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「どれも合ってる気はする」
「なるほど?」
「昨日、めちゃくちゃ高くジャンプできたじゃん? あれ、魔力がどうってんじゃなくて、脚が強くなったおかげなんだよな。筋肉とか骨が強くなってるイメージ。空中に留まるのは流石に魔力のおかげだけど」
「変わったのは目だけじゃない、と。身体全体が進化してるのかな」
「そんな感じ」
「でも、僕はこの1ヵ月その変化に気づかなかったし、スーパーマンになるのはこの洞穴とその『向こう』でだけなんだよね?」
「そ。ここを離れると分かんなくなるんだよ、どうやってその状態に持って行くか」
「その感覚を共有できれば、もっと分かることがありそうなんだけど……」
「晃って耳動かせるか?」
「耳? あー動かせる人いるよね、僕無理だ」
「たぶんそんな感じ。ここに来ると、『耳ってこうやって動かすんだよなー』って感覚が湧いてくるんだけど、離れるといっそ分かんなくなるんだよ。『動かせるはずなんだけど、どこにどうチカラを込めればいいんだ?』って」
「なんか分かるような分からないような……」
「今のところは漏れ出てるだけだけど、漏れ出てるってことは、なるようになるだろ」
「そんなもんかなぁ」
(僕らの身体には重力とか目に見えないチカラが常に働いてて、身体はそれを押し返しているらしい。それが魔力についても同じことが起きているとすれば。ここは言わば無重力に近い状態で、普段身体の内側に押し込められてる魔力が溢れ出す……とか?)
「いったん置いとこうぜ。まずは、晃が変わってからだ」
「んー…」
「それでもまだこだわりたいか?」
「いやさ、『なんで魔法が使えたか』ってのが分かれば、心配が薄まるんだよ。急にできることがあるなら、急にできなくなったことがあってもおかしくないじゃん」
「心配? 何か不自由したり?」
「不自由するだけならいいんだけど。これは、周が無事だから『そういう可能性もあったね』っていう話になるけど、例えば『向こう』が呼吸できない世界だったら。呼吸するのにも魔力が必要だったら。僕らは呼吸が急にできなくなっちゃうよね。――誰にも知られず、死んじゃうよね」