表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暗殺者より愛をこめて  作者: カツ丼王
第五章 暗殺者より愛をこめて
23/29

22.作戦開始

 要塞都市ソサエティに壁と結界が出現したのは、今から約二十年ほど前のこと。

 それ以前は美しい夜空が見えると有名で、仁は幼いころ母から聞かされていた。


「今は見えないけれど、ここから見えた夜空は本当にきれいなもんだったのよ」

「へえー、そうなんだ。お母さんも見たの」

「そうよ。お父さんと一緒に見に行ってね、いつかここに住んでみたいって話したの」


 仁の父は、彼が生まれてすぐに事故で亡くなった。

 そのため記憶どころか声も覚えておらず、母から聞く話だけが父親の姿であった。


「きれいな夜空を見ながら、プロポーズされたの。ロマンチックでしょう?」

「そうなんだ。雰囲気にやられたんだ、父さんは」

「なんてことを言うのかしら?」

「それでお母さんは何て言われ……ううん、何て言わせたの?」

「この子ったら、私が脅迫したとでも思ってるの?」


 頬をつねられた後、母の香織は恥ずかしそうに父親の言葉を述べた。


「母さんの目を見て『この夜空より、キミの方がずっと綺麗だ』って言ったの」

「ふーん、それで結婚しようって流れになったのかー」


 自分の誕生にかかわるルーツを知り、ふむふむと幼い彼は頷く。

 そして無駄に賢しかった彼は、余計な言葉を添えた。


「父さんは、眼科に行くべきだったね」


 その日、仁は夕食抜きを言い渡された。


**** 

 

 仁が要塞都市ソサエティへと潜入してから、三日が経過していた。

 彼はエリザの協力によって準備を進め、同時に情報部の動向も窺っていた。


「パメラを天界へ強制送還することが決まったみたい。転送施設に移送されるわ」

「その設備はどこにあるんだ?」


 作戦に移る前、二人は拠点のホテルで情報部の動きを推測した。


「今あの子を幽閉している場所から、都市を北東に向かったところよ」

「つまりアイツを載せた護送車がメイン道路を通るってことか」


 テーブルに広げた地図を見ながら、救出作戦の詳細を練る。


「狙撃をかますなら、やっぱりこのビルが適してるな」

「あとはこの建物も良いかしら? 良好なのは二箇所ね」


 地図上で赤く記された部分を指さし、強襲をかけるのに絶好の位置を探る。


「あと例の装置はここにあるのか?」


 仁は狙撃位置のほか、地図に示されている四つの黒丸について問う。


「ええ。これは以前から秘密警察でも探っていたから、まず間違いないわ」

「じゃあここへも忍び込まなきゃな。脱出の時に必要になる」

「では後は手筈通りに。装備は私が持ち込んだ物も使いなさい」

「サンキュー。働きに免じて、第二婦人にしてやっても良いぞ?」

「玉を磨り潰すわよ?」

「冗談に聞こえないから怖い」


 そんなやり取りを終え、彼らは作戦行動を開始した。


****


 作戦決行の三十分前。


 仁は事前の策の通り、メイン道路沿いのビルの屋上へとやって来た。

 彼は以前訪れたフリーマーケット、そこで新たに購入した警備員の制服を着用していた。


 下見済みであるが警戒しつつ、大きな広告看板の下へと陣取る。

 抱えていたドラッグバッグから、ゴツイ銃身を持つH&K社製PSG1スナイパーライフルが顔を覗かせる。


 発射体勢は最も安定する伏射を選択し、ライフルをセッティングした。

 八キログラムという重量に頬当て、照準器までが完備され、すでに零点規正も行われている。

 次いで仁はライフルの後方に、魔法陣らしき物が描かれた布を広げた。


「青髪巨乳のエリザさんには、頭が上がりませんねえ」


 時間を合わせた腕時計を見ると、まもなく予定の時刻となる。


「あとはただ待つのみだな」


 いつでも射撃できるよう伏射状態に入り、スコープにメイン通りを映し出す。

 十分後。信号が赤から青に変わったところで、レンズに厳つい車両が映った。

 前後を黒塗りのセダンが挟んでおり、その無骨な見てくれは強襲用に備えた装甲車に近い。

 秘密情報部が手を回した、パメラ護送用の車両だとすぐに分かった。


 全身に緊張が走り、人差し指をトリガーに掛ける。

 視線の先、一団は時速約三十キロを維持したまま、ゆっくりと道路を北上する。

 仁は十字架状のレティクルに、前方を走るセダンを映した。


「さあ、いつでも来い!」


 気合の入ったセリフと共に、平穏な街中に銃撃が巻き起こった。


 被弾したのは彼が狙いを付けたセダンでなく、装甲車の方だった。

 しかもフルオート射撃が敢行されたのか、分厚いボディと銃弾が激しい金属音を奏でる。

 この銃撃は別の位置についたエリザによるもので、作戦通りのものだった。


 数秒間の凶撃が止み、護送車と両側のセダンが急停止する。

 護送車からは誰も出てこなかったが、セダンからは武装した複数の部員が躍り出た。


「――居た!」


 部員達の中には、幹部であるザフキエルの姿もあった。

 仁は素早く照準を彼女に向け、肺から息をゆっくりと吐きだす。

 三割程度の空気を出したところで呼吸を止め、人差し指へと全神経を集中させる。


(まだだ……まだ。こちらに早く、横顔を見せろ!)


 車両のかげに隠れるザフキエルは、逼迫した顔で狙撃方向を見据える。

 そして次の瞬間、不安げな面持ちで護送車へと視線を向けた。


(今だ!)


 仁はガク撃ちを避けるため、絞るようにトリガーを引く。

 ハンマーで鉄を打ったような音が響き、弾丸が虚空を駆け抜ける。

 放たれた7.62mm×NATO弾は、見事ザフキエルの死角である左側面を撃ち抜いた。


「上手くいった!」


 伏射から復帰すると、背後に備えた魔法陣が光り始める。

 光の中から姿を現したのは、先ほど狙撃されたザフキエルだった。


「ようこそ、エセ天使殿」

「――君は!?」


 事態を飲み込めない彼女に対し、仁は容赦のない蹴りを食らわせた。

 彼女の小柄な体は面白いように飛び、屋上のドアへと叩きつけられた。

 彼は上着から取り出した特殊錠を、苦悶する彼女の手首へと嵌める。


「アンタには人質になってもらう。パメラの引き出すための餌にな」

「な、何を……」


 ライフル一式を片した彼は、無力化した彼女をひったてて非常階段を駆け降りる。

 ビルの側面に停めておいた自動車。その助手席へと彼女を突っ込む。


「……転移弾を使ったのか。一体どこの連中と手を組んだ?」

「秘密だ。それと今の弾丸だがな、あれはパメラから貰ったものだぞ」


 以前貰っていた転移弾だが、仁はエリザに頼んでライフル用に加工を施していた。

 特殊錠によって力を封じられたザフキエルは、痛みを堪えるようにして口を開く。


「何が狙いだ?」

「一言では難しい。強いて言うなら、このペンダントを渡しに来ただけだよ」


 車を走らせながら、パメラから借りた銀のペンダントを見せる。


「何だ? 贈り物でもしに来たというのか?」

「ふーん、そういう反応か」


 揶揄するようなザフキエルだが、この品については知らないらしい。

 パメラの持つ銀のペンダントは、どうやら彼女からのプレゼントではないらしい。


 仁が確信する一方で、智将ザフキエルもやり取りの意味に気付く。


「貴様……今、何を確かめた?」

「携帯をよこせ。話はそこからだ」


 仁はザフキエルから携帯端末を取り上げ、テキトーに履歴の一番上を呼び出した。


『ピコです!! ザフキエル様、今どちらに!?」

「……!?」


 予想外の人物が飛び出し、仁はわずかに動揺を見せる。

 部内での関係を考えれば、ラグエルの部下が出てくるとは思わなかったからだ。

 しばらく考えた後、マイクを手で塞いでザフキエルに指示を出す。


「アンタの状況を正確に伝えろ。それ以外は好きにしゃべって良い」

「……分かった」


 ザフキエルは頷き、仁は携帯を向けた。


「ピコ、ザフキエルだ。私はいま紅山仁に捕えられている」

『!? 彼は今どこです!?」

「すぐ隣に居る。電話出来たのは彼からの指示で、私は人質というわけだ。彼は情報分析官である君を、今後の交渉役に指名したいそうだ」


 そう言ってザフキエルは、意味深な視線をこちらに返した。

 今の発言を考えるに、ザフキエルはピコを窓口にしたがっている。

 情報部内のパワーゲームであるが、どうやら予想以上に複雑化しているようだ。


 仁は携帯を戻し、今度は自ら電話に出た。


「愛しの仁くんだ。相変わらず貧乳か?」

『何が狙い? ザフキエル様をどうするつもり?』

「人質交換といこう。そちらにはパメラを用意してもらいたい」

『パメラを? ……それで方法は?』

「焦るなよ。次は指定した公衆電話に連絡をつける。次もお前が出ろ」


 連絡先を告げ、手早く電話を切る。

 付け回されてはたまらないため、窓から端末を投げ捨てた。


「アンタ、ピコと仲良しになったのか? もしかしてパメラを一緒に嵌めたのか?」

「まさか。手塩にかけた娘を守るため、私も必死ということだ」

「……」


 ハンドルを捌きながら思考を進め、次の質問を投げる。


「アンタを餌にすればパメラを引き出せる。俺のこの読みに間違いはないか?」

「……謙遜しなければ、情報部は私を取り戻そうと動くはずだ。なにせ生きる伝説なんて呼ばれているからな。私は意外と人気者なのだよ」

「それは何よりだ」


 これで準備は整った。いまの所は順調である。


 手応えを掴んでいると、助手席のザフキエルが思いがけないことを口走る。

「協力……しようじゃないか。君もパメラを助けたいのだろう?」


 まさかの提案に少しばかり驚く。

 パメラはザフキエルに親愛の情を持っていたようだが、どうもそれは一方通行のものではなかったらしい。


「アンタ本当にパメラが大事みたいだな。演技なら大したもんだ」

「演技ではない! パメラのために私を使うべきだ。君なら分かるだろう?」

「それはそれは……なら手を貸してもらおうか」


 ザフキエルの必死の申し出であるが、仁からすれば棚から牡丹餅と言える。

 協力を取り付けるための手間が省けるというもの。


「人質交換をやるから、アンタには目になってもらいたい。頼みはそれだけだ」

「……君は一体何をするつもりなんだ?」

「簡単さ。一度やったことを、もう一度やるだけだ」


 彼はそう言って、規則正しい要塞都市の空を見る。


 冬の恒星へと挑む、紅山仁の大博打が静かに始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ