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神さまと繋がった  作者: たつのオトシゴ
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「魔力を使い過ぎたから眠る」

 唐突にそう言い捨てると洞窟の最奥にある半分埋没した大きな岩に宇宙服が腰を下ろした。すると、後光は消えて電源が切れたみたいに項垂れるとピクリとも動かなくなった。

「……とりあえず殴っておきましょうか」

 そう言って黒いジャージ姿の樫之は“神さま”の前に立ち、拳を振り上げると、

「言っておくが、眠りながら人間を殺すことは容易い。だから無駄な体力を使わずに君も休め。ちゃんと寝ないから色々と大きくならないんだぞ。では、おやすみ」

 ヘルメットがガバッと起きたかと思ったら再び項垂れてしまった。

「…………」口を噤んで白いヘルメットをじっと俯瞰する。

 パコンッと迷わず殴った。しかし、彼女が殺されることは無く、宇宙服は項垂れ続けている。

「これでも“神さま”ですから、僕たちを気遣って和ませようとしたのかも」と、まさか元トップアイドルを宥める日が来るとは考えもしなかった幽生。しかも、それは失敗に終わる。

「絶対に有り得ません。遊佐くん、君も見ていましたよね? 私に雨宮(かのじょ)の下着を故意に渡して来たのですよ? 『ごめん間違えた。君には大きいよね』なんて、当て付けとしか思えません」

 無表情ではあるが奥歯を噛み締める音が幽かに聞こえた幽生は愛想笑いを浮かべる。

「ご、ごめんなさい……」紺の制服に着替えた雨宮は伏し目がちに謝った。

「いや、謝ったら謝ったで失礼なんじゃ……」

「もう気が済みましたから構いませんよ。ところで……えっと……貴女、火傷(きず)の具合はどうなのですか? エルフの魔法が直撃していましたけれど。私たちの中では最も重傷ではなくて?」

 そう言って近付いた樫之は銀髪を垂らして俯く顔を覗き込む。すると、肩を跳ねさせて逃げるように一歩退いた雨宮。

「だ、大丈夫です……。ぁ、ごめんさない……」

「そうですか? それでしたらいいのですけれど……」彼女の不自然な態度に小首を傾げた。

「……?」彼女たちの遣り取りにちくはぐを感じつつも、幽生も腰を屈めて雨宮の顔を覗く。

 すると、脅える素振りを見せたものの、どうしてか彼の時は足を退かなかった。

「……ぁ……あの……」と、雨宮は泳がせる瞳に戸惑いと恐怖を浮かべて狼狽する。

「“神さま”が言っていた通り、大きな火傷がもう治りかけている。これも竜の力なのか……」

 そういえば僕の背中も……。と、背の痛みが既に和らいでいることに幽生はふと気付く。

「も、もう……いいですか?」

「あっ、ごめん」体を起こして幽生が一歩離れると、彼女は小さく息を吐いて緊張が弛緩する。

「でも、よかった。女の子の顔に傷が残らなくて……」と、彼は安堵の息を吐く。

 女の子を傷物にしてはいけないという固定観念にも似た想いを持つ幽生。もし、愛する妹の体に消えない傷がついてしまったら、と想像するだけでゾッとする。傷をつけた加害者がいるなら、その者を太平洋に沈めかねない。

「……その、私……喉が渇いていて……えっと、お水を飲みたいので、失礼します」

 樫之を一瞥し、逃げるように洞窟を出て行った雨宮。

「私って逃げ出すほど怖いのでしょうか? 脅えられることは有りましたけれど……」

「怖いです。樫之さんは自分の妖怪染みた端麗さに自覚が無いんですか?」

 歯に衣着せず幽生は言い放った。

「もしかして私は口説かれているのでしょうか?」彼女は小首を傾げる。

「違いますよ。だけど、雨宮さんが逃げ出したのは怖いから、とは違う……気がします」

「怖がられるのは慣れていますのでお気に為さらず。それと彼女は雨宮という名前だったのですね」そう言うと、雨宮が出て行った洞窟の出口を流し目で見遣る。

 流し目ひとつの挙動にすら艶美さが含有されている樫之幽花がアイドルの頂に立てたのは、その畏怖するほどの美貌が要因として大きいのは明白だ。同時に、人間離れした霊妙で端麗な美貌を幽生のように“怖い”と感じる人間も少なくない。ファンの多くは彼女を信仰、と言うよりは畏敬していると表現するべきだろう。病的に愛されていると言っても過言ではない。

 しかし、樫之の怖さには人外的な不気味さによる怖さは含有されていても、脅え震えて逃げ出す怖さとは差異がある。だとすれば雨宮は何に脅えていたのか、と幽生は気掛かりに思う。

「……君たちは、強いな」不意に声を掛けられた幽生と樫之は首を向ける。

「佐々木さん……?」背広の上着とネクタイを脱ぎ置いてワイシャツ姿の佐々木真守は岩壁に凭れ、片膝を立てて座り込んでいる。その顔からは血の気が失せて、暗澹としていた。

「あの戦いの後なのに普通でいられるなんて……凄いな。三十六歳の私なんかよりも君たちの方がずっと大人に思える……」と酷く心労している佐々木は弱々しく口を開いた。

 幽生は自身の体を見回す素振りを見せると、

「……普通に、見えますか?」幽生は小首を傾げた。

「ああ、見える。戦争みたいなことを体験しても、君たちの目は“願い”だけを見据えて、全く揺らいでいないじゃないか」

「だとしたら、それが異常なんだと思います……。殺し合いをして平然としていられる僕は壊れているに違いない。佐々木さんや他の皆の反応が普通で、僕なんかよりも“人間”です」

「それでも……羨ましいよ。私は戦いを思い出すだけで手の震えが止まらない。家族を取り戻す為だと覚悟していたはずなのに、怖いんだ……ハハ」

 震える手に目を落として自嘲を漏らした彼に幽生は明かす。

「……僕は父親を殺しています。だから……僕の心は壊れているんです」

「え……」佐々木は目を剥いて幽生を仰ぐ。

 隣に立ち、口を噤む樫之は無表情に彼を一瞥した。

「だから、羨ましがらないで下さい。僕は……死んだ方がいい人間ですから。……それだから殺されるのが怖くないのかもしれません」

 ――殺されて当然なのだから。と胸中で呟く。

「……そっか」

 幽生は軽蔑されるのを覚悟していた。しかし、

「そう、だよな……。辛いのは私だけじゃない。脅えている暇なんて無いよな」

 佐々木は蔑むこともせずに深い溜息を吐く。

「ありがとう。少し落ち着いたよ。……でも、死んだ方がいいだなんて言ってはいけないよ?」

「……」相応しくない表現だが、拍子抜けとか肩透かしを食らって言葉を詰まらせた。

 佐々木真守という男は、いわゆる“良い人”なのだと悟った幽生。自己紹介の時も樫之の不躾な態度を寛大に受け止め、緊張と不安で脅えていた雨宮を気遣い、皆を先導してきた。そんな尊い優しさを持っていながら何があって戦うことを選んだのかは知る由もない。

「ところで、遊佐くん?」隣で終始口を噤んでいた樫之が呼び掛けてきた。

「何ですか?」と軽い返事と共に振り向く。

「君は殺人という体験をしているから、殺し合いに動揺しないとしましょう。だとしたら、どうして私は殺し合いの後も平然としているのですか?」と、艶美な瞳でじっと訴え掛けてくる。

「……え、っと……」

 恐れすら感じる彼女の美貌を突き付けられ、酷く困る質問を投げられた幽生は咄嗟に口を滑らせてしまう。

「……性格が悪い、のかもしれませんね?」

「……」

「……ぁ」


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