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神さまと繋がった  作者: たつのオトシゴ
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012


   012


 白い陽光が差し込む神樹の森には光の粒子と朝霧が漂う。滝のカーテンを(とお)る幽かな朝日に照らされた洞窟には七人の人間たち。そして、洞窟の最奥にある岩の上で動き出す宇宙服。

 首を起こした“神さま”は岩から腰を上げると、

「私は“神さま”です」と、起動音のように第一声を上げ、失せていた後光が煌めき出す。

「しつこいです」樫之は無下に言い放った。

「……私は“神さま”です!」

「分かりました。分かりましたので早急(さっきゅう)に話を進めて頂けますか?」

「フフン」と満足気に準備を始める“神さま”。幽生たちに白い背を向けると諸膝を突いて両手のひらを洞窟の硬い地面に落とす。淡い青光と共に宇宙服の下に魔法陣が走る。すると、音も無く洞窟一杯の巨大な扉が現れる。

「言っておくが、君たちを逃がす魔力はもう残っていない。つまり、これが願いを叶える最後のチャンス。死んでも生き残っても恨みっこ無しだ。まあ、死んだら恨めないけどな」

 笑えない冗談にケラケラと独り笑う“神さま”。

「負ければ願いは叶わずに死ぬ。だが、勝てば願いは叶う。ハッピーエンドを手に入れるためには戦い、始祖竜を倒すしかない。……さあ、覚悟はいいな?」

 ヘルメットの中から七人の人間たちをじっと見回す。

「いつでも大丈夫です。“神さま”」と、幽生が答えると他の六人も頷く。

 瞳に揺るぎ無い覚悟を浮かべる者もいれば、まだ迷いを捨てきれない者や、戦いに脅えている者もいる。それでも七人の瞳には強い“想い”が宿っていた。

 “神さま”には見えていた。その“想い”が魔力となり、彼らの全身から夥しい魔力が溢れているのが。人間達の惜しげもない“想い”に満足した“神さま”は声を弾ませる。

「それじゃあ、行こうか。始祖竜の心臓に刺さっている“神槍クイーン”を持ち帰ってくることを楽しみに待っているよ」

 ギギギッと軋みを上げながら開いた扉。その奥には先が見えないほどの濃霧が一杯に広がっている。彼らは踏み出すと扉を潜り、霧の中に姿を消して行く。

 そして、彼らは最後の戦いに飛び込む――。


   ×××


 ――扉を潜る一時間前。

 空が薄明るくなり始めた頃、洞窟では幽生を含めた七人が円を作って腰を下ろし、顔を合わせていた。さながら円卓会議のように。まずはワイシャツ姿の佐々木真守が開口する。

「始祖竜とエルフ達は私たちの奇襲に備えているはずだ。待ち構えている敵に何の準備も無くただ突貫するのは無謀だと思う」

「何か作戦でもあるんですか?」と、幽生は単刀直入に尋ねた。

「ずっと考えていたけれど、思い付かなかった……」ガックリと首を落とす三十六歳。

「そんな都合良く思い付いていたら苦労しません」そう言って樫之は小さな溜息を吐く。

「だけど、態勢を整えることくらいはできる」と、首を起こした佐々木は内容を話し始める。

「生き残っているのは七人。相手は始祖竜に加え、魔法を使うエルフ達。しかもエルフは一人一人が大砲を備えた兵器みたいな存在だ。雨宮さんが直撃した魔法を思い出せば分かるはず」

 ふと、幽生の脳裏に過る。魔法によって大火傷を負い、悶え苦しんでいた黒竜の姿が。向かいに座る雨宮を一瞥すると、白銀の前髪を垂らして普段通りの伏し目で話を聴いている。

「敵の数も力も未知数、か……」ボソリと呟く幽生。

「私たちの狙いは始祖竜だ。シンプルだけれど、二手に分かれて戦うのが無難だと思う」

 佐々木が提案した作戦に補足するように樫之は言う。

「始祖竜を倒す部隊と、エルフを足止めする部隊の二手、と言うことでしょうか?」

「部隊って言えるほど大した作戦じゃないけれど、そういうことです。どうかな?」

 六人の賛否を求めて彼はぐるりと見回す。

「何も知らない世界で、何もない僕たちにできる精一杯の作戦だと思う」

 賛成の声を上げた幽生と同じように、不服を唱える者は誰も現れなかった。実際、これ以上の作戦らしい作戦を考えるのは不可能だった。何せ、この世界の地理も知識も明るくない状況では不確定要素が溢れていて、作戦の立てようが無い。

「ところで、どうやって部隊を決めます? ゲームみたいに僕たちの能力をパラメータで確認できたら楽だったんですけど」

「そうですね……」と、佐々木は顎に手を当てて考えを巡らせる。

 すると、樫之が手を上げて提案してくる。

「体躯の大きな黒竜に変身できる人が始祖竜と戦うのが良いのではないでしょうか? 沢山いるエルフを相手にしても大きな的になるだけです。それなら素早く動ける人をエルフにぶつけるべきでは? 機動力があっても始祖竜(やつ)には時間稼ぎにしかなりません。大きな肺と口で強大な炎を吐ける体躯の大きい黒竜が始祖竜の相手に相応しいと私は思います」

 少し早計な提案ではないか、と幽生は思った。しかし、捲し立てるような彼女の言葉に幽生以外の五人は違和感を覚えていなかった。かと言って、部隊を分ける他の案を幾ら脳裏に駆け巡らせても、何かしらの不安要素はどうしても残ってしまう。

 多少の不安を抱えながらも幽生も彼女の提案に賛同した。

「そうと決まったら誰が始祖竜と……」佐々木は他の六人を見渡す。

 すると、樫之は指を差し、

「貴方と、貴女、貴方……それと私、樫之幽花の四人が適任だと思います」代名詞を連射した。

 淡々とした彼女の言葉を佐々木が固有名詞に変換する。

「私と、井口さん、(わたり)さん、そして樫之さんの四人ですか?」

「如何でしょうか?」

「「……」」彼女以外の幽生を含む六人は口を噤み、目を伏せた。

 願いを叶えるために化物(ドラゴン)になってまで戦っている彼らから嫌だと言う声は上がらない。腕を震わせる者もいるが、それでも皆の双眸には強い覚悟を覗かせていた。

 始祖竜と戦わなくて済むかもしれない幽生と雨宮を含めた三人も安堵する余裕は皆無である。雨宮はエルフの魔法で死にかけていた。あの繊細な体から放たれた魔法は黒竜の鱗を容易く貫いてくる。そう考えると、エルフを足止めする方がむしろ危険かもしれない。

 相手が始祖竜でもエルフでも等しく死は無情に降り注いでくる。それを誰しもが承知しているからこそ、己の役目を無言で受け入れた。

「……それで、いこう。ここまで来たんだ。死んでも始祖竜から“槍”を奪い取ってやろう」

 佐々木は毅然とした態度で言った。

 何人、何十人いるか分からないエルフたちをたった三人で足止めしなくてはいけない。幽生は隣に座る、三人の内のひとりである新谷という名の少年に目を遣る。

「やらなくちゃ……やらなきゃ……やらないと、僕がやられるんだ……」

 黒い学ラン姿の新谷少年は頬に汗を滴らせ、拳を白くするほど握り締めていた。

 ふと、幽生は思う。始祖竜とは違って人型のエルフ達を殺すのは酷く抵抗があるに違いない。幽生は父親を殺し、雨宮は既にエルフを喰い殺している。彼らのように歪んだ経験をしていない新谷の反応が自然なのだ、と。

 幽生よりも年下であろう彼は中学生を思わせる幼さを残している。その顔は血の気を失い、青ざめていた。

「……やれる?」隣に座る新谷だけに聞こえる声で心配をした幽生。

「…………はい……やれます。おばあちゃんの為だと思えば……必ず」

 杞憂だった。愚問を発した自分が恥ずかしく思え、小さく自嘲の笑いを漏らす。彼もまた何かを背負ってここにいるのだから。

「私は“神さま”です」と、薄ら明るい洞窟にくぐもった声が突然響き渡り、全員の視線が最奥に集まる。そこには洞窟を照らす眩い後光を纏った宇宙服がいた。

「何やら作戦みたいなのを考えたらしいね」と、岩に腰を下ろしたままの宇宙服は言った。

「起きていたんですか?」

「少しだけ手を貸してやろうか?」佐々木の言葉を無視して“神さま”は唐突に提案してきた。

「協力して頂けるのですか!?」と、彼は目を丸くする。

「敵の視界を攪乱するくらいならやってやる。一方的な戦いになっては面白みが無い」

「私たちが容易く殺されるみたいに仰りますね……」無表情に不服そうな声を漏らした樫之。

「事実だろ?」

 “神さま”の皮肉に彼女はぐうの音も出なかった。

「まあ、私に任せておけ。私は“神さま”だからな。一時間後に奇襲を仕掛ける。それまで私は眠って魔力を溜めておく」

 再び項垂れて眠りかけた時、白いヘルメットの顔を起こすと、

「それと、また殴ったら次は怒るからな。小さいのは自分のせいなんだから私に当たるなよ」

 樫之の胸元を指差し、そう言い残した“神さま”は後光を失って項垂れるとピクリとも動かなくなる。

「……」トコトコと足早に近づいた彼女は、無表情に迷わずヘルメットをパコンッと殴った。

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