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暗殺者より愛をこめて  作者: カツ丼王
第三章 暗殺者の覚醒
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13.壁の外へ

 ソサエティが要塞都市と呼ばれる所以は、結界と分厚い壁によるところが大きい。

 しかしそれにも増して、天使達が敷いた入管ゲートも一端を担っていた。


 壁の内外を行き来するためには、都市が発行するIDカードを提示する必要があり、これはいわゆるパスポートの役割を果たしていた。

 入手には通常の国際パスポートと同様に住民票、戸籍謄本や身分証明書を揃え、審査を受ける必要がある。


 夜七時ごろ。都市外に居る情報提供者に会うため、仁は入管ゲートを訪れていた。


「はい。アンタのIDカードはこれよ」


 ゲート前に至った所で、同伴したピコから仮のIDカードを受け取る。

 IDには仁の顔写真、そして佐藤という別の性が刻まれていた。


「佐藤仁ねえ。本当の俺は一体どこに行ったのやら」

「忠告しとくけど、それを使って逃げようだなんて思わないことね。追跡は簡単にできるし、もちろん使えばすぐに分かるわ」


 ゴスロリ姿のピコは、脱走しないよう念を押す。


「チ、うるせえな。そんな事言われなくても理解してるわ。貧乳だと心が狭くなって、そうやって姑みたいにグチグチ文句を言うものなのか?」

「ああん? 土に埋めるぞ?」


 すごい形相の彼女は、持っていたパラソルで執拗に殴打してきた。

 その後空港のように金属探知機や所持品検査の波を超えて、壁の外へと躍り出た。

 三人は用意されていたジープへと乗り込み、目的地へと向かう。


 到着まで二時間近くかかるということで、しばらく暇が続きそうだった。


「暗殺者シリウスなんだが、具体的にどんなヤベーやつなんだ? 物凄く強いってことしか俺は知らんのだが」


 退屈になった仁は、ドライバーのピコへと話しかけた。


「簡単に言えば、要人暗殺のプロよ。暗殺達成率は100%、どれだけ厳重な警護を敷いても実行し、姿を確認する前に風のように去る超一流」


 情報分析官であるピコは彼の断片情報を語る。

 天使か悪魔か、性別、来歴、その他すべてが闇に包まれ、現場に残されるのは標的を暗殺したという結果だけ。

 唯一特色として判明しているのは、銃弾が紅い弾道を描くという点だった。


「真っ赤な弾丸を使うってこと? それって何か意味あるのか?」

「紅いのはヤツが使う力のせいよ。自由自在に弾丸を捻じ曲げる摩訶不思議な技。夜闇だと紅い弾道が目で追えるらしく、とにかく凄まじい拳銃戦闘術らしいわ」

「はあ……紅い弾丸ねえ」


 狙撃されたことを思い出してしまい、ため息が出る。

 車の窓から外を見ると、ソサエティからは見えなかった星空が見えた。


 空にはオリオン座だけでなく、一際輝く恒星が見える。

 ギリシャ語で「焼き焦がすもの」という意味があるらしいが、なるほど殺し屋にはもってこいだと感じる。


「そういや、見たかった夜空が見えたじゃないか。良かったな」


 後部座席、傍らに座るパメラへと何の気なしに問う。

 これまで静かにしていた彼女は「え?」と何故か驚いた顔になった。


「……ああ、そうですね。きれいな空ですね」

「? あんだけ見たがってたのに、思いのほか興味なしかよ」

「いえ。ここからでも、もちろんきれいな空なのですが……」


 言うものの、外を見る彼女の顔は晴れない。

 どうも都市から見れなければ意味がないらしい。

 仁からすれば意味不明だが、まさに乙女心は複雑怪奇である。


「なによアンタ。天体観測なんて趣味があったの?」


 冷やかすようなピコの台詞に、パメラは目を細めた。


「ただソサエティからの星空がきれいだと耳にしただけです。他意はありません」


 淡々とただ短く返す。どうにもギクシャクした会話だ。

 以前仁を取り合った時もそうだが、二人の間には何やら変な壁があるように思える。


「お前らってさ、仲悪いの?」

「え? そ、そういうわけでは……」


 パメラが言葉を濁すと、ピコが笑いながら答えた。


「悪いかもね。私は別にどうでも良いけど、コイツに少し問題があるのよ」

「は? パメラに?」


 不可解な返事を受けてパメラを見やる。

 彼女はやり辛そうに顔を背けるが、その態度は何か心当たりがあると如実に示していた。

 他人と軋轢を生むような性格ではないはず。

 多少ルールに厳しいきらいはあるが、秘密情報部という特殊な組織にいることを考えれば、不自然とは言えないのだが。


「気になるなら、私が教えてあげようか?」

「ピコ。その話は良いでしょう? 今は任務中です」

「そうね。彼氏さんには話しづらいわよね」


 揶揄するような発言を最後に、車内には嫌な空気が流れた。

 結局そのまま、パメラは窓の外をじっと見るだけで、ピコも口を開かなかった。


「……ま、俺には関係ない話だな」


 仁ははシートに体を預け、不貞寝を始める。

 だが目を閉じても、一瞬見えた彼女の悲痛な顔が、瞼の裏から消えなかった。


****


 要塞都市の壁を越えてから二時間後、一行は近郊の歓楽街へとやって来た。

 向かう先はネオンやLED看板が立ち並ぶ景観の中、若者が犇めきあっているナイトクラブだ。


 耳を塞ぎたくなるような雑音、目を覆いたくなる発色が辺りを埋める。

 予約してある奥の部屋を、パメラは一人で目指していた。


「ラグエル様から紹介された情報提供者だけど、罠を用心してアンタが先に入って。危険がないことを確認してから私達は入るから」


 そう言って車の窓からトランシーバーを寄越されたのが、十分前のことだった。

 戦闘能力を考えればこの役になるのは分かるが、どうにも得心がいかない。

 離れている間に、仁へと何か吹き込まないかという不安があった。


 DJの刻む不可解な音響をBGMにしながら、途中グラスやジョッキを煽っている男達を払い除ける。

 どいつもこいつも馴れ馴れしく、おまけに下卑た目を向けてくるため、歩みを進めるほどに彼女の眼尻は上がっていった。


(まったく男というのは、下半身でしか物を考えないのでしょうか?)


 レザージャケットの下に隠した拳銃を握りつつ、ふとそこで疑問に思った。

 他の男達からは言い寄られても不快でしかないが、仁にそんな気持ちを抱いたことはなかった。

 彼だって下心に満ちた目を向けて来るのに、何故だかそれほど気にしなかった。

 無論、スケベには相応の報いを与えたが。


「……また、余計な事を」


 考えるのは止めよう。

 彼が自分にどういう感情を持っているかなんて、大した問題ではない。

 この身は恩人であるザフキエル、ひいては天使のためにあるのだ。

 向けられるのがたとえ好意であっても、一様に気にするべきではない。


 さっさと仕事を終わらせようと考え、歩みが気付かぬ間に早くなる。

 そして指定されていたVIPルームの前に辿り着いた


 予め示し合わされていたノックを三回行い、応答を待つ。

 だが返事はなかった。もしや自ら入って来い、ということなのだろうか?


 再度同じ動作を行うが反応なく、止むえずパメラは戸を開けた。


「――え?」


 扉を開けた先、待っていたのは予想もしない人物だった。

※IDカード

 要塞都市ソサエティを行き来するための身分証だと考えてください。

 設定ではパスポートと同様に住民票、戸籍謄本、身分証明書を揃えなければ手に入りません。

 個人情報をを喪失した今の仁では入手できないため、壁の内外を行き来することは

 基本的に出来ません(つまりソサエティは外国みたいな扱いとなりますね)

 

 後の話でキーアイテムになるので、ここで触れておきました。

 

 

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