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暗殺者より愛をこめて  作者: カツ丼王
第三章 暗殺者の覚醒
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15.裏切りと火種

 ナイトクラブの最奥。

 そこでパメラを待ち構えていたのは、秘密情報部の幹部ラグエルだった。


「ラ、ラグエル様!? どうしてここに!?」


 指令を下した本人と出会ったことに、戸惑いを隠せないパメラ。

 しかし目前に立つ彼は焦らず、皺の入った相貌をきつくして見返してきた。


「用件はたった一つだ。君をここで拘束させてもらう」

「は? それはどういう意味ですか?」

「反逆罪の疑いにつき、君を査問会に掛けると言っているのだよ、パメラ」


 不可解なセリフに頭が追い付かないでいると、背後で勢いよく扉が閉まる。

 部屋の奥から、ちらほら見覚えのある人相が姿を見せた。


 全員が情報部員であると分かったところで、彼女は蒼白になった。


「は、反逆罪? 一体どういうことです!?」

「君には悪魔側への機密情報の漏洩、および金品授受の疑いがあるのだ。保安部の長として、そのような行いは看過できない」

「馬鹿な!! 私は悪魔へ与した事などありません!!」


 身に覚えのない容疑を向けられ、必死に抗弁する。

 悪魔と接触を図った覚えなど全くない。

 むしろこれまで、危険を顧みず組織の為に尽くした自負があった。


 だがそんな彼女を見ても、ラグエルはわざとらしく首を横に振るばかり。


「潔白を主張するのなら、査問会で聞こう」


 有無を言わさぬ言葉と共に、背後の部員達が一斉に銃口を向ける。

 向けられた敵意に反応し、咄嗟にマントとデザートイーグルを構えてしまう。

 しまったと思った時にはすでに遅く、彼は好都合だと言わんばかりに口元を歪めた。


「敵対するということは、何か後ろめたい事があるということだな? 残念だ。優秀で真面目な部員だと思っていたのだが」

「……く!!」


 状況をさらにマズいものにしたと判じ、銃口を維持する。

 一人や二人ならば問題ないが、武芸者と噂のラグエルまで相手取るとなると、不利だと言わざるを得ない。


 しかし危険任務をこなしてきた彼女からすれば、今の状況は決して絶体絶命ではない。


「容疑の件に関しては全くの誤解ですし、やり方も不適切だと言わざるを得ません。査問会に掛けると言いますが、私もこのような行動には直訴する所存です」


 罠に掛けたラグエルに対し、毅然とした態度で抵抗の意を述べる。

 当然効果があるなどとは思わなかったが、珍しく彼は笑い声を上げた。


「これを見てもそう言えるかね?」


 言葉と共に背後の扉が開く。

 振り返るとそこにはピコに抱えられ、血にまみれた仁の姿があった。

 息も絶え絶えな彼は両手を縛られ、首筋にナイフを突きつけられている。


「こ、これはどういうことですか!!」


 頭髪を掴んで引っ立てるピコに殺意を抱き、さらに手を引いたであろう男を睨む。

 血走った眼のパメラは目を燦々と赤くさせ、照門をラグエルに合わせた。


 怒りを露わにした彼女に呼応するように、彼も剥き出しの敵意を顔に滲ませる。


「馬脚を見せたなコウモリ風情が! 薄汚い混血の分際で、よくも由緒正しき情報部へとその名を連ねたものだ!」

「――ッ」


 発せられたセリフを聞き、パメラはまるで悲鳴のような銃声を響かせた。


****


 聞き慣れた轟音によって、仁の意識は現実に戻された。


 腫れ上がった瞼を薄っすら開く。

 見ると瞳を真っ赤に染め、見たことない顔をしたパメラが立っていた。

 可愛らしい顔が普段と似つかないだけでなく、身体には鎖のようなものが巻き付けられている。


 彼女は重たい音を響かせ、苦し気に膝をついた。


「……パ、パメラ!? 何だ!? 一体どういうことだ!?」


 鈍痛を無視して辺りを見ると、スーツ姿の人影が取り囲んでいると分かった。

 ナイトクラブの内部と理解した所で、中心に立つ男が口火を切った。


「初めましてだな。私の名はラグエル」


 幹部と聞いていた男は、隙を感じさせない佇まいを見せる。

 彼の袖口からはパメラを縛り上げる鎖が伸びていた。


「お前がパメラを監視していた親玉か!! 何が目的だ!?」


 監視という言葉に反応したラグエルは、感心したような顔になった。


「ほう。脱走を企てたと聞いてはいたが、随分と勘が鋭いな」

「質問に答えろ! じゃないと脳味噌を吹き飛ばすぞ!?」


 目の前でパメラに手を出されたと知り、堰を切ったように罵声を飛ばす。

 ピコに床へと叩きつけられるが、構わず殺意を向け続けた。

 するとラグエルは拳銃を抜き、パメラの眼前で仁に銃口を向けた。


「パメラ。これ以上抵抗するのなら、この少年を殺すぞ?」


 その宣言を目の当たりにし、もがいていたパメラは目に見えて怯んだ。


「正気ですか!? 彼はただの一般人なのですよ!?」

「ついこの間まではな。今や彼を覚えている人間など一人も居ない。居ても居なくても変わりもしない人間を、一般人とは言えないだろう?」

「そうしたのは私達でしょう!? よくも抜け抜けと!!」


 軽んずる発言を無視できないパメラだが、ラグエルは嘲笑で返した。


「私達ではなく、君が全てを奪ったんだ。天使と悪魔から煙たがられ、不吉をまき散らすことしか出来ない薄汚いコウモリ。そんなヤツを助けようとしたばかりに、彼は不幸な末路を辿ることになったのだ」

「テメエ、何を言って――」


 すぐさま反論しようとするも、髪を掴まれて床へと顔面を叩きつけられた。

 鼻が折れたらしく、ついでに口内に血の味が広がった。


「仁くん!!」

「全ては君の心がけ次第。大人しく罪を認め、査問会に応じるのなら彼の命は保証しよう」


 仁を人質に取られたパメラに選択の余地など存在しない。このままではマズい。


「俺を捨てて逃げろ! 今ならまだ――」


 今度は左腕に向かって、パラソルの仕込み刀が牙を剥いた。

 刃を捻じ込められ、ダメだと分かっても悲鳴を抑えられなかった。


「止めてください! 要求通りに従いますから……お願いです!!」


 鎖につながれたまま、彼女はか細い声を絞り出した。

 一人なら逃げることは可能だった。

 彼女の力をもってすれば容易く出来るのに、大人しく拘束されることを受け入れてしまった。


「なんで……」


 戦意を喪失したパメラとは対照的に、内でより一層激しい感情が沸き立つ。


 この状況はおかしい。従う必要なんてない。

 ルールに背いた輩に対して、どうしてそんな態度を取る? 

 秩序を重んじるお前が、なぜそんな奴らに膝を付けるんだ?


「一件落着だな。これで下らない暗殺者、そして我が組織の厄介者を一度に掃除できるというわけだ。肩の荷が下りたよ」


 パメラを貶す言葉に頭が沸騰するが、どうしても体に力が入らない。

 全身に回った毒が原因なのだろうが、戦えない我が身に呪詛を吐くばかり。


 視界の端。

 大人しくなった彼女の頬に、薄っすらと涙が流れるのが見えた。


 彼女のあんな顔なんて、見たくはなかった。

 自分が見たかったのは、あんな沈痛な面持ちの彼女ではなかった。

 ふつふつと説明のつかない感情が、脳髄に沸き上がる。


 銃さえあれば、こいつらなんぞ敵ではない。

 引き金がこの指に掛かっていれば、視界に映る全てを抹殺できる。


(……何だ? 誰だ?)


 意識が途切れる刹那、仁はおかしな囁きを聞いた。

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