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暗殺者より愛をこめて  作者: カツ丼王
第四章 暗殺者の欺罔
19/29

18.工作開始

※昇華型熱転写プリンタ

 インクリボンに塗布された昇華性染料インクを、熱した印字ヘッドによって専用の

 コート紙に転写する。熱転写プリンターの一種ではあるが、一般には「昇華型プリンター」と

 呼ばれる。(wikipediaより引用)

 

 詳しい説明はwikiに譲りますが、微細な印刷が可能な機種だと考えてもらえばよいです。

 他の道具も併せてどうして必要なのかは、後でわかります。


 真冬の十二月。本格的な冷気が浸透しつつある頃合い。


 肌に刺さる冷たさを感じて、仁は微睡んだ意識から覚醒した。

 時計はすでに十一時近くで、普段よりも三時間は遅い目覚めだった。


 とあるマンションの一室、生活感のない色あせた空間に彼は居た。

 まともな家具は備えておらず、あるのは冷蔵庫とベッド、昨夜買い込んだ雑品の山だけだ。

 ここは悪魔側の諜報員エリザ、彼女のセーフハウスである。

 すでに家主である彼女は部屋を出ているらしく、昨日の話し合いの通りだと仁は思った。


「あなたとは、ひとまず協力関係を結んであげるわ」


 セーフハウスにたどり着くや否や、二人は今後のことを話し合った。


「でも過度な支援は期待しないことね。私はあくまでもパメラを引き抜き、秘密情報部を弱体化させることが目的なの。あなたはおまけよ」


 淡々と彼女は忠告する。

 パメラを裁く査問会はソサエティで行われるらしいが、残念なことに仁の席は用意されていない。

 エリザも切符を融通させる気はないと言う。


「アンタは都市に潜入する手段があるのか?」

「ええ。でもあいにく一人分ね。あなたの分は他で用意しなければならないわ」

「マジかよ。心が狭いな、巨乳の癖に」

「ぶち殺すわよ?」


 仁はげんなりとした顔を浮かべ、手詰まりな状況に嘆息した。


「私もやることがあるけど、手伝いぐらいはしてあげる。とはいえ一週間以内に用意立てしないと、ここに置いていくからね」

「厳しいご意見ありがとう。とんでもないぜ、これは」


 というやり取りがあったため、仁は頭を捻ることになった。

 盛大な寝坊劇は、朝陽が上がる寸前まで考え抜いた代償なのである。


「……はじめるか」


 パメラを助けるための戦い。その準備が静かに開始された。


****


 要塞都市に潜入するには、厳戒態勢のゲートを通過する必要があった。

 現実的な手段を考えると、都市発行のIDカードをもって入場する他ない。

 だがピコから受け取ったIDは、使えば天使達にバレてしまう。


 よって全く別名義のものを用意する必要があった。


「エリザには、ある探し物を頼みたい」


 仁はすでにエリザへと一枚のメモを渡し、とあるお願いをしていた。


「……これぐらいならすぐ出来るけど、今日中に準備すれば良いかしら?」

「ああ、連絡先と住所まで揃えてくれ。なるべく海外にいるやつがいい」


 内容を確認した彼女は「はいよ」と軽く了承した。それが昨夜の話である。


 翌日の朝、潜伏先の街で仁の策は始まった。


 まず近くの家電量販店に出向く。

 ノートパソコン、フィルムラミネータ、600dpi以上の解像度を持つ昇華型熱転写プリンタとスキャナー、白紙の名刺カードを購入する。


「腕時計もあった方が良いか。しかし高いなあ」


 レジで十万円以上を一度に使い、溜息を零す。

 軍資金は靴底に隠しておいたバイト代から捻出した。

 その後、タクシーを呼んでセーフハウスへと運搬する。


 ハウスに戻ってからは、エリザから借りていた携帯端末をアクセスポイントにし、パソコン上で準備を進める。

 中でもレイヤー機能を備えたフリーの画像編集ソフト。

 これについては入念に吟味してインストールした。


 小腹が空いた頃合いで菓子パンを頬張り、再度外へと出かける。

 彼が次に向かったのは紳士服販売店だった。


「すいません。就職活動用のスーツが一式欲しいのですが」


 店員に告げると、良さそうな物を用意してくれた。

 採寸をやり終わり、ついでに手頃な黒の手提げ鞄も買う。

 そして購入したばかりのスーツを着て、最寄りの駅へと向かった。


 電車をいくつか乗り継ぎ、今度はコスプレグッズ専門店へとやってきた。

 店内はナースやメイド服など、お約束の衣装グッズが並んでいる。


「ふーむ、パメラに一度着せてみたいもんだ」


 アホな感想を漏らしつつ店内を物色する。

 茶色を帯びたコンタクトレンズ、肩パッド、指輪、伊達眼鏡などを探し、試着を繰り返してカゴへと突っ込んだ。


「ええと、次は……写真を撮る際の小道具がいるな」


 両手が塞がりだしていたが、最後にホームセンターへと足を向ける。

 酒瓶を塞ぐためのコルク、脱脂綿、裁断機を手に入れた所で店を後にする。


 以上のような買い物が終わったころには、空は真っ暗になっていた。


「はあ、疲れた疲れた……」


 帰るや否やひどい疲労を覚えた仁は、ベッドに横たわる。

 すると傍らの携帯電話が鳴り、慌てて相棒の呼びかけに応じた。


「はい、あなたの愛には答えられない仁くんです」

『冗談が嫌いなエリザです。言われてた人物は見つけたから、そっちに送るわ』

「ありがてえ。これなら愛人ぐらいには、格上げ出来そうですね」


 ガチャ、と電話は乱暴にも切れてしまう。どうも怒らせてしまったみたいだ。


「何だよ。やっぱ青髪より銀髪だな」


 本人が居れば殴られそうな言葉を吐くと、文書ファイルが端末に送られてきた。

 繁々と画面に目を向け、不備がないことを確認する。


「よーし、あとは練習あるのみだな」


 伸びをしながら、仁は次の工作活動へと気持ちを切り替えた。

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