状に再生すると黒煙の中から飛び出す。

『くそっ、きりが無い!』翼を羽ばたかせて襲い来る蛇を上に飛んで躱した。

 躱した樹根の蛇が追撃してくる、とばかり思っていた幽生。だが、全ての蛇はそのまま幹に激突して破砕した。

『……?』胸の片隅に違和感を覚えながら翔け出す。

 樹々の奥にエルフの女を捉えると、彼女も幽生を視認するなり地面から樹根を生やす。蛇に模した無数の樹根が三度襲い迫る。幹を盾にしながら躱し続け、彼女の周囲を旋回して隙を覗う。蛇が迫る後方とエルフの女にばかり注意を傾け過ぎていると、前方の幹の陰から別の樹根の蛇が現れた。挟撃され、咄嗟に前方の蛇に炎弾を放つと爆炎と黒煙が再び中空に広がる。いくら破壊しても再生すると解っていた幽生は身を翻すと、眼前の黒煙から飛び出してきた焦げた樹根の蛇を間一髪で躱す。すると、前後から襲い掛かってきた樹根の蛇がぶつかり合い、破砕すると自滅した。

『……もしかして』ふと、幽生は気付いた。

 隙と呼べるものではないが、神樹の根を自在に操る魔法の欠点を見つけた彼は一か八か仕掛ける。翼を羽ばたかせ黒煙を飛び出すと、幾つも蠢く樹根の中央に立つエルフの女に突進する。

 迫り来る黒竜に蛇を模した三本の樹根で迎撃。対して肺を膨らませると炎弾を吐き放つ。蛇にではなく、その根元にいるエルフの女を狙って。しかし、余りある樹根を重ねて壁を編むと炎弾を容易に防ぐ。壁の一層が爆発で吹き飛び、爆煙が彼女を呑み込む。

『根を壁にすると思ったよ。だけど、壁で防いでいる間は敵の姿は捉えられないだろ!』

 三本の蛇を躱し、距離を喰らうと共に炎弾を吐き続けた。……思った通り、蛇が襲って来ない。目で敵を捉えられなければ根を襲わせるのは不可能なんだ。と、幽生は考えた。

 ――次の一発で壁が壊れる。新たな壁を張られる前に飛び込んで、確実に噛み殺す!

 すぐそこまで迫った幽生は肺を膨らませ、炎弾を吐き放った。吸い込まれるように壁を直撃すると、爆発による衝撃が壁を吹き飛ばす。木片が舞い散る黒煙の中にエルフの女を見つける。

『これで――』と、顎を目一杯に開いて鋭牙を露わに眼前まで襲い迫った黒竜。

 ふと、幽生は違和感を覚えた。避ける様子も見せず、悠々と立ち尽くすエルフの女に。

 嫌な予感が全身を駆け抜けた時、視界に一閃が走る。すると、右翼が光の矢に貫かれた。

『なっ――!』幽生が体勢を崩した隙に地面を割って現れた巨大な樹根が横っ腹を薙ぎ払う。

 焦げた花々を散らしながら黒竜の巨体が転がる。数回転して止まった体を痛みに堪えながら起こす。右翼からは鮮血が滴り、脇腹は疼く。

「殺された仲間の仇だ!」と見失っていたエルフの青年、リンは樹枝の上から俯瞰してきた。

 彼を仰ぎ見るとその左手には光で作られた魔法の弓が握られている。

『あの弓矢で僕の翼を……』鋭牙を食い縛り、唾棄するように睨みつける幽生。

 対峙するエルフの姉弟を交互に見遣ると思考を巡らせる。行動を制圧してくる神樹の根(メデューサ)と、隙を確実に射てくる光の矢。光速ではないが、超高速で放たれる光の矢を躱しながら姉を仕留めるのは困難。となれば――

『お前から殺す!』弟のリンを目掛けて翔け出した。

 エルフ達の素早さを鑑みると普通に炎弾を放っても撃ち抜かれるか躱されるに違いない。

「リンには触れさせない、って言ったでしょ!」叫声が横殴りに飛んで来た。

 翼を羽ばたかせ、リンが立つ高い樹枝まで上昇していると斜め下から樹根の蛇が襲い掛かってきた。身を翻してそれを躱すと、光の矢をつがえた弓を引き絞るエルフの青年に一気に迫る。

 反応しろ! 全力で躱せ! そして噛み殺せ! と、胸中で叫ぶ幽生。

 フッ、と音も無く光の矢を射た。目で捉え、体を右に傾けて反応することまでは出来た。しかし、超高速で放たれた光の矢を黒竜の巨体では避け切れず、左肩を貫かれた。

『――ッ!』体勢を崩し、エルフの足下を翔け抜ける。

 リンを一瞥すると彼もまた悠々と幽生を見遣り、視線が交差した。悔しさと痛みに黒竜の顔を歪める。すると、再び光の矢をつがえた弓を向けて追撃の構えを見せた。咄嗟に急降下し、エルフの視界から隠れると神樹の陰に着地する。

『はあ……はあ…………くそっ』抉られた左肩を鋭い痛みが襲う。

 あの光の矢を躱せない限り絶望的であると悟った。無謀に飛び出しても光の矢に射抜かれ、樹根の蛇の餌になるだけなのは想像に難くない。

『どうする……どうすれば……。このままでは死ぬ……嫌だ……死ねない……。仄ちゃんは僕が守るんだ。考えろ……考えろ……どうやったら躱せる? 目が追いついても体が追いつかないのに、どうやって……。躱す……躱す……』目を泳がせ、必死に考えを巡らせ続ける。

「もう諦めろ! 今ならまだ人間に戻れるぞ! それとも下劣な黒竜として死にたいのか?」

 リンの言葉が脳裏を駆ける。諦める……ここで? 人間ではなく……黒竜として死ぬ……?

 その時、幽生は双眸を剥いてハッする。

『そうだ……まだあった。僕には炎を吐く以外に使える魔法がある。それを使えば……』

「まだ抵抗するつもりなら容赦しないわよ?」エルフの女は神樹の陰に隠れる彼に言い放った。

 幽かな勝機を見つけた幽生は覚悟を決め、深い息を吐くと、

『僕には……僕には守りたい人がいるんです……。だから僕も容赦は出来ません!』

 そう叫ぶと神樹の陰から飛び出す。

「ふざけないで!」エルフの女は緑眼を睨ませると蛇を模した幾つもの樹根を猛烈に伸ばした。

 炎弾を吐き放って蛇を一斉に爆砕すると、焼け焦げた断面が再生する前に飛び上がる。神樹の樹枝に立ち、光の弓を引き絞るリンに突進する。

「何度やっても同じだよ」と、彼は悠々と言った。

 幽生は彼の性格に気付いている。自分の力に自信と信頼を持っているからこそ、前回は間近まで引き寄せて射抜いてきた。その証拠に、彼は足下を通り過ぎて行った幽生を勝ち誇った表情で悠々と見遣った。今回もギリギリまで引き付けるに違いない。それならば、この一撃を躱せば確実に仕留められる。と、殺意を瞳に籠らせて迫る黒竜。

「次こそは、その頭を射抜く!」光の矢を摘む右手から力が弛緩するのを黒竜の双眸が捉える。

『躱し切れないなら……躱さないまでだ……』幽生は呟いた。

 全神経を研ぎ澄ませると、時が緩慢に流れていく。光の矢から右手が離れた瞬間、幽生は全身から緊張を(ほど)いた。光の矢が黒竜の脳髄を目掛けて放たれると同時に、黒竜の肉体が収縮していく。体躯という的が小さくなり、放たれた一閃は幽生の頭上の空虚な空間を突き貫けた。

「ぇ――」と、リンは素っ頓狂な声を漏らす。

 黒竜の変身を解いて人間に戻ることで光の矢を見事に躱した。

 全神経を集めて反応しても、この巨体では躱し切れない。しかし、躱す一瞬だけ小さな人間に戻れば射線から外れられる。自由に黒竜に変身できる力も“神さま”から貰った魔法だ。

 再び黒竜に変身すると、呆然と立ち尽くすリンを巨大な影で覆う。透かさず振り上げた右前足を一気に落とす。尖鋭な鉤爪で華奢なエルフの肢体に四本の血線を袈裟懸けに走らせた。

「かっ――」翠の衣裳は破け、アルビノの肌から鮮血を噴き出す。

 足を滑らせて後ろに倒れると、鉤爪の斬撃で切り落とされた巨大な樹枝と共に頭から墜落していく。そして地鳴を響かせ、小さな砂塵と花弁を舞い上げる。

 幽生は翼を羽ばたかせて着地し、砂塵と花弁を吹き飛ばすと足元に目を落とす。落ちた樹枝の上で背を反らし、仰向けに絶命しているエルフの青年をじっと見遣る。

「…………ぃ……嫌ぁぁぁあああああああああああああああ!!」

 森に女の悲鳴が響き渡った。その悲鳴に首を振り返らせると、弟を殺されたエルフの女は体を震わせ見開いた双眸を激しく泳がせていた。魔法で操っていた幾つもの樹根は糸が切れたように倒れていく。すると、彼女は一目散に弟の元へ駆け出した。

 黒竜がいることも忘れて無我夢中に近づいてくる。そんなエルフの女を容赦なく尾で薙ぎ払う幽生。横殴りに容易く吹き飛ばされた彼女は神樹の根元に背から激突する。

「……ぅ……がはっ、ごほっ……っ……」夥しい吐血で翠の衣裳を赤黒く染め、悶え呻く。

『……』彼女の元に近付いた幽生は俯瞰し、零れ出る声に耳を傾ける。

「リン…………リンが、死ぬはず……」

 振り絞った力で顔を起こし、遠くに転がる弟の死体を緑の瞳に捉えた。

「……嘘……嘘よ……リン…………返事、してよ……。姉さん、って……呼んでょ……」

『……』持ち上げた右前足を彼女の頭上でピタリと止めて影を落とす。この足を落とすだけで、戦いは終わる。それなのに彼女を殺せずにいた。幽生は懊悩する。

 僕の役目は……エルフの足止めだ。それなら、これ以上は殺す必要なんて……。

 足を止めて殺すべきか迷っていると、臓腑を剥き出す弟の元へエルフの女は地を這って進む。逡巡していると、突然身が竦むほどの轟音が神樹の森を震わせた。

『……なんだ?』音が聞こえてきた方向を振り返る。

 すると、森の奥から突風が吹き抜けて霧が晴れていく。

『音が……止んだ?』騒々しかった森が嘘みたいな静寂に包まれていた。まるで風がすべての喧騒を持ち去ったかのように。

 あちこちで交戦しているはずなのに、ピタリと音が止んでいる。異変に気付いた幽生は浮かせていた足を戻すと地を這うエルフの女を一瞥。右翼膜に穴をあけたまま黒い翼を羽ばたかせ、樹々の隙間から覗けるほど高く聳え立つ母樹を目指して翔け出す。

 縫うように森を翔け、母樹が聳える開けた空間に飛び出した幽生は花々の絨毯を散らしながら着地した。そして彼は大きな双眸を剥き、

『……』目にした光景に言葉を詰まらせた。

 樫之、佐々木、井口、渡の四人が始祖竜と交戦している、はずだった。それなのに、母樹の前には翠玉色の始祖竜だけが巨大な翼を羽ばたかせて悠々と滞空していたのだ。

『そ、んな……まさか、全滅……?』最悪の事態を脳裏に過らせる。

 慌てて長い首を捻ると辺りを見回す。すると、

『遊佐……くん?』佐々木の声が聞こえてきた。咄嗟に振り返ると、開けたこの空間を囲む神樹の根元に倒れ込む黒竜を見つける。しかし、左翼の半分を失った彼の全身は深い傷と血に塗れていた。辛うじて生きている、といった様子だ。

『佐々木さん!』透かさず翔け寄ると、

『すまない…………ダメ、だった……』悔しさを滲ませた声音で謝られた。

『他の三人はどうなって……』

『わから、ない……。自分だけで……精一杯、だった。……みんなが、どうなったかは…………。多分…………殺されて、しまった……。すまない……』

『そう、ですか……』井口も、渡も、あの樫之幽花さえも殺された。その知らせには幽生自身でさえ意外なほど動揺し、悔しさが込み上げてくる。

『そっちは、他の二人は……無事、か?』と己が瀕死でも佐々木は、雨宮ゐるかと新谷の安否を心配した。相変わらずの御人好しに胸中で少しばかり呆れる幽生。

『わかりません。でも、生きていると思います。他のエルフが姿を見せていませんから』

 もし二人が死んでいたらエルフの足止めは失敗し、今頃はエルフが姿を現すはずだ。

『本当にすまない……。君たちは成功したのに、私たちが……失敗してしまった。……くそっ』

 そう口にした黒竜の瞳から涙が滴り落ちた。それを見た幽生は言う。

『いいえ……まだです。まだ失敗していません。まだ、僕がいますから』

『……それは、どういう……』

『諦めなければ願いは必ず叶う。僕はこの言葉が嫌いなんです。それ以上に、その言葉を軽々しく口にする奴が大嫌いです。……でも、言わせて貰います』

 ――諦めてたまるか。

『遊佐……くん?』

『僕が始祖竜(あいつ)を倒して、その心臓から“槍”を引き抜いてみせます。だから……』

 そう言って幽生は振り向き、母樹を背に中空から俯瞰してくる始祖竜を仰ぎ睨む。

『………………頼む……』と、背後から佐々木の縋るように弱々しい声が聞こえてきた。

『勘違いしないで下さい。僕は佐々木さんみたいに御人好しでもなければ、仲間の仇を討ったりする人間じゃありません。ただ、妹の笑顔を見るためだけに行動するシスコンの変態です』

 ――だから、必ず倒します。

 恰好をつけたつもりの幽生は単独で始祖竜と戦う覚悟を決めた。四人がかりでも歯が立たなかった敵に、たった独りで挑めば十中八九殺されるだろう。しかし、それでも穴があいた翼を羽ばたかせて飛び上がると、翠玉色の巨大を目掛けて一気に襲い迫る。


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